<ゴミ削減の工夫も大事だが、過去何十年も出してきたプラごみにどう対処するか。新しい取り組みが始まっている>
海洋プラスチックごみは、環境問題の中で頻繁に取り上げられる話題だ。日本でも、一般の人が参加する海岸清掃活動が各地で実施されるようになり、より関心が高まっている。事業として海や川のプラごみ回収を行っている、ヨーロッパ発の先進的な団体を紹介しよう。
「ザ・グレート・バブル・バリア」 泡で川のごみを誘導して回収
オランダのザ・グレート・バブル・バリア(TGBB)は、河川の底に固定した長いゴム製のチューブから多数の泡を出し、そのバブルカーテンで水中のあらゆるごみをせき止める方法を開発した。川に斜めにチューブを設置することにより、ごみがカーテンの片側(片岸)へ自然に流されるため容器を置いておき、ごみをためる。たまったごみは、その地域で処理される。1mm程度のプラごみも集められるという(ただし、川底に埋まったごみは掘り起こせない)。それより小さいマイクロプラスチックが回収できているかは調査中とのことだ。
チューブに送るのは圧縮した周囲の空気。設置場所の状況によるが、電力は可能な限り再生可能エネルギーを使用する。24時間連続稼働も可能だ。川の規模に合わせた最適なカーテンを作ることができ、現在のところ、水深7mまでならチューブが設置できる。
斜めに走る線がバブルカーテン。ごみは自然に川の片側へ流れる Bubble Barrier Amsterdam ©The Great Bubble Barrier
「河川のごみが海に流れる前に回収」「川の魚や鳥の邪魔にならず、船・ボートの通行にも支障なし」の2点から生まれたこのバブルカーテンは、実証実験でごみ回収率86%を達成した。2019年秋にアムステルダム中心部の運河に1号機を設置し、毎月平均85㎏のごみを回収(2021年のデータ)しているという。
昨年は、EUのプロジェクトとしてポルトガルのアーヴェ川にバブルカーテンのシステムが設置された。最新の設置場所はオランダ北部のハルリンゲンで、今夏には稼働する予定だ。
ザ・グレート・バブル・バリアを設立した4人 ©The Great Bubble Barrier
バブルカーテンは、海洋での建設作業時に出る騒音を低減するために使われたりしている。TGBBは、この技術を世界で初めてプラごみ回収に使ったとのこと。2017年に、ボートセーリングやサーフィンが好きな友人同士の女性3人で起業。しばらくして、フィリップ・エアホーン氏(同社のテクノロジー長)も共同設立者に加わった。
筆者は数年前にTGBBを訪れ、共同設立者たちに会った。「水辺のごみをなくさないと動物たちの命が危ないとずっと気になっていて、私たちが行動を起こさなくてはと思ったのです。TGBBの活動によって、プラごみ問題への関心がより高まってほしいです」との言葉が印象に残っている。
TGBBのバブルカーテンは小規模だが、今後、設置数が増えていけば海洋プラごみ回収に一役買うだろう。
「オーシャン・クリーンアップ」 海と河川で、大規模なプラごみ回収
ダイビングをしていた時にたくさんのプラごみを見て「プラごみを回収しなくては」と決心したのは、オランダ生まれのボイヤン・スラット氏だ。氏は2013年、18歳のときに非営利団体のオーシャン・クリーンアップを設立した。氏は2014年国連の環境賞を受賞している。
オーシャン・クリーンアップが研究を重ねて生み出したのは、2種類の装置。TGBBのカーテンのように、河川のプラごみが海に流れる前に回収する装置と、海洋でプラごみを回収する装置だ。「2040年までに、海洋に浮かぶプラごみの90%を除去する」ことを目指し、川や海のプラごみの回収を続けている。4月初めの時点で、全装置で回収したプラごみは940万kg以上に達した。
河川用の装置「インターセプターズ」は、プラごみの汚染がとりわけ激しい世界の1000の河川を清掃しようと開発された。インターセプターズは、河川の状況に合わせ、数種類が考案されている。容量50立方メートルのプラごみを回収できるボート「インターセプター・オリジナル」は主要な装置だ。東アジアを中心に、すでに15叟以上が導入されている。3月末には、61 本の運河が流れ込むチャオプラヤー川の浄化のためにバンコクで初導入されたばかり。タイでは、バンコク市をはじめ天然資源・環境省なども回収プロジェクトのパートナーになっている。
