Infoseek 楽天

NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグループを中心に急増する「時短サウンド」、その理由とは?

ニューズウィーク日本版 2024年4月9日 11時0分

<タイパ重視の現代、トレンドに敏感なK-POPにも変化が──>

韓国の音楽シーンを追い続けていると、サウンドのちょっとした変化に気づき、その背景や経緯を調べる場合が少なくない。最近であれば、メロディラインを際立たせるためにバックの音数をできるだけ減らす傾向が強くなってきている点だ。これはおそらくYouTubeやTikTokなどの動画投稿サイトで注目を集めるための工夫なのだろうと推測した。そしてここ数か月の話だが、今度はK-POPガールズグループの新曲で2分前後のものが目立ってきているのが気になっている。

それなりに盛り上がる展開があり、時にはブリッジ(ベーシックな展開とは違う流れ)が挿入されることもあるのにトータルで2分程度──。話題の大型新人・ILLIT(アイリット)が3月下旬にリリースしたデビューミニアルバム『SUPER REAL ME』はそのような"時短サウンド"の典型的な例だろう。大ヒット中のリードトラック「Magnetic」を筆頭に、「Midnight Fiction」や「Lucky Girl Syndrome」といった爽やかなダンスポップの数々は、短い時間の中に様々な要素を無駄なく敷き詰めた仕上がりで、いずれも完成度は高い。さらに4月には同作の曲を縮めたスピードアップバージョンを発表しており、制作サイドは「サウンドのクオリティと収録時間は関係ない」と主張しているようだ。
HYBE LABELSの3組目のガールズグループとして話題のILLIT HYBE LABELS / YouTube

2024年に出たK-POPガールズグループの新譜の中では、(G)I-DLEのフルアルバム『2』とLE SSERAFIMのミニアルバム『EASY』も2分ほどの曲がずらりと並ぶ。こちらのほうはアグレッシブなものが多く、前者ではラップとも語りとも断言できないようなクセのある歌唱を披露する「Wife」、後者ではハードロック調のサウンドとともにメンバーそれぞれが本音を吐露する「Good Bones」が耳を引く。
今やガールクラッシュを代表するグループとなった(G)I-DLE (G)I-DLE (여자)아이들 / YouTube

腹筋ドルと呼ばれるほどパワフルなステージングが魅力のLE SSERAFIM HYBE LABELS / YouTube

時短サウンドは世界的なトレンドに

実を言うと、曲を短くするのはK-POPのガールズグループに限ったことではない。アップルミュージックで毎日更新される、世界中で最も聴かれている曲のチャート〈トップ100:グローバル〉を見ると、以前よりも短めの楽曲が増えた印象が強い。動画配信サイトやサブスクリプションで曲を聴く機会が多くなった現在、さくっとチェックできるコンパクトなサウンドが国内外を問わず歓迎されるのだろう。しかしながらK-POPのガールズグループにおいてはこの傾向がより強く感じられるのは何故だろうか?

やはりそれはNewJeansのワールドワイドな成功が影響しているのではないかと見ている。彼女たちの2作目のミニアルバム『Get Up』は2023年夏に発売されるやいなや、様々な国のヒットチャートのトップに。アメリカではビルボードのメインチャートで1位に輝いた。このモンスターアルバムに収録された6曲の合計時間は12分10秒。最も短いのはタイトル曲の36秒である。
MVではアルバムタイトル曲「Get Up」は「Cool With You」とカップリングされている HYBE LABELS / YouTube

にもかかわらず、音の情報量は多い。ドラムンベースとラウンジミュージック風のシンセ音でキュートな世界を演出する「Super Shy」、ブラジルの大衆的なジャンル=バイレファンキをとり入れながらエレガントなムードが漂う「ETA」といった風に、過去に流行った音を絶妙のバランスでミックスした"チルなポップス"は、彼女たちの清潔感のあるボーカル&ハーモニーと一糸乱れぬダンス(カルグンム)を加えて唯一無二の輝きを放っている。
『Get Up』から先行リリースされた「Super Shy」は非常に素早いワッキングという振付と相まって、NewJeansの魅力を印象づけた HYBE LABELS / YouTube

ギタリストの活躍がなくなる!?

今やK-POPを象徴する存在となったNewJeans。誰もがうらやむ彼女たちの成功を目の当たりにすれば、ベテラン、中堅、ニューフェイスを問わず、時短サウンドを目指すのは当然の流れだと思う。とはいえ、このあたりの話は確認できるデータがないので、あくまでも個人的な意見として読んでいただければ幸いだ。

「短い曲は聴きごたえがないのでは?」と思う人は多いだろう。昨年、「2022年のグラミー賞のロック系の部門にノミネートされた作品は、いずれもギターソロがなかった」というニューヨーク・タイムズ紙の記事が話題になったが、確かにベーシックな構成のみでギターソロのような遊び(もしくはゆとり)がないサウンドは面白味がなさそうに考えやすい。

ところがK-POPの場合は、その遊びの代わりになっているのがパフォーマンスとビジュアルなのだ。したがって楽曲もステージングの美しさ・かっこ良さをアピールするところを当然のごとく設けるタイプが多くなってくる。昨年デビューしたYOUNG POSSEはダンスがなければ魅力が半減してしまうと痛感するほどにメンバーの一挙手一投足とサウンドの関係が濃密だ。
YOUNG POSSEは強烈なヒップホップサウンドで他のアイドルグループと一線を画している YOUNG POSSE • 영파씨/ YouTube

時短サウンドは世の中のニーズによって生まれたものだ。振り返れば80年代にMTVの登場によって音楽と映像の蜜月は始まり、その影響下で新しく誕生したスタイルやトレンドはたくさんあった。現在はネットとの蜜月によって音楽が再び変わろうとしているが、ネットをうまく利用しながら成長してきたK-POPゆえに、いち早く変化したのもうなずける。今のところガールズグループで顕著な時短サウンドは、程なくしてそれ以外のアーティストにも広がっていくだろう。となると、2024年の韓国の音楽シーンが熱くなるのは必至である。

【動画】ついに日本デビューを果たすNewJeans

NewJeansの所属事務所ADORは、5月24日と6月21日に、それぞれ韓国と日本でダブルシングルを発売すると発表。さらに6月には東京ドームで単独ファンミーティングを開催することも明らかに。

NewJeansの最新曲「Bubble Gum」は花王のCMソングに起用された KaoJapan / YouTube

この記事の関連ニュース