<「イスラエルの親友」と呼ばれてきた米上院民主党トップのチャック・シューマーが「道を失った」と断罪。「ユダヤ人の心の叫び」はイスラエルに届くのか>
「親友」からの忠告は届くのだろうか。米連邦議会上院の与党・民主党のトップ、チャック・シューマー院内総務が3月14日に行った演説は、イスラエルの将来を懸念する一人のユダヤ人の心の叫びだったと言える。
シューマーは多くのユダヤ人が暮らすニューヨーク出身の政治家で、公職にあるユダヤ系では最高位にあり、「イスラエルの親友」とも呼ばれてきた。
そのシューマーが演説で矛先を向けたのは、歴代最長にわたりユダヤ人国家を率いるネタニヤフ首相だ。ガザ紛争をめぐる対応で国益を損なっているとして「道を失った」と断罪。
「10月7日以降、ネタニヤフ政権がもはやイスラエルのニーズに合致しないのは明白だ」と非難し、「健全でオープンな意思決定プロセスを可能にするためには、新たな選挙が唯一の方法だと信じる」と述べ、新たなリーダーを選ぶよう間接的に諭した。
一国の議員が、他国に選挙を求めるなど異例中の異例だ。
シューマーが異例の発言に踏み込んだのは、イスラエルを外から見つめるユダヤ人として、その行く末を強く懸念したからだ。
ホロコーストの惨禍から生まれた国家は、数々の戦争に直面しながらも、今や国民1人当たりのスタートアップ企業数「世界一」を誇るハイテク国家となり、その技術力は世界が称賛する。
しかし、極右政党と連立した今のネタニヤフ政権は発足直後から、建国理念である「民主主義」の根幹である司法の独立を損ないかねない司法制度改革を進め、国内に混乱を招き、国外でもさまざまな摩擦を引き起こした。
その混乱のさなか、ハマスの奇襲テロ攻撃が発生した。国民にホロコーストの記憶を呼び覚まし、多くの国が連帯を示した。
しかし、その後の6カ月に及ぶパレスチナ自治区ガザへの陸海空からの絶え間ない攻撃は子供約1万3000人を含む3万人以上を死に至らしめ、人道危機の解決は困難を極めている。
紛争初期に集めた同情は、出口戦略を示さずに攻撃を続けるイスラエル政府や、経済関係を持つ企業などに対する批判に変わり、格付け会社の信用も低下。長年かけて積み上げてきた国際的な信頼を失いつつある。
シューマーが、「イスラエルは『のけ者』として成功することはできない」とクギを刺したのもこのためだ。
だが、ネタニヤフはこの紛争に政治的な生き残りを懸ける。戦争での「完全勝利」を訴え、最大の後ろ盾であるバイデン米大統領への「抵抗」すら演出する。
アメリカとの関係は歴史的なレベルで悪化し、元駐米イスラエル大使イタマール・ラビノヴィッチは「ネタニヤフ首相はバイデン政権との対立を『政治的資産』にしようとしている」と批判。
現地のテレビ局「チャンネル13」の世論調査でも、回答者の半数以上が「首相が戦争の勝利よりも政治的生き残りを優先している」と回答し、その意図を見透かす。右派層も含め国民の8割近くがネタニヤフ退陣を支持しているものの、首相は自身の責任を明確にせず、その不満は爆発寸前だ。
イスラエルの行く末は、今後のパレスチナ問題との向き合い方次第だ。「このまま事実上の『一国家』に近づいていくのであれば、アメリカも含めた他の世界との関係は決裂することになる」と、シューマーは忠告した。それはユダヤ人国家の国際的な評価にも関わるからだ。
シューマーという姓はヘブライ語の「ショメール(守護者)」に由来している。シューマーは、演説の原稿を書き上げるのに2カ月を要したと言い、守護者であり親友からの言葉にはそれだけの重みが込められている。
シューマー「もはやイスラエルのニーズに合致しない」
As a lifelong supporter of Israel, it has become clear to me:The Netanyahu coalition no longer fits the needs of Israel after October 7.The world has changed radically since then, and the Israeli people are being stifled right now by a governing vision stuck in the past. pic.twitter.com/jvjm6o0JPA— Chuck Schumer (@SenSchumer) March 14, 2024
【フルバージョン動画】チャック・シューマーによる演説
Leader Schumer Gives Major Senate Address on a Pathway to Peace and Achieving a Two-State Solution/Senator Chuck Schumer
