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ロシアがついにHIMARS撃破でウクライナに動揺広がる

ニューズウィーク日本版 2024年3月11日 18時50分

<アメリカがウクライナに供与したHIMARSが、初めてロシア軍に破壊された。ここでもウクライナとロシアのバランスが変わってしまったのか

ロシア軍をさんざん痛い目に合わせてきたアメリカ製のM142高機動ロケット砲システム(俗称HIMARS=ハイマース)。これを撃破するという目標を、ロシア軍は20カ月かけてついに達成したようだ。

【動画】「無敵」のHIMARSが初めてロシア軍のミサイルの餌食になった瞬間

ドネツク州東部のニカノリフカ村(現在の戦線から西に約48キロ、占領されたアウディーイウカとバフムートからほぼ等距離にある)の付近で、ウクライナ軍が保有する39基のHIMARSのうちの1基がロシアの弾道ミサイル攻撃で破壊されたように見える動画が、3月6日に公開された。

 

HIMARSは、ロシアの侵略に対するウクライナの頑強かつ巧妙な抵抗の象徴であり、NATOとウクライナの軍事協力の成功の象徴でもある。2022年6月に実戦配備されて以来、ロシア軍はHIMARSを主要な標的として攻撃を続けてきた。

ロシアはすでに多くのHIMARSを破壊したと主張しており、最近もHIMARS2基を榴散弾で攻撃し、成功寸前までいった例があった。だが、実際に破壊されたのは今回が初めてのようだ。

HIMARSが破壊されたことで、ウクライナは不安を抱いている。ロシア軍の司令部や兵站拠点、兵力集中地など価値の高い標的を攻撃するうえでHIMARSが重要な役割を果たしていたことを考えれば、当然といえば当然のことだ。

弾薬不足のほうが深刻

ウクライナ議会の国家安全保障・防衛・情報委員会のロマン・コステンコ事務局長は、なぜHIMARSが破壊されたか、調査を求めている。

「イスカンデル(ロシア軍の短距離弾道ミサイル)のような弾道ミサイルの照準を合わせるには、かなりの時間がかかるはずだ」と彼はウクライナの代表的なネットメディア、ウクライナ・プラウダに語った。

「なぜこのようなことが起きたのか、専門家に調査させる。HIMARSはウクライナ軍陣地の後方から発射している。だから、敵の諜報機関がHIMARSの位置を探知するために動いているはずだ」

今回の損失は注目を浴びたが、ウクライナ軍のもとにはまだ多くの、作戦行動が可能なHIMARSがある。むしろ、ウクライナにとって急を要する問題は、弾薬が足りるかどうかだ。党派的対立によって行き詰っているアメリカ議会のせいで、あらゆる種類のHIMARS用ロケット弾の供給も止まっている。

今回の損失は、ウクライナとアメリカおよびその同盟国にとって警鐘となるだろう。

「HIMARSがやられたということは、戦争はまだ続いているということだ。だから、われわれは警戒しなければならない」と、ウクライナ保安庁の元将校で、現在はウクライナ議会の国家安全保障・防衛・情報委員会の顧問を務めるイヴァン・ストゥパクは本誌に語った。

今回の攻撃は高高度対応ドローンの支援を受けて行われたようだ。

「これはひとつには、ロシア軍の能力を示すものだが、他方ではウクライナ側に高度なレーダーステーションがないことを示すものでもある」と、ストゥパクは語る。「また、地上部隊の安全を守るための対空システムも不足している」

 

「その証拠に、ときおり、ロシアの物体認識機能付きドローンがウクライナ領土の内側50キロ地点を飛行しているところを目撃することがある」と、彼は付け加えた。

ロシアの軍事アナリストでフレッチャー法律外交大学院客員研究員パベル・ルジンは、最も注目すべきは、ロシア軍が初めてHIMARSを破壊するまでに、非常に長い時間がかかったということだと語る。

「これほど長い間、HIMARSが無事だったことこそ興味深い。すばらしい成果だ。ロシアは同じ時期に何百基ものMLRS(多連装ロケットシステム)と何千発もの榴弾砲を失った」

「ロシア軍の運のなさが大きかったと思う」と、ルジンは付け加えた。「もちろん、ウクライナ人が創造性に富み、ロシア軍にとって貴重なものを破壊するためにはリスクも冒す、という長所もある」。

米国防総省はそれほど心配しないだろう、と、ルジンは示唆した。「それに、ウクライナ側もより強固にHIMARSを守る方法を学んでいる」


デービッド・ブレナン

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