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イラン公館空爆で革命防衛隊の最強司令官が死亡、イスラエルの仕業ならヒズボラとの全面戦争に発展も

ニューズウィーク日本版 2024年4月2日 18時24分

<今回の攻撃は、イラン革命防衛隊の大物司令官ザヘディを標的とした点、外交関連施設を狙った点などから異例の大胆不敵さで行われた。最悪の場合は、報復を誓うイランの最強の代理人ヒズボラとイスラエルの全面戦争に発展しかねない>

イラン国営メディアは4月1日、シリアにあるイラン大使館領事部の建物がイスラエルによる攻撃を受けたと報じた。ガザ地区でイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くなか、ハマスを支援するイランとイスラエルとの対立も深まっており、今回の攻撃は事態を大幅にエスカレートさせかねない。

【動画】ダマスカス攻撃と死んだザヘディ

イスラエルはこれまでも、イランの軍幹部をはじめ、レバノンのヒズボラやガザ地区のハマスなどイランが支援する民兵組織を標的とした攻撃を行ってきた。だが今回の攻撃は、これまでの攻撃とは主に2つの違いがあり、イランやその代理勢力によって中東に新たな暴力の波や流血の事態がもたらされる可能性を示している。

 

第一は「標的」だ。今回の空爆で死亡したモハンマド・レザ・ザヘディ准将は、イラン革命防衛隊の対外工作部門「コッズ部隊」の司令官だった。また革命防衛隊の声明によれば、攻撃ではほかにザヘディの副官を含む6人が死亡した。

革命防衛隊にとってザヘディの死は、2020年に同じくコッズ部隊の司令官だったガセム・ソレイマニが米軍の空爆によって死亡して以来の大きな敗北だ。ザヘディはイスラエルが2023年10月7日にハマスの襲撃を受けて以降に殺害したイスラエルの当局者の中で最も高位の人物だ。

殺害されたイラン革命防衛隊の司令官ザヘディ准将(左) Al Jazeera English/YouTube

外交関連施設への攻撃が持つ意味

米シンクタンク「中東問題研究所」の対テロ専門家であるチャールズ・リスターは、「ザヘディはとてつもなく大きな権力を持つ人物だった」と指摘し、「彼は何年も前から、革命防衛隊とコッズ部隊がシリアとレバノンで行うあらゆる活動を指揮してきた」と説明した。これらの活動には、今や世界で最も重武装の非国家勢力と考えられているヒズボラへの武器の密輸も含まれる。

第二の違いは、攻撃が行われた場所だ。今回の空爆は、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館に隣接する領事部の建物を標的とし、空爆によって建物は全壊した。当局者やアナリストによれば、この建物はイラン革命防衛隊のシリア国内の司令センターとして使われていた。

大使館ではなかったとはいえ、在外公館の関連施設に対する攻撃は、事態を大幅にエスカレートさせる可能性がある。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校バークル国際関係センターの中東専門家であるダリア・ダッサ・ケイは、「外交関連施設は、外国の主権空間と見なされている。外交関連施設への攻撃は、その国そのものに対する攻撃のようなものだ」と指摘し、さらにこう続けた。「だからこそ今回の攻撃は、事態を一変させる可能性がある」

イランからすれば、彼らは今回の攻撃で重要な司令官を、しかも「主権区域」への攻撃によって失ったことになる(イランやその代理勢力も他国の外交関連施設に攻撃を行ったことはあるが)。

リスターは「今後イランが強硬な対応を取ることは間違いないだろう」と述べた。

今回の攻撃は、既にイスラエルとハマスの戦争で混乱している中東地域をさらに揺るがすニュースだ。イラクのフアド・フセイン外相は3月に米ワシントンを訪問した際に、「中東地域は砲火に見舞われており、全てのことがガザで起きている戦闘と密接に関係している」と述べ、「きわめて危険な状態だ」との見方を示していた。

 

イラン政府は今回の攻撃を受けてすぐ、攻撃はイスラエルによるものだと非難し報復を誓ったが、意外なことに、報復がどのようなものになるのかについては触れなかった。イラン外務省のナセル・カナニ報道官は声明で、イランには「今回の攻撃への対応を実行する権利があり、今後、侵略者に対してどのような対応をするかを決定する」と述べた。

米軍関連施設攻撃の可能性も

過去の例から考えられる「対応」には、直接的なものと間接的なものがある。直接的な対応には、イスラエルに対するミサイル攻撃など、イスラエルとイランをより直接戦争に近づける行動がある。より間接的な対応には、イラク国内にあるイスラエル情報機関関連の標的に対する攻撃や、イランの代理勢力によるイスラエルへのより大規模な、あるいはより頻繁な攻撃などが含まれる。

もう一つ懸念されるのは、イランがシリアとイラクの代理勢力に対して、両国にある米軍やその関連資産への攻撃を再開するよう促すことだ。2月上旬にアメリカがシリアとイラクで活動するイラン代理勢力を標的とした空爆を行って以降、そのような攻撃は減っていたが、また新たに始まる可能性もあるとリスターは警告する。「これまでもそうだが、イスラエルによる攻撃の激化に対するイランの反応が、イスラエルに対する攻撃とは限らない。アメリカを攻撃するケースもある」と彼は述べ、さらにこう続けた。「イランから見れば、イスラエルもアメリカも同じなのだ」

最悪のシナリオは、イランによる報復がイスラエルと(イランの最も強力な代理民兵組織である)ヒズボラの全面戦争に発展することだ。

これまで米ジョー・バイデン政権の特使などが、レバノン南部の国境沿いでのイスラエルとヒズボラの緊張緩和を試みてきたが、いずれも失敗に終わっており、イスラエルとレバノンの国境地帯は一触即発の状況となっている。

イスラエルが10月7日の襲撃を受けてハマスをせん滅すべくガザ地区への侵攻を開始して以降、イスラエルとヒズボラはレバノンとの国境地帯で小規模な衝突を繰り広げてきた。双方とも全面戦争は望んでいないように見えるが、何かのきっかけで報復合戦に陥らないとは限らないとダリア・ダッサ・ケイは指摘。「ヒズボラはイランにとって最も重要な非国家勢力であり、究極の抑止力だ。それを考えれば、事態がエスカレートする危険性はきわめて高い」と述べた。

リスターも「イスラエル北部の国境地帯における緊張が高まりつつあったことは間違いない」と述べた。「そんな中で今回の一件が起きた。今回の空爆で、なんらかの見込み違いが起きる可能性は一気に高まった」

From Foreign Policy Magazine

【動画】ダマスカス攻撃と死んだザヘディ

 

ロビン・グラマー(フォーリン・ポリシー誌記者)

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