チャオプラヤー川で稼働する「インターセプター・オリジナル」 ボートに引き上げられたプラごみが、青いコンテナボックスへ自動投入される ©The Ocean Cleanup
船上の太陽光パネルによる発電を電源にした「インターセプター・オリジナル」は、コンテナボックスを積んでいる。ボートにつないだ長いフェンスによって浮遊しているプラごみをボートへと誘導する。流れてきたごみはベルトコンベアーでボート内に引き上げられ、自動でコンテナボックスへと入れられる。ほぼ満杯になると、コンテナボックスを川岸へと運ぶ担当者へメッセージが送信されるという。ごみは処理施設へ運ばれ、コンテナボックスはボートに戻される。
ほかには、小さい河口でU 字型に囲った浮遊フェンスでごみをためる仕組み「インターセプター・バリア」、川の上流と下流に1つずつ浮遊フェンスを設置し、上流側で主なごみをせき止め、下流側で残りのごみをキャッチする仕組み「インターセプター・バリケード」などもある。フェンス内にたまったごみは一挙に回収できる。
スケールアップした3号機の海洋用の装置「システム03」 ©The Ocean Cleanup
一方、海洋用の装置は1号機と2号機の実証実験を経て、昨夏、3号機「システム03」が稼働を開始した。船2隻でフェンスを引っ張りながら海のプラごみを回収する。設置場所は、世界最大のごみ集積地帯の「太平洋ごみベルト」だ。
海洋では、1.5㎝以上のプラごみを捕捉する。ほとんどのごみは水面から深さ2m内にあるというが、第3号は水深4mまでをカバーする。最大効率でサッカー場1面ほどを 5 秒で清掃できる。この装置は海洋生物への配慮の点でも優れている。フェンスに付いた回収網には出口があり、海洋生物が網の中で発見されると逃げられるようになっている。
「クリーン・ハブ」 プラごみ回収・処理をデジタル化
オーシャン・クリーンアップのように、海に流入するプラごみが集中している地域でのプラごみ回収は効率的だ。ベルリンのクリーン・ハブは、プラごみ汚染がひどい東南アジアを中心に事業を展開している。同社は、プラごみ回収のプロセスをデジタル化した。作業員たちが、プラごみを収集し、種類ごとに分け、安全に処理する(リサイクルしたり、セメント製造などの燃料として使う。それらが無理なら埋め立てる)各段階で、同社のアプリに写真をアップロードする。AIがそれらを分析し、プラごみを確実に処理できる。
同社設立(2020年)のきっかけは、サーフィンやスキーなどが趣味で数十カ国を旅した男性3人がプラごみ汚染を目の当たりにしたこと。3人は、東南アジアではごみ処理のインフラ不足により、家庭から回収されたごみがそのまま農地に捨てられて焼却されたり、家庭単位で燃やすことが頻繁に行われていると知った。
このため、同社は川でプラごみを捕捉するプロジェクトも行いつつ、プラごみ(ガラスや段ボール、アルミニウムなども)を家庭から集めて処理することに焦点を置いている。昨年初めの時点で、回収したごみは8000トンを超えたという。
現在、世界の300以上の企業が同社のクレジットを購入しており、プラスチックオフセット(プラスチック消費量を相殺)を行っている。
すでに海や川に流れているプラごみの多くを回収するには、途方もない年月を要する。とはいえ、回収活動はいま進めなくてはならない。そして、どこに住んでいても「安易にごみを捨ててはいけない」という意識が浸透することを願って止まない。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com
【動画】プラごみ回収にもDXの波
ベルリンのクリーン・ハブは、プラごみ回収のプロセスをデジタル化し、AIによって分析することで、プラごみを適切に処理するシステムを開発した。
ニューズウィーク日本版 / YouTube
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)
