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爆発的な観光資源となったアメリカの皆既日食フィーバー

ニューズウィーク日本版 2024年4月10日 9時20分

<皆既日食が観測できるエリアには400万人の観光客が集まり、経済効果は全米で10億ドル(1500億円)という規模になった>

現地時間の4月8日(月)午後、北米大陸では広い範囲で皆既日食が観測されました。その前週からアメリカは大変な盛り上がりとなり、皆既日食が起こる狭い帯状のエリアに重なる地域には、観光客が殺到しました。例えば、テキサス州の場合は、百万人単位の移動が見込まれるとして、激しい交通渋滞などに対処するために非常事態宣言が出されました。

また「皆既帯」の通過したインディアナポリス市では、有名な自動車レース「インディ500」の会場である「インディアナポリス・モーター・スピードウェイ」にはNASAの「公式観測地」に指定されたこともあり、5万人が集まりました。天候にも恵まれた同地では大変な盛り上がりだったようです。著名な観光地ということでは、ニューヨーク州のバッファロー市も「皆既帯」に入っていましたが、ナイアガラの滝観光と合わせてこの地を訪れた人も多かったようです。

それにしても、アメリカ人の日食へのリアクションの大きさには驚かされました。7年前の2017年にも大陸を横断する皆既日食があったのですが、その時以上の盛り上がりでした。何と言っても幅広い人口密集地域で皆既日食が見られたのが大きく、テレビでの中継映像では太陽が完全に月に隠されて、漆黒の太陽の周囲にコロナが光り出した瞬間には各地で歓声が上がっていました。

テレビの報道では、日食への感想を幅広く紹介していましたが、「(1969年の)アポロが初めて月面に着陸した際と同じような感動を味わった」という声が印象的でした。感動で泣いている人も多かったのですが、恐怖ではなく、自然への畏敬であるとか、宇宙の神秘、あるいは究極の非日常を感じて、ポジティブな経験としていた人がほとんどでした。

皆既帯のホテルは全