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多様性の名の下で忘れ去られる「白人男性」...彼らもまた支援が必要ではないか?

ニューズウィーク日本版 2024年3月29日 19時30分

<支配者の白人男性も実は大半が孤独。彼らの「帰属体験」が社会を変える>

昨今のDEI(ダイバーシティ〔多様性〕・エクイティ〔公平性〕・インクルージョン〔包摂性〕)を推進する取り組みの中で「不在」が目立つ存在──それが白人男性だ。

ある調査によれば、DEIをめぐる取り組みや議論は関係がないと感じている白人男性は68%に上る。自分たちの存在が問題と見なされていると感じる人もいる。さらに白人男性の64%は、社会的少数者である同僚との会話で率直な発言ができないと感じているという。

一方、白人男性は公共部門でも民間部門でも、権力者として強い存在感を示している。本物の変化を起こすには、彼らを有意義な形で議論に引き込むことが欠かせない。

米大手企業S&P100社の経営幹部533人のうち、白人男性は70%。アメリカの人口に白人男性が占める割合は約30%だが、選挙で選ばれる公職者の62%が白人男性だ。

変化をもたらす上で最も大きな影響力の一部を手にする集団が、変化をめぐる議論に最も欠けているのだ。より公平な世界の実現に向けた対話に加わるよう、彼らを促すにはどうすべきか。筆者らの現場体験や社会学が示すように、強力な出発点になるのが白人男性自身の「ビロンギング(帰属)」体験だ。

「もろい自分」でいられる場所

筆者2人はそれぞれ、この問題に異なる立場で取り組んでいる。ゾーイ・スペンサーハリスはバージニア州立大学所属の研究者で、社会活動家の黒人女性。ロン・カルッチは、自らの肌の色と性別だけを理由に享受してきた特権が、他者に不利をもたらしている構図を理解しようと努める企業経営者の白人男性だ。

自分が属する枠組みの中で、自分と同じ人々と抑圧について研究してきたスペンサーハリスは、白人男性と協力することになるとは思ってもみなかった。抑圧の仕組みの文化的理解は完璧だと考えていたが、白人男性の視点から問題を探ろうとしたとき、全く未知の領域だと気付いた。

私たちはどちらも、白人ではない人々が経験する度を超えた排除やマイクロアグレッション(無自覚の差別)、機会の制限について理解しようと長い時間を費やしてきた。とりわけ関心を持っているのが、特権の不平等性の存続に、白人男性が(大抵は無意識に)果たしている役割、より公平な世界をつくる上で彼らが果たせるはずの巨大な役割だ。

写真はWMRJのダレン・サドマン DARREN SUDMAN

私たちが出会ったのは3年前。重要な社会的実験であり、コミュニティーとしても機能する活動団体に、カルッチがメンバーとして、スペンサーハリスが顧問として加わったのがきっかけだ。

今は「人種平等を支持する白人男性(WMRJ)」という名のこの団体には創設以来、アメリカ各地の白人男性400人以上が参加している。活動の焦点は、週単位のカリキュラムやコミュニティー体験を通じた学習と、知識の問い直しを目的とする学習解除。団体が誕生した背景には、2つの重要な前提がある。

第1に、非白人の人々は白人、特に白人男性に「やるべきことをやる」よう求めてきた。啓発という重荷を非白人に押し付けず、白人男性ならではの特権や権力について自ら時間をかけて学んでほしい、と。

第2に、白人男性が自身の生活や体験を進んで検証し、人種差別が構造化した社会制度に必要な変化について考えるには、同じ問題に関心を抱く白人男性の仲間と一緒に取り組むことが、より効果的だ。

DEIの文脈では、「ビロンギング」は時に、少数派がより大きな集団の中に存在可能であるという意味でしかない。だが実際には、この言葉の定義は、ジェンダーや人種的アイデンティティーに左右される。帰属意識は社会的アイデンティティーと密接に結び付いていると考えるよう、私たちは条件付けられ、帰属意識の強化を求めて自分と同様の人々に目を向ける。

しかし帰属意識とは、誰かが誰かに「行う」ものではない。排除されがちな人々を受け入れることは行動として可能だが、それだけで包摂性は実現しない。多くの場合、そうした行為は「お情け」と感じられ、当然ながら帰属感は生まれない。

真の帰属意識とは、条件を問わない人間同士の深い絆だ。自己検閲も、話す内容や話し方を変える必要も、迎合する必要も感じずに、安心して「もろい自分」でいられる。階層やジェンダー、人種の相違がそれほど問題にならず、尊厳や思いやりが当たり前のことになる。それは純粋なつながりであり、誰かのためにではなく、誰かと共につくり出すものだ。

ジェンダーに対する固定観念では、男性は理性的で論理的で、強い存在とされる。その結果、傷つきやすさや感情表現が社会的に許されない。

そのせいで、白人男性は孤立し、近年ではメンタルヘルスの問題が急増している。一方、多くの人は富や地位、権力を握り続ける彼らに共感するどころか、少数派をめぐる対話に招き入れる気にもなれない。だが真の意味での帰属意識と切り離せない「弱さ」を、白人男性が受け入れることをより難しくしているのは、こうした文化規範だ。

WMRJのガーショム  ADRIAN GERSHOM

公平性や包摂性の議論に効果的な形で加わり、より深い絆を築きたいと、白人男性が望むなら? まず、自分の社会的位置付けを問い直すべきだ。白人であり、男性であることの意味を定義する上で根拠にしている考え方は何か。意識的、または無意識的にどんな信念を抱いているか。

「白人男性にとって、男らしさとは自立自存を意味する」と、マーケティングコンサルタントで、WMRJのメンバーであるエイドリアン・ガーショムは言う。「誰かに依存することは弱さの表れと考えて、帰属する機会を自ら奪っている」

実際には白人男性も、自分には実力がないとか、失敗したり期待に応えられないのではといった不安に苦しんでいる。そしてその反動で、見た目も発言も自信にあふれていて、成功しているように見えなくてはいけないという強迫観念に駆られ、他者との関わりを拒絶してしまう。

非白人社会が羨ましい?

