Infoseek 楽天

トランプ前大統領が内々に語る「ウクライナ終戦」の秘密計画...日本にも危機が及ぶ「戦争の終わらせ方」

ニューズウィーク日本版 2024年4月9日 17時31分

<「私が大統領なら24時間以内にウクライナ戦争を片付けられる」と豪語するドナルド・トランプ前米大統領だが>

[ロンドン発]米紙ワシントン・ポスト(4月7日付)は「ウクライナ戦争を終結させるためのドナルド・トランプ前米大統領の秘密計画」という見出しで「トランプ氏はウクライナに圧力をかけて被占領地を放棄させることで戦争を終結できると内々に語っている」と報じた。

それによると、トランプ氏の考えはウクライナにクリミア半島と東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)をロシアに割譲するよう働きかけることだという。トランプ氏はこれまで「私が大統領なら24時間以内にウクライナ戦争を片付けられる」と豪語してきた。

トランプ陣営の外交・安全保障専門家はロシアより中国重視だ。トランプ氏はロシアとウクライナ双方が「面目を保ちたい」「逃げ道を求めている」と考えており、ウクライナの一部の人々は現在の被占領地がロシアの一部になっても構わないだろうと漏らしているという。

一方、ジョー・バイデン米大統領はロシアの全面侵攻が始まってから2年間で463億ドルの軍事支援を含む総額743億ドルのウクライナ支援を行ってきた。共和党が過半数を占める米下院はまだ600億ドルのウクライナ追加支援を可決していない。

停戦はプーチンに軍備増強の時間を与えるだけ

ロシアが巻き返し始めたウクライナ戦争にこれ以上巻き込まれると、脱炭素化や半導体支援の産業政策で膨張した米国の財政は持たなくなる。4月8日現在4.4%超の米国の長期金利は5%を上回り、インフレ再燃の懸念が膨らむのは必至だ。金が暴騰するのは不安のあらわれだ。

しかし領土割譲と停戦は国防産業の動員体制に入るウラジーミル・プーチン露大統領に軍備増強の時間を与えるだけだ。デービッド・キャメロン英外相(元英首相)とステファーヌ・セジュルネ仏外相は英紙デーリー・メール(4月7日付)に英仏協商120年に合わせ連名で寄稿した。

「ウクライナはこの戦争に勝たなければならない。ウクライナが負ければ西側全員が負ける。今ウクライナを支援できなかった場合の代償はプーチンを撃退するために支払う代価よりはるかに大きい。ロシアを確実に打ち負かすために西側はさらに多くのことをしなければならない」

9年近く事務総長を務め、9月末に退任する北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ氏は加盟32カ国にウクライナのために5年間で1000億ユーロの基金設立や、米国が主導するウクライナ支援グループ(50カ国以上)の主導権をNATOが握ることを提案している。

同盟国が応分の負担をしないならロシアに侵略を促す

「NATOは1つの同盟国への攻撃はすべての同盟国への攻撃という唯一の厳粛な約束の下に創設された。その土台の上に歴史上最も強力で成功した同盟を築いてきた」とストルテンベルグ氏は強調するが、トランプ氏は同盟国が応分の負担をしないならロシアに侵略を促すとほのめかす。

「支援の遅れは戦場に影響を及ぼす。ウクライナへの軍事支援は長期にわたって信頼と予測可能性を確保しなければならない。自発的な拠出を減らしNATOのコミットメントに、短期的な拠出を減らして複数年の誓約に依存するようにしなければならない」(ストルテンベルグ氏)

ストルテンベルグ氏は4月7日、英BBC放送の前政治部長ローラ・クエンスバーグ氏のトーク番組に出演し「ウクライナが一定の独立国家として勝ち残るためにはコストがかかる。そのコストから私たちは逃れることはできない」と1000億ユーロ基金について理解を求めた。

前線の主導権は現在、ロシア軍が握る。「プーチンは戦場で勝てると信じている。しかしプーチンが戦場では勝てないこと、ウクライナが必要とする限り私たちはウクライナの側に立つ用意があることをプーチンに突き付ける必要がある」

中国はロシアの戦争経済を支えている

戦争の大半は交渉のテーブルで終わる。交渉は戦場の状況と密接に関係している。プーチンはウクライナに軍事的な圧力をかけ続けることで目標を達成できると考えている。「ウクライナが民主主義国家として勝利するためには軍事的支援を与えることだ」(ストルテンベルグ氏)

「最終的にウクライナがどのような妥協をするのかを決めなければならない。その前にウクライナが交渉のテーブルで受け入れ可能な結果を出せるようにする必要がある。安全保障はローカルではなくグローバルなものであり、ウクライナ戦争はそれをはっきりと示している」(同)

ストルテンベルグ氏によると、中国はロシアの戦争経済を支え、国防産業の主要部分を供給する。その見返りにロシアは中国に未来を差し出す。イランはドローンやその他の軍事装備を提供する。その見返りにロシアから技術を提供され、ミサイルや核開発計画を進める。

「北朝鮮からロシアへ膨大な量の何十万発もの弾薬がそのままウクライナとの戦争に供給されている。ロシアは北朝鮮に技術を提供している。アジアで起こることは欧州にとっても重要なのだ」(ストルテンベルグ氏)。米国が手を引けば欧州だけでウクライナを支えるのは難しい。

ウクライナ戦争は重大な岐路に立たされている。トランプ氏が米大統領に返り咲き、ウクライナが屈辱的な停戦条件をのまされれば、武力行使を厭わない権威主義国家が増長する。ウクライナ戦争は日本にとって、もはや対岸の火事で済まされないのだ。


この記事の関連ニュース