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ハマステロ関与の国連組織への「資金拠出」再開へ...「ちょろすぎる」日本が見落とすガザ問題の根深さ

ニューズウィーク日本版 2024年3月30日 15時38分

<UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)のラザリーニ事務局長と会談した上川外相は資金拠出再開の方針を示したが>

上川陽子外務大臣が3月28日、日本を訪れているUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)のフィリップ・ラザリーニ事務局長と外務省で会談した。

UNRWAをめぐっては、パレスチナ自治区ガザのUNRWA職員の約12人が10月7日に発生したイスラエルへの大規模テロ攻撃に関与していたことで、各国政府が同組織への資金提供を停止している。停止したのは、アメリカ、オランダ、オーストラリア、オーストリア、カナダ、イギリス、ドイツ、イタリア、スイス、フィンランドなどだ。

だが NHKの記事は、上川大臣は「停止している資金拠出の再開に向けて最終調整を行う方針」だと報じている。もちろん、ガザで起きている人道危機は深刻で、市民にとって外国からの支援が不可欠なのはわかる。ただUNRWAへの資金拠出再開は時期尚早ではないだろうか。

筆者は先月、イスラエルでガザ地区の近くのテロ現場などを訪問し、現地取材を行なった。その際に数多くの関係者に話を聞く中で、パレスチナ武装組織のハマスやパレスチナ・イスラミック・ジハード(PIJ)のテロリストらが、UNRWAに深く入り込んでいるという実態を耳にしている。

そもそも、UNRWAは、ガザ地区で1万3000人ほどを雇用していた。そして地元の学校や医療機関、社会福祉サービス組織などを運営し、地元の人たちを人道的に援助する組織として、日本や欧米諸国から11億ドル(約1700億円)以上の支援金を受け取っていた。にもかかわらず、その人命を救うはずの組織に、テロで無実の人の命を奪うテロリストが数多く混じっていたのである。

「UNRWA職員の450人以上が軍事作戦に関与」

イスラエル軍のダニエル・ハガリ海軍少将は、「ガザのUNRWAで働いていた職員のうち、450人以上が軍事作戦に関与していた。これは組織的で系統的なものであり、『われわれは知らなかった』と言い逃れできるものではない」と語っている。

またイスラエルの国連大使ギラッド・エルダンも「ガザでは、国連自体がテロ組織なのです」と、国連の総会で発言している。

こうした事実を受けて、UNRWAへの最大資金拠出国だったアメリカも3月23日に、今後1年間におよぶ資金提供停止を議会で可決して、ジョー・バイデン大統領がその法案に署名したところだった。

アメリカの政府関係者は、「ハマスのメンバーは、UNRWAが活動を行うすべての部門で重要なポジションに就いている。イスラエルに対するテロ活動に積極的に関与し、10月7日のイスラエルへのテロ攻撃に積極的に参加していた者もいる」と語る。さらにその事実を、UNRWAも認識していると言う。

筆者が入手した西側情報当局などが関わった今回のハマスのテロに関する報告書によれば、10月7日の大規模テロに参加していたメンバーで、UNRWAが雇っていたテロリストたちは、「ソーシャルワーカー」「学校の校長」「副校長」「小学校教師」「算数教師」「アラビア語教師」「学校のカウンセラー」「ヘルスセンター職員」などだ。

ガザの教科書に書かれた過激な記述「爆弾ベルトを付けてユダヤ人の戦車に火をつけろ」

そしてUNRWAの1万3000人の職員のうち、2100人以上がハマスのメンバーだったと、この報告書は指摘する。UNRWAの実に17%がハマスのメンバーということになり、さらに、先に述べたイスラエル軍のハガリ海軍少将の指摘のように、2100人とは別の約480人が戦闘員だったという。

UNRWA本部もハマスの地下トンネル網に繋がっていた

しかもハマスの組織内でも要職に就いている者も多く、その多くが学校の校長などの表の顔をもっていたことが判明している。そんなことから、学校自体が、ハマスの地下トンネルの一部に繋がっていたケースもある。つまり、国連職員の顔をしながら学校を仕切り、学校自体をテロ組織の隠れ家や武器などを保管する倉庫のように使っていたと見られている。

UNRWAの本部自体も、ハマスの地下トンネル網に繋がっていた。そう考えると、UNRWAが何も知らなかったという言い訳は通らないだろう。そして一部の職員らを追放したところで、UNRWAには深くハマスのメンバーなどが浸透しているため、状況が変わるとは思えない。ガザでは過激派テロ組織が、非常に根深く国連の人道支援組織に浸透しているのである。

さらに筆者は、イスラエル政府が2011年と2012年に、UNRWAに提供した公式文書を入手した。そこには、UNRWAが当時の時点で雇っていたと判明していたハマスのメンバー10人以上の名前や個人情報が記載されている。

ところが、UNRWAは当時、この書簡に無視を決め込んで、何ら対処をしなかった。当時、きちんと対処していれば、2023年10月のテロや、その後のイスラエルによる報復攻撃も起きなかったかもしれない。つまり、多くの命が失われることを避けられたかもしれない。また多額の援助で行われていたガザ市民のための人道支援が武装勢力に悪用されることもなかっただろう。

岸田文雄首相や上川大臣がこうした現地の実態をどれだけ知らされているのかは不明だが、今のまま資金の拠出を再開するのはテロ組織を助長するだけだと言わざるを得ないだろう。ハマスに資金が流れ、また組織力を強化する可能性もある。それはアメリカ議会や、ガザ住民の苦境を非常に気にかけているバイデン大統領ですらわかっている。だからこそ、1年間の資金提供停止を決めたのである。

3月28日、スペイン軍は、ヨルダンやEU(欧州連合)の協力で、26トンの人道支援物資を投下した。実はアメリカやフランス、ドイツも、上空から人道支援物資の投下を行なっている。まだテロ組織に浸透されているという状況がどのように改善したのかはっきりとわからず、自浄作用が機能しているかどうかわからないUNRWAに資金を提供するよりも、別の手段でガザ市民を支援するほうがいいのではないだろうか。

ガザの教科書に書かれた過激な記述「爆弾ベルトを付けてユダヤ人の戦車に火をつけろ」


山田敏弘(国際ジャーナリスト)

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