このようなときは、自分が疎外された経験を思い出すべきだ。白人男性の経験など、歴史的に疎外されてきた集団の経験と比べれば取るに足らないものだが、自分の経験を振り返ることで、そうした経験を日常的にしている人たちへの共感や思いやりが大幅に増すはずだ。

例えば、学校でいじめられたり、入りたかったクラブへの入部を認められなかったことはないか。仲間外れに遭った経験でもいい。どんな気持ちになっただろう。どう対処しただろう。そんな気持ちに毎日させられることを想像できるだろうか。

たとえ帰属場所が見つからなくても、帰属意識らしきものを得られる場所を見つけることはできる。「私の場合、帰属意識は共通の経験から得られるものであって、誰かとつながりたいからといって得られるものではない」と、ガーショムは語る。帰属意識とは「教会やスポーツや社会活動など、誰かと何かを一緒にやることで生まれるものだ」。

「あるとき自分が、白人男性の特権を持たない人たちの帰属場所を羨ましいと思っていることに気付いた」と、ガーショムは言う。「彼らには互いをサポートしたり、共通の目的のために協力したりする文化がある。私はそうしたものを切望していたが、それを得られる場所がなかった」

こうした満たされない欲求を満たすため富や成功を築くことに夢中になっていないか。自分の意思を強引に押し通していないか。むなしさを忘れるため薬物に頼っていないか。

実際には白人男性も期待に応えられないのではないかという不安を抱き、そのために他者との関わりを拒絶することがある BOGGY22/ISTOCK

誤解される不安を克服することも重要だ。多くの白人男性が公平性や多様性、人種差別について話すことを恐れていると語る。自分が「悪者」に見られたり、自分の関心が偽善的と見なされ、救世主のつもりかと非難されるのを怖がる。

確かにそういうことはあるかもしれない。しかし難しい問題について本音で語れる場を見つけて、自分や世界について多くの発見を得られる恩恵と比べれば、そのような誤解など大したことではない。

WMRJのメンバーのダレン・サドマンは、生後3カ月の息子が突然死したのを機に、乳児突然死症候群(SIDS)の啓蒙活動を行うNPOを設立した。「確かに昔は、この活動をしていることについて、どう思われるか不安だった」と彼は語る。

全ての人が平等な世界へ

「私は昔から、誰かがのけ者にされているのを見ると、とても嫌な気持ちがした。それなのに、そうした価値観を生きる場がなかった。それが今は、好奇心旺盛で、思いやりがあり、居心地の悪い思いをすることを恐れない仲間を見つけた。気まずい思いをすることを受け入れれば、帰属意識と、これまで感じたことのない深いつながりを得られる」

「帰属とはどういうことかを知るまでは、何かに帰属しないことがいかに恐ろしいか、そして自分が他人の帰属をいかに妨げているか、気付かなかった。でも今は、排除されてきた人たち、特に私が排除してきた人たちに対して、もっと共感と思いやりを持てるようになった」

自分が所属する会社や学校や組織が、歴史的に疎外されてきた集団のためにチャンスを設けることに、憤りを覚える白人男性は少なくない。それは自分たちのチャンスを犠牲にしてつくられていると感じるのだ。

だが、よく目を凝らすと、そこで是正されようとしているのは、それまでほとんどの機会がまず白人男性に与えられてきた事実であることが分かる。彼らが喪失感を覚えるのは理解できる。しかし長い目で見れば、それは全ての人にとって平等な世界に至るための一歩なのだ。そこには白人男性も含まれている。

人種的不平等は、あらゆる人を非人間的に扱うことだ。そのピラミッドの頂点にいるからといって、白人男性が制度的な人種差別のダメージを避けられるわけではない。競争のフィールドを平坦にする努力を早く始めるほど、公平性という果実を早く享受することができる。

歴史的に疎外されてきた集団に属する人の中には、なぜこの期に及んでも、伝統的に社会を支配し、動かしてきた人たちを議論の中心に据えるのかと、私たちの姿勢を疑問視する声もあるだろう。

だが真の革命は、抑圧者と被抑圧者の立場を入れ替えることでは生まれない。帰属と愛によって、あらゆる人が人種差別や家父長制から解放されたときに起こる。だから恒久的な変化を実現するには、白人男性の愛と帰属に目を向ける必要がある。

帰属は、深く人間的な経験だ。それが本物であるとき、私たちは真の思いやりと共感を持って他者に心を開くことができる。白人男性がこの経験をすれば、その影響力のある立場を利用して、全ての人が心から帰属できる場所をつくるために立ち上がることができるはずだ。

<本誌2024年2月27日号掲載>



ロン・カルッチ(米コンサルティング会社ナバレント共同創業者)、ゾーイ・スペンサーハリス(米バージニア州立大学社会学・刑事法学助教)

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