海洋プラスチックごみは、環境問題の中で頻繁に取り上げられる話題だ。日本でも、一般の人が参加する海岸清掃活動が各地で実施されるようになり、より関心が高まっている。事業として海や川のプラごみ回収を行っている、ヨーロッパ発の先進的な団体を紹介しよう。
「ザ・グレート・バブル・バリア」 泡で川のごみを誘導して回収
オランダのザ・グレート・バブル・バリア(TGBB)は、河川の底に固定した長いゴム製のチューブから多数の泡を出し、そのバブルカーテンで水中のあらゆるごみをせき止める方法を開発した。川に斜めにチューブを設置することにより、ごみがカーテンの片側(片岸)へ自然に流されるため容器を置いておき、ごみをためる。たまったごみは、その地域で処理される。1mm程度のプラごみも集められるという(ただし、川底に埋まったごみは掘り起こせない)。それより小さいマイクロプラスチックが回収できているかは調査中とのことだ。
チューブに送るのは圧縮した周囲の空気。設置場所の状況によるが、電力は可能な限り再生可能エネルギーを使用する。24時間連続稼働も可能だ。川の規模に合わせた最適なカーテンを作ることができ、現在のところ、水深7mまでならチューブが設置できる。
斜めに走る線がバブルカーテン。ごみは自然に川の片側へ流れる Bubble Barrier Amsterdam ©The Great Bubble Barrier
「河川のごみが海に流れる前に回収」「川の魚や鳥の邪魔にならず、船・ボートの通行にも支障なし」の2点から生まれたこのバブルカーテンは、実証実験でごみ回収率86%を達成した。2019年秋にアムステルダム中心部の運河に1号機を設置し、毎月平均85㎏のごみを回収(2021年のデータ)しているという。
昨年は、EUのプロジェクトとしてポルトガルのアーヴェ川にバブルカーテンのシステムが設置された。最新の設置場所はオランダ北部のハルリンゲンで、今夏には稼働する予定だ。
ザ・グレート・バブル・バリアを設立した4人 ©The Great Bubble Barrier
バブルカーテンは、海洋での建設作業時に出る騒音を低減するために使われたりしている。TGBBは、この技術を世界で初めてプラごみ回収に使ったとのこと。2017年に、ボートセーリングやサーフィンが好きな友人同士の女性3人で起業。しばらくして、フィリップ・エアホーン氏(同社のテクノロジー長)も共同設立者に加わった。
筆者は数年前にTGBBを訪れ、共同設立者たちに会った。「水辺のごみをなくさないと動物たちの命が危ないとずっと気になっていて、私たちが行動を起こさなくてはと思ったのです。TGBBの活動によって、プラごみ問題への関心がより高まってほしいです」との言葉が印象に残っている。
TGBBのバブルカーテンは小規模だが、今後、設置数が増えていけば海洋プラごみ回収に一役買うだろう。
「オーシャン・クリーンアップ」 海と河川で、大規模なプラごみ回収
ダイビングをしていた時にたくさんのプラごみを見て「プラごみを回収しなくては」と決心したのは、オランダ生まれのボイヤン・スラット氏だ。氏は2013年、18歳のときに非営利団体のオーシャン・クリーンアップを設立した。氏は2014年国連の環境賞を受賞している。
オーシャン・クリーンアップが研究を重ねて生み出したのは、2種類の装置。TGBBのカーテンのように、河川のプラごみが海に流れる前に回収する装置と、海洋でプラごみを回収する装置だ。「2040年までに、海洋に浮かぶプラごみの90%を除去する」ことを目指し、川や海のプラごみの回収を続けている。4月初めの時点で、全装置で回収したプラごみは940万kg以上に達した。
河川用の装置「インターセプターズ」は、プラごみの汚染がとりわけ激しい世界の1000の河川を清掃しようと開発された。インターセプターズは、河川の状況に合わせ、数種類が考案されている。容量50立方メートルのプラごみを回収できるボート「インターセプター・オリジナル」は主要な装置だ。東アジアを中心に、すでに15叟以上が導入されている。3月末には、61 本の運河が流れ込むチャオプラヤー川の浄化のためにバンコクで初導入されたばかり。タイでは、バンコク市をはじめ天然資源・環境省なども回収プロジェクトのパートナーになっている。
チャオプラヤー川で稼働する「インターセプター・オリジナル」 ボートに引き上げられたプラごみが、青いコンテナボックスへ自動投入される ©The Ocean Cleanup
船上の太陽光パネルによる発電を電源にした「インターセプター・オリジナル」は、コンテナボックスを積んでいる。ボートにつないだ長いフェンスによって浮遊しているプラごみをボートへと誘導する。流れてきたごみはベルトコンベアーでボート内に引き上げられ、自動でコンテナボックスへと入れられる。ほぼ満杯になると、コンテナボックスを川岸へと運ぶ担当者へメッセージが送信されるという。ごみは処理施設へ運ばれ、コンテナボックスはボートに戻される。
ほかには、小さい河口でU 字型に囲った浮遊フェンスでごみをためる仕組み「インターセプター・バリア」、川の上流と下流に1つずつ浮遊フェンスを設置し、上流側で主なごみをせき止め、下流側で残りのごみをキャッチする仕組み「インターセプター・バリケード」などもある。フェンス内にたまったごみは一挙に回収できる。
スケールアップした3号機の海洋用の装置「システム03」 ©The Ocean Cleanup
一方、海洋用の装置は1号機と2号機の実証実験を経て、昨夏、3号機「システム03」が稼働を開始した。船2隻でフェンスを引っ張りながら海のプラごみを回収する。設置場所は、世界最大のごみ集積地帯の「太平洋ごみベルト」だ。
海洋では、1.5㎝以上のプラごみを捕捉する。ほとんどのごみは水面から深さ2m内にあるというが、第3号は水深4mまでをカバーする。最大効率でサッカー場1面ほどを 5 秒で清掃できる。この装置は海洋生物への配慮の点でも優れている。フェンスに付いた回収網には出口があり、海洋生物が網の中で発見されると逃げられるようになっている。
「クリーン・ハブ」 プラごみ回収・処理をデジタル化
オーシャン・クリーンアップのように、海に流入するプラごみが集中している地域でのプラごみ回収は効率的だ。ベルリンのクリーン・ハブは、プラごみ汚染がひどい東南アジアを中心に事業を展開している。同社は、プラごみ回収のプロセスをデジタル化した。作業員たちが、プラごみを収集し、種類ごとに分け、安全に処理する(リサイクルしたり、セメント製造などの燃料として使う。それらが無理なら埋め立てる)各段階で、同社のアプリに写真をアップロードする。AIがそれらを分析し、プラごみを確実に処理できる。
同社設立(2020年)のきっかけは、サーフィンやスキーなどが趣味で数十カ国を旅した男性3人がプラごみ汚染を目の当たりにしたこと。3人は、東南アジアではごみ処理のインフラ不足により、家庭から回収されたごみがそのまま農地に捨てられて焼却されたり、家庭単位で燃やすことが頻繁に行われていると知った。
このため、同社は川でプラごみを捕捉するプロジェクトも行いつつ、プラごみ(ガラスや段ボール、アルミニウムなども)を家庭から集めて処理することに焦点を置いている。昨年初めの時点で、回収したごみは8000トンを超えたという。
現在、世界の300以上の企業が同社のクレジットを購入しており、プラスチックオフセット(プラスチック消費量を相殺)を行っている。
すでに海や川に流れているプラごみの多くを回収するには、途方もない年月を要する。とはいえ、回収活動はいま進めなくてはならない。そして、どこに住んでいても「安易にごみを捨ててはいけない」という意識が浸透することを願って止まない。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com
【動画】プラごみ回収にもDXの波
ベルリンのクリーン・ハブは、プラごみ回収のプロセスをデジタル化し、AIによって分析することで、プラごみを適切に処理するシステムを開発した。
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岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)