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過去30年で日本の格差は危険なレベルにまで拡大した

ニューズウィーク日本版 2024年3月21日 16時0分

<富の格差の度合いを測る「ジニ係数」を見ると、今の日本の格差は許容範囲を超えている>

日本は格差社会になりつつあるというが、富の格差の度合いを測る指標として「ジニ係数」がある。人々の暮らしの格差を測るには、個人の収入よりも生計の単位である世帯収入のデータで計算するほうがいい。

2022年の総務省『就業構造基本調査』によると、年収が分かるのは5463万世帯。うち年収200万円台が811万世帯と最も多く、300万円未満の世帯が全体の3分の1を占める。これは世帯の単身化や高齢化が進んでいることによる。年金で暮らす高齢世帯だと100万円台、いや2桁もザラだ。

ここで計算するジニ係数は、各階層の世帯数と、各階層の収入総額の分布のズレを数値化するものだ。「世帯数では●%でしかない富裕層が、富全体の▲%を占有している」といった現実を可視化する。各階層が手にする富(収入総額)は、階級値を使って算出する。年収200万円台の世帯の年収は、一律に中間の250万円とみなす。この階層の世帯数は811万世帯なので、収入の総額は250万円×811万世帯=20兆2638億円となる。

<表1>は同じやり方で、14の階層の世帯数と、各々が手にする富量を割り出したものだ。

真ん中の相対度数を見ると、年収300円未満の世帯(①~③)は世帯数では36%を占めるが、得ている富は全体の12%でしかない(黄色)。一方、世帯数では11%しかいない年収1000万円以上の層(⑪~⑭)が、富全体の31%を得ている(青色)。

当然ながら、社会の富は均等には配分されていない。問題は、これが許容範囲であるかどうかだ。世帯数と富量の分布のズレは、右欄の累積相対度数をグラフにすることで可視化される。横軸に前者、縦軸に後者をとった座標上に、14の階層のドットを配置して線でつなぐと<図1>のようになる。この曲線をローレンツ曲線という。

曲線の底が深いほど、各階層の世帯数と富量の分布の隔たり、すなわち収入格差が大きいことになる。ジニ係数は色付きの面積を2倍した値だ。極限の不平等状態の場合、色部分は四角形の半分となるので、ジニ係数は0.5を2倍して1.0となる。逆に完全平等の場合、曲線は対角線と重なるのでジニ係数は0.0となる。現実の不平等は、この両端の間のどこかに位置する。

上図の場合、色部分の面積は0.2087なので、ジニ係数はこれを2倍して0.4174となる。一般にジニ係数が0.4を超えると、常軌を逸して格差が大きいと判断される。よって今の日本の世帯収入格差は、許容範囲を超えていることになる。

同じ方法で1992年の世帯収入ジニ係数を計算すると0.3790で、この30年間で格差が広がっていることが分かる。47都道府県別の数値も計算し、危険水域(0.4)を超えた県に色を付けた地図にすると<図2>のようになる。

左右の地図の違いが大きい。1992年では世帯収入ジニ係数が0.4を超える県は10県だったが、2022年では大半の県が危険色に染まってしまっている。「失われた30年」における格差社会化の進行だ。2022年で最も高いのは高知県で0.4456となっている。

世帯の単身化・高齢化も背景にはあるが、それだけではないだろう。各県のジニ係数は、単身世帯や高齢世帯の割合とは相関していない。単身世帯の増加とて、結婚して家庭を持てない者の増加という、貧困の文脈でとらえることもできる。持てる者と持たざる者の格差が広がっていることは、多くの人が肌で感じているはずだ。

政府の役割は、所得の再分配によってこうした格差を是正することだ。相次ぐ増税で、国の税収は過去最高になっているが、近年の内訳を見ると、所得税や法人税よりも消費税が多くなっている。税金には累進性を持たせるべきであって、その逆のことをしている場合ではない。

<資料:総務省『就業構造基本調査』>

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舞田敏彦(教育社会学者)

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