<極右のミレイ大統領就任から2カ月でインフレ率は250%を突破した一方、外貨準備は増加。国民の困窮はさらに悪化しているが...>
先日の夕方、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス郊外の公園で、28歳のミカエラ・マルダノは毛布を敷いて古着やマテ茶を入れる壺などを並べ始めた。食べ物と物々交換するためだ。食料品はどんどん手に入りにくくなっていると、彼女は話す。「肉なんてずっと口にしていない」
彼女だけではない。2023年は200%超のハイパーインフレで幕を閉じたこの国では今、物々交換などの手段で食料を確保しようとする人たちが大勢いる。長らく経済危機にあえいできたアルゼンチンだが、昨年12月に極右のハビエル・ミレイが大統領に就任してから貧しい人たちの生活は一層厳しくなった。
ミレイは大統領就任早々、通貨ペソを50%以上切り下げた。そのため既に制御不能だったインフレがさらに悪化。政府の公式データでは、ガソリンの価格は約2倍、食料品の価格も約50%跳ね上がった。
ミレイ就任から2カ月ほどで、インフレ率は前年同月比250%を突破し、ベネズエラを抜いて中南米トップを走っている。
選挙戦中にチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切るとわめいていたミレイは、約束どおり公共サービスの補助金を大幅カットしている。
「政界のアウトサイダー」として国民の期待を集めたこともあり、選挙戦中にはさらに過激な政策を掲げていた。中央銀行の廃止や米ドルを法定通貨にすることなどだ。しかし就任後にはさすがにこれらをゴリ押しせず、比較的穏当な政策を打ち出した。長年にわたり累積した財政赤字を予算削減と増税で減らすというものだ。ミレイはこれを「ショック療法」と呼んでいる。
ドルの外貨準備は増加
だが今のアルゼンチンの平均的な家計の「体力」では、このショックに耐えられそうにない。昨年の終わり頃には国民の購買力が毎月14%ずつ低下していく状況になった。
アルゼンチン・カトリック大学の調査チームによると、この国の貧困率は2022年末には43.1%で、ミレイが就任した昨年12月時点では49.5%だったが、今年1月には57%を超えたとみられる。
とはいえミレイの戦略はマクロ経済の指標を上向かせてもいる。ペソ切り下げで輸入品の価格が上昇したため輸入量が減り、貿易支出は低下。おかげでキャッシュ不足にあえぐ中銀は減る一方だったドルの外貨準備を多少増やせた。政府は1月、一時的ながらも財政が黒字に転じたと発表。1月のインフレ率の前月比は20.6%と高率だったが、それでも昨年12月の25.5%に比べれば改善した。
一方で、緊縮財政は景気後退を一段と加速させると専門家は警告する。国際金融協会(IIF)の予測では、今年第1四半期のアルゼンチン経済の成長率はマイナス7.8%。IMFは年率でマイナス2.8%と予測している。
こうした状況でもミレイは世論調査で52%と高支持率を保っているが、国民がどこまで耐乏生活を受け入れるかは疑問だ。1月下旬には主要労働組合が緊縮財政に抗議してゼネストを決行。物価の高騰は治安の悪化を招き、各地で集団略奪が多発している。
物々交換で食べ物にありつくこともできなくなるかもしれないと、マルダノの不安は募る一方だ。
From Foreign Policy Magazine
ラウタロ・グリンスパン
先日の夕方、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス郊外の公園で、28歳のミカエラ・マルダノは毛布を敷いて古着やマテ茶を入れる壺などを並べ始めた。食べ物と物々交換するためだ。食料品はどんどん手に入りにくくなっていると、彼女は話す。「肉なんてずっと口にしていない」
彼女だけではない。2023年は200%超のハイパーインフレで幕を閉じたこの国では今、物々交換などの手段で食料を確保しようとする人たちが大勢いる。長らく経済危機にあえいできたアルゼンチンだが、昨年12月に極右のハビエル・ミレイが大統領に就任してから貧しい人たちの生活は一層厳しくなった。
ミレイは大統領就任早々、通貨ペソを50%以上切り下げた。そのため既に制御不能だったインフレがさらに悪化。政府の公式データでは、ガソリンの価格は約2倍、食料品の価格も約50%跳ね上がった。
ミレイ就任から2カ月ほどで、インフレ率は前年同月比250%を突破し、ベネズエラを抜いて中南米トップを走っている。
選挙戦中にチェーンソーを振り回して公的支出をぶった切るとわめいていたミレイは、約束どおり公共サービスの補助金を大幅カットしている。
「政界のアウトサイダー」として国民の期待を集めたこともあり、選挙戦中にはさらに過激な政策を掲げていた。中央銀行の廃止や米ドルを法定通貨にすることなどだ。しかし就任後にはさすがにこれらをゴリ押しせず、比較的穏当な政策を打ち出した。長年にわたり累積した財政赤字を予算削減と増税で減らすというものだ。ミレイはこれを「ショック療法」と呼んでいる。
ドルの外貨準備は増加
だが今のアルゼンチンの平均的な家計の「体力」では、このショックに耐えられそうにない。昨年の終わり頃には国民の購買力が毎月14%ずつ低下していく状況になった。
アルゼンチン・カトリック大学の調査チームによると、この国の貧困率は2022年末には43.1%で、ミレイが就任した昨年12月時点では49.5%だったが、今年1月には57%を超えたとみられる。
とはいえミレイの戦略はマクロ経済の指標を上向かせてもいる。ペソ切り下げで輸入品の価格が上昇したため輸入量が減り、貿易支出は低下。おかげでキャッシュ不足にあえぐ中銀は減る一方だったドルの外貨準備を多少増やせた。政府は1月、一時的ながらも財政が黒字に転じたと発表。1月のインフレ率の前月比は20.6%と高率だったが、それでも昨年12月の25.5%に比べれば改善した。
一方で、緊縮財政は景気後退を一段と加速させると専門家は警告する。国際金融協会(IIF)の予測では、今年第1四半期のアルゼンチン経済の成長率はマイナス7.8%。IMFは年率でマイナス2.8%と予測している。
こうした状況でもミレイは世論調査で52%と高支持率を保っているが、国民がどこまで耐乏生活を受け入れるかは疑問だ。1月下旬には主要労働組合が緊縮財政に抗議してゼネストを決行。物価の高騰は治安の悪化を招き、各地で集団略奪が多発している。
物々交換で食べ物にありつくこともできなくなるかもしれないと、マルダノの不安は募る一方だ。
From Foreign Policy Magazine
ラウタロ・グリンスパン