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ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクライナの次」に侵略すると脅される

ニューズウィーク日本版 2024年4月9日 17時41分

<かつて反政府デモの鎮圧を手助けして貰った「恩人」ロシアにも背を向け、西側諸国ににじり寄るカザフスタンのトカエフ政権>

ロシアとウクライナの戦争、および西側諸国との対立が続くなか、ロシアと旧ソ連構成国であるカザフスタンとの歴史的な結びつきにもほころびが生じつつあるようだ。ある大手営利団体によれば、カザフスタンで事業を展開するロシア企業が今、さまざまな問題に直面している。

ロシア中小企業の利益を代表する非政府組織Opora Rossii(オポラ・ロシア)のニコライ・ドゥナエフ副社長は、4月8日にロシアの有力紙イズベスチヤに対し、ロシアからカザフスタンへの送金処理に遅延が生じていると語った。カザフスタンの銀行がアメリカの二次制裁の対象になることを恐れて、ロシアとの取引に慎重になっているからだ。

 

ロシアからカザフスタンへの送金は、もう数週間にわたって処理が保留になっている。カザフスタンを本拠にキルギスタン、ジョージア、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンで事業を展開しているカザフスタンの商業銀行「ハルク・バンク」などの金融機関が、ロシアとつながりのある取引の処理を拒んでいるためだ。

【動画】ロシア軍部隊も到着、カザフスタン暴動はいかに鎮圧されたか

ジョー・バイデン米大統領が2023年12月、対ロ制裁を強化する大統領令の中で米財務省に対して二次制裁を科す権限を与えたことを受けて、複数の国の銀行がロシア企業との取引にこれまで以上に慎重になっている。中国、トルコやアラブ首長国連邦などの国でも、ロシアの個人や企業との取引に問題が生じていることが報告されている。

親ロの中央アジア諸国に動揺

問題の背景には、2022年2月に始まったロシアとウクライナの戦争が続くなか、中央アジア諸国がロシアとの関係を見直していることがある。ロシアによるウクライナへの本格侵攻とそれに続く西側諸国による対ロ制裁を受け、これまでロシアと緊密な関係にあった中央アジア諸国の間に動揺が広がっているのだ。

カザフスタンはロシアがこの地域で最も信頼を寄せる同盟国の一つであり、2022年1月に大規模な反政府デモが起きた際には、カザフスタンの要請を受けたロシア治安部隊が暴動の鎮圧を手助けした。カザフスタンはロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)およびユーラシア経済同盟(EEU)にも加盟している。

しかしカザフスタンは、ウクライナ侵攻に関して国連総会で行われてきたロシア非難の決議案については何度も(反対ではなく)「棄権」を選択してきた。2022年9月には、ロシアによるウクライナ東部4州の一方的な併合を承認することを拒否した。

この翌月、カザフスタン政府のある高官はロイター通信に対して、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領がロシアとの二国間関係の見直しを行っていると述べていた。カザフスタンは一方で、欧州連合(EU)との経済協力の強化を目指して西側に接近する姿勢を見せている。

トカエフはまた、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とも数回にわたって会談を行い、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による動員令を逃れるために出国した大勢のロシア人を自国に受け入れてきた。

ロシアの戦争支持派の間では、カザフスタンがロシア支持に消極的だという怒りの声が上がっている。

 

たとえばロシアの前大統領で現首相のドミトリー・メドベージェフは、カザフスタンを「似非(えせ)国家」だと一蹴し、「スラブ人」の下にソビエト連邦を復活させるべきだと呼びかけた。この週末には、カザフスタンがこのまま態度を変えなければロシアとして軍事行動で対応する可能性があると示唆するアンドレイ・グルリョフ議員の発言音声が流出した。

このような考え方は新しいものではなく、2022年11月には政治アナリストであるドミトリー・ドロブニツキーはロシア政府のプロパガンダ拡散役を担うテレビ司会者、ウラジーミル・ソロビヨフの番組に出演し、カザフスタンはロシアにとって脅威になり得ると述べていた。ドロブニツキーは同番組の中で、ウクライナ政府はファシストだとするロシア政府の主張を引き合いに出し、「(ウクライナの)次の問題はカザフスタンだ。ウクライナで起きているのと同じナチ化が、カザフスタンでも始まる可能性があるからだ」と述べていた。

対ロ制裁の「抜け穴」

カザフスタンの国民もロシアの動きに注目している。2023年5月にカザフスタンの非政府組織「メディアネット」と「ペーパーラブ」が1100人を対象に行った調査では、ロシアがカザフスタンに侵攻する可能性があると考えている人の割合が前回調査の8.3%から15%に増加した。

しかしカザフスタンはロシアを見捨てた訳ではない。西側諸国が対ロ制裁を強化するなか、カザフスタンはロシアにとって、最先端兵器に必要な技術を入手するための制裁回避ルートの役割を果たしている。

たとえばカザフスタンのマイクロチップ輸入額は、2021年には3500万ドルだったが2022年には7500万ドルに増加。これに伴いカザフスタンからロシアへのマイクロチップの輸出額も、2021年の24万5000ドルから2022年には1800万ドルに増えている。ジャーナリスト団体「組織犯罪と汚職報道プロジェクト(OCCRP)」の2023年の報告書によれば、カザフスタンはロシアへのドローン供給の中継地の役割も果たしている。

カザフスタンのセリク・ジュマンガリン貿易・統合相は2023年夏、米政府が資金提供するメディア「自由欧州放送(RFE/RL)」に対して、全ての制裁対象品目の対ロ輸出を止めることはできないと説明。カザフスタンに提供されたリストには、「制裁対象として7000種類もの品目が記されていた」と述べた。

「西側諸国には、『全てを阻止または追跡することは不可能だ』と告げた」と、ジュマンガリンは語った。

2022年1月にロシア政府がカザフスタンのトカエフ政権を手助けして以降、ロシア・カザフスタン間では経済協力が強化されており、貿易額は2022年に260億ドル、2023年には270億ドルと過去最高を記録した。

英シンクタンク「王立国際問題研究所」のケイト・マリンソンは2月に、「カザフスタンは西側諸国による対ロ制裁を支持すると約束している。しかしカザフスタンの閣僚たちは米ワシントンを訪れて制裁について協議する一方で、ロシアを訪問してプーチンとの連携継続を約束している」と指摘した。

【動画】ロシア軍部隊も到着、カザフスタン暴動はいかに鎮圧されたか



デービッド・ブレナン

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