Infoseek 楽天

ローマ時代の生活史に新発見!?1700年前の「世界最古の卵」がイギリスで見つかった

ニューズウィーク日本版 2024年3月14日 15時24分

<人工的な保存なしに原形を損わず保たれていた世界最古の卵と思われるものが、イングランドで見つかった。殻の中に卵黄と卵白の残骸も確認されて、考古学に新たな可能性を切り開く>

ここから古代ローマ人がニワトリなどの鳥をどう飼育していたかが分かるかもしれない。

卵が発掘されたのは、英南東部バッキンガムシャーのベリーフィールズ遺跡。ここで考古学者らは、水の満たされた穴を見つけた。

イギリスがローマ帝国の一部だった3世紀後半のものとみられ、中には陶器や硬貨、革靴、動物の骨、そしてニワトリのものと思われる卵の入った木製の籠があった。

「イギリスでは実に珍しい発見」と、発掘に携わる考古学団体オックスフォード・アーキオロジー(OA)のエドワード・ビダルフは言う。

「穴は、麦芽の製造やビールの醸造に用いる水を採取するのに使われていた。卵が保たれていたのは、軟らかく湿った泥に埋まっていたため。この泥は卵の損傷を防いだだけでなく、中身を腐敗させる細菌の働きを抑えた可能性がある」

ビダルフによれば、ローマ時代の街道に面するこの地に住んでいた人々は、やがて穴を儀礼的な意味合いで使い始めた。神にささげるため、あるいは幸運を祈るために、硬貨や陶器の壺を穴に入れるようになった。

卵もこの目的で入れられたとみられる。

卵についてさらに詳しく調べるため、OAの保存修復士デーナ・グッドバーンブラウンは、ケント大学の古人類学者クリス・ダンモアの元に卵を持っていった。

卵をマイクロCTスキャンにかけたところ、中は液体で満たされ、気泡があることが分かった。

「液体は卵黄と卵白の残骸だと思われる。無傷で残った卵と一緒に発見されたほかの2つの卵が空気に触れて割れたとき、硫黄の臭いのする液体が出たから、卵の中には元の内容物が残っていたのだろう」と、ビダルフは言う。

古代鳥類の研究を広げる

OAはその後、卵をロンドンの自然史博物館に運び、鳥の卵や巣を専門とする学芸員のダグラス・ラッセルと保存修復士のアリアンナ・ベルヌッチに相談した。

卵を見た2人は「非常に興奮していた」と、ビダルフは言う。

ビダルフによれば、ラッセルは「人が介入することなく保たれた世界最古の鳥の卵だと考えている」という。

「もっと古いミイラ化した卵はあるが、ベリーフィールズの卵は全く特別。通常、これほど古いものが無傷で残っていることは考えられない」

卵が入っていた籠を清掃する調査員 ©OXFORD ARCHAEOLOGY

この卵は今後の研究にとてつもない可能性をもたらすと、ビダルフは語る。

「古代の鳥類の研究では、分析に使えるのは鳥の骨くらいで、卵の殻の断片さえ手に入ることは珍しい。そこへ古い卵の中身が利用できることになれば、研究の幅は格段に広がる」

研究者は、卵がどの種の鳥のものかも突き止めたいと考えている。

もし分かれば、その鳥と、生息していた当時の環境について知るのに役立つ可能性がある。

「考古学にとって、この卵は実に重要だ。ローマ時代の世界で鳥やニワトリがどう使われていたかについて、データが得られる可能性がある」と、ビダルフは言う。

「何しろ、いま分かっていることはほとんどないから」

英南東部バッキンガムシャーでの大発見



アリストス・ジョージャウ(本誌科学担当)

この記事の関連ニュース