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ウーバーと組む自動車大手の「EV実験」...テスラと異なる「ネットワーク外部性」戦略の勝算は?

ニューズウィーク日本版 2024年4月4日 16時5分

<フォードとライドシェア大手の共同プログラム「フォードドライブ」に、ゼロエミッション車のマスタング・マッハEを採用。試験運用が拡大しているが、果たしてその効果は>

米自動車大手フォードのSUVの電気自動車(EV)、マスタング・マッハEでウーバーの配車サービス利用者をお迎え──カリフォルニア州の3都市で、そんな選択肢が誕生している。

マスタング・マッハEは、排出ガスが発生しないゼロエミッション車だ。フォードとウーバーは、共同プログラム「フォードドライブ」に同車を採用。サンフランシスコ、サンディエゴ、ロサンゼルスで、ウーバー運転手にリース契約を提供している。

「EVはあらゆるタイプの人にとって幅広い実用性がある。ライドシェアは刺激的なテクノロジー展開手法だ」と、フォードドライブのビル・ナップCEOは本誌に語る。

同プログラムは2022年、当初はサンディエゴのみで、約150台規模で試験的に運用された。対象都市が3都市に拡大されたのは昨年6月だ。

カリフォルニア州は、ウーバーの総走行距離にEVが占める割合が北米最大。同州のEV導入率は全米1で、登録車両台数は50万台を超える。年間新車販売台数のうち約21%がゼロエミッション車で、全米の平均をはるかに上回る。

「プログラムを拡大した理由の1つは、排出削減効果がすごかったからだ。当初の4カ月間で、二酸化炭素(CO2)排出量を68トン相殺できた」と、ナップは言う。

「カリフォルニア州の都市部のような高密度エリアでは、走行距離の長い配車サービス従事者にEVシフトという選択肢があることが重要だ。彼らがEV化すれば、平均的な自動車所有者の場合と比べて最大4倍の削減効果がある」

フォードドライブに参加できるのは、乗客による評価が4.85以上などの条件を満たす優良ドライバーだ。

リースは週単位で(最短契約期間30日)、料金は1週間の最大走行距離500マイル(約804キロ)のプランが289ドル~、1000マイル(約1609キロ)プランは329ドル~。距離制限を超えた場合、1マイルごとに追加料金20㌣を支払う。料金支払いや車両サービスは専用アプリで管理できる。

ウーバーは一部地域で、配車依頼の際にマスタング・マッハEを含むEVを指定できる「コンフォート・エレクトリック」サービスを始動。目指しているのは、ゼロエミッションのプラットフォーム化だ。30年までに北米・欧州でゼロエミッション車に完全移行し、40年までに世界での事業を全て、ゼロエミッション車や公共輸送網、電動スクーターなどのマイクロモビリティーで行う計画を掲げる。

ドライバーのEVシフトを促すため、8億ドル規模の支援制度も導入した。EVの運転者は、1回の走行ごとに報奨金1ドル(年間最高額4000ドル)を受け取ることができる。

「マッハEは最大5人が乗車可能で、収納スペースも豊富だ。家族連れでもギグワーカーでも、さまざまに異なるニーズを持つ数多くの顧客に対応できる」と、ナップは話す。

フォードはEV生産拡大を方針に掲げ、26年末までに年間生産台数を200万台に増やす予定だ。

ウーバーの強さは、グーグルやアマゾンなど基盤的サービスを提供するプラットフォーマーと同じく「ネットワーク効果(ネットワーク外部性)」にある。ウーバーのドライバーが多いほどサービスを使う消費者も多くなり、サービスは変わらないのにウーバーを利用する価値はどんどん高まる。そして結果的に繰り返しの利用や利用者の定着にもつながる。EV大手のテスラは直販でしか自社製品を売らないが、それに対してウーバーのネットワーク効果を使って自社のEVの利用増を狙ったことに今回のフォードの戦略の面白さがある。うまくハマればEV事業が赤字に見舞われているフォードはマッハEを普及させられるだろう。EV利用がネットワーク効果で増えれば当然その分、CO2排出減にも貢献する。

――解説:入山章栄(早稲田大学大学院経営管理研究科、早稲田大学ビジネススクール教授)

■フォード・マッハEとテスラ・モデル3の対決!
(フォードのプロモーションムービー)

Ford Motor Company-YouTube



アイリーン・ファルケンバーグハル(自動車業界担当)

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