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キャッシュレス先進国アメリカで、「現金」が若者のトレンドに...大人たちからは「電子マネーを使え」の声

ニューズウィーク日本版 2024年4月4日 17時33分

<デジタルマネーでの支払い方法が全盛の今、リアルな現金を使う若者がアメリカで急増中>

今や、デジタルマネーの隆盛期。使う、ためる、投資する......お金のやりとり全てで、デジタルがもてはやされる時代だ。ところが最近、Z世代の若者たちが好んで現金を使うようになっている。

世論調査機関のハリス・ポールが昨年行った調査によれば、アメリカのZ世代(1990年代後半から2010年代初頭生まれ)で現金を前年より頻繁に使った人は69%に達した。買い物の半数以上に現金を使った人も23%に上っている。

この調査結果は、多額の現金を金融機関に預けず自宅で保管しようという風潮と合致する。TikTok(ティックトック)では、クレジットカードやオンライン取引より現金を使うことがブームになっており、無数のアカウントが「キャッシュ・スタッフィング」という現金をベースにした節約術を解説している。

キャッシュ・スタッフィングでは、まず銀行から現金を引き出す。大抵は給料1カ月分ほどのまとまった額だ。それから、外食、衣服、レジャーなど使途を書いた封筒を用意し、それぞれに予算分の現金を入れる。

「封筒の現金が尽きたら、もうその使途には支出できないということ」と、信用情報機関のエクスペリアンで消費者教育を担当するロッド・グリフィンは言う。

現金の方がお金を使う痛みを感じられる

これについて専門家は特に新しいトレンドではないと言うが、SNS世代の間では人気が急上昇しているようだ。

モネッツ・マネーのTikTokページには、7万7000人以上のフォロワーがいる。キャッシュ・スタッフィングの進め方のほか、このトレンドの解説や月々の予算の立て方などについて、何十本もの動画がアップされている。

CDNガール・キャッシュ・スタッファーというアカウントもキャッシュ・スタッフィングの進め方を実演して、22万人を超えるフォロワーを集めている。動画の1つは昨年4月にアップされて以来、890万ビューを稼いだ。

この手法の利点については、専門家の間でも意見が分かれる。効果的な節約法だと言う人もいれば、安全性に懸念を示す人もいる。

「Z世代は、簡単に支払えることが100%いいことではないと気付いたようだ」と、オンラインで会計や税務のサービスを提供するフィンサルト社のクリスチャン・マルドナドCEOは言う。

「携帯電話をタップすれば支払いができるようになったことで支出がかさみ、生活に影響を与える恐れがあることを、彼らは理解するようになった。一方で、現金は目に見えるし、その価値を実感できる」

金融アナリストのダグ・キャリーは、若い世代が現金を使うのは予算管理の方法を学べるのでいいことだと言う。

「キャッシュ・スタッフィングは、お金をためるのが難しい多くの若者にとって実にいいアイデアだと思う」と、キャリーは言う。「うちの子供たちには、できるだけ現金を使わせるようにしている。自分のお金を使う『痛み』を感じてほしいからだ」

若い世代にとって現金は「クールな新発明」

「靴を買うのに20ドル札を8枚出せば、画面上でカードをタップするよりリアルに感じられる」と言うのは、クレジットカードの選び方や使い方をアドバイスするカードレーツ・ドット・コムのエリカ・サンドバーグだ。

多くのZ世代は、親の世代も現金よりカードを使って育った。そのため現金を使うことが目新しくて夢中になると、サンドバーグはみている。若い世代にとって現金は「クールな新発明」だと彼女は言う。

「キャッシュ・スタッフィングが古典的な手法になったのには理由がある。効果的だからだ」とサンドバーグは語る。「特定の期間の使途別の予算を決め、現金を封筒に入れる。それがなくなったら、次に現金を入れるまで支出できない」というシンプルさが効いていると、彼女は指摘する。

一方で、黒人が所有する銀行としては全米最大であるワンユナイテッド銀行のテリ・ウィリアムズ頭取は、アメリカの黒人は銀行に対する長年の不信感から、現金をよく使っていると語る。

「黒人コミュニティーでは、現金を使う割合が以前から高かった」と、ウィリアムズは言う。

「黒人には歴史的に銀行への不信感があり、現金を手元に置くほうが安全だという認識がある。私たちは現金を保有することについての顧客の関心を理解し、尊重している。デジタルバンキングには多くの利点があるが、現金を使うことで若い世代は『リアルなお金』で支払っていることを理解し、支出に上限を設ける必要を認識できる」

多額の現金を自宅で保管することに懸念を抱く人もいる。「金融についてきちんとした教育を受け、まともなツールを持っていなければ、キャッシュ・スタッフィングは特に資産を増やすためには使い続けられない」と、未公開株式投資会社オルタナティブ・ウェルス・パートナーズのケリー・アン・ウィンゲットCEOは言う。

「インフレ率が高まれば、封筒に入れたままの現金は日々価値を失う」

TikTokでも人気の経済評論家エリカ・クルバーグは、現金を使う人は銀行が提供する保護の一部を放棄していると言う。「デジタルマネーの利用をやめるのには懸念がある」と彼女は語る。「現金取引は面倒だし、デジタル決済のように詐欺を防止する機能もない」

エクスペリアンのグリフィンは、現金ばかり使う若者はクレジットスコアが高くならないため、住宅購入のような将来の機会をものにできない可能性があると言う。

「若い世代には遠いゴールに思えるだろう。でも若い時のお金の使い方が、そんな目標を実現させたいときに影響してくる」

アリス・ハイアム

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