「親友」からの忠告は届くのだろうか。米連邦議会上院の与党・民主党のトップ、チャック・シューマー院内総務が3月14日に行った演説は、イスラエルの将来を懸念する一人のユダヤ人の心の叫びだったと言える。
シューマーは多くのユダヤ人が暮らすニューヨーク出身の政治家で、公職にあるユダヤ系では最高位にあり、「イスラエルの親友」とも呼ばれてきた。
そのシューマーが演説で矛先を向けたのは、歴代最長にわたりユダヤ人国家を率いるネタニヤフ首相だ。ガザ紛争をめぐる対応で国益を損なっているとして「道を失った」と断罪。
「10月7日以降、ネタニヤフ政権がもはやイスラエルのニーズに合致しないのは明白だ」と非難し、「健全でオープンな意思決定プロセスを可能にするためには、新たな選挙が唯一の方法だと信じる」と述べ、新たなリーダーを選ぶよう間接的に諭した。
一国の議員が、他国に選挙を求めるなど異例中の異例だ。
シューマーが異例の発言に踏み込んだのは、イスラエルを外から見つめるユダヤ人として、その行く末を強く懸念したからだ。
ホロコーストの惨禍から生まれた国家は、数々の戦争に直面しながらも、今や国民1人当たりのスタートアップ企業数「世界一」を誇るハイテク国家となり、その技術力は世界が称賛する。
しかし、極右政党と連立した今のネタニヤフ政権は発足直後から、建国理念である「民主主義」の根幹である司法の独立を損ないかねない司法制度改革を進め、国内に混乱を招き、国外でもさまざまな摩擦を引き起こした。
その混乱のさなか、ハマスの奇襲テロ攻撃が発生した。国民にホロコーストの記憶を呼び覚まし、多くの国が連帯を示した。
しかし、その後の6カ月に及ぶパレスチナ自治区ガザへの陸海空からの絶え間ない攻撃は子供約1万3000人を含む3万人以上を死に至らしめ、人道危機の解決は困難を極めている。
紛争初期に集めた同情は、出口戦略を示さずに攻撃を続けるイスラエル政府や、経済関係を持つ企業などに対する批判に変わり、格付け会社の信用も低下。長年かけて積み上げてきた国際的な信頼を失いつつある。
シューマーが、「イスラエルは『のけ者』として成功することはできない」とクギを刺したのもこのためだ。
だが、ネタニヤフはこの紛争に政治的な生き残りを懸ける。戦争での「完全勝利」を訴え、最大の後ろ盾であるバイデン米大統領への「抵抗」すら演出する。
アメリカとの関係は歴史的なレベルで悪化し、元駐米イスラエル大使イタマール・ラビノヴィッチは「ネタニヤフ首相はバイデン政権との対立を『政治的資産』にしようとしている」と批判。
現地のテレビ局「チャンネル13」の世論調査でも、回答者の半数以上が「首相が戦争の勝利よりも政治的生き残りを優先している」と回答し、その意図を見透かす。右派層も含め国民の8割近くがネタニヤフ退陣を支持しているものの、首相は自身の責任を明確にせず、その不満は爆発寸前だ。
イスラエルの行く末は、今後のパレスチナ問題との向き合い方次第だ。「このまま事実上の『一国家』に近づいていくのであれば、アメリカも含めた他の世界との関係は決裂することになる」と、シューマーは忠告した。それはユダヤ人国家の国際的な評価にも関わるからだ。
シューマーという姓はヘブライ語の「ショメール(守護者)」に由来している。シューマーは、演説の原稿を書き上げるのに2カ月を要したと言い、守護者であり親友からの言葉にはそれだけの重みが込められている。
シューマー「もはやイスラエルのニーズに合致しない」
As a lifelong supporter of Israel, it has become clear to me:The Netanyahu coalition no longer fits the needs of Israel after October 7.The world has changed radically since then, and the Israeli people are being stifled right now by a governing vision stuck in the past. pic.twitter.com/jvjm6o0JPA— Chuck Schumer (@SenSchumer) March 14, 2024
【フルバージョン動画】チャック・シューマーによる演説
Leader Schumer Gives Major Senate Address on a Pathway to Peace and Achieving a Two-State Solution/Senator Chuck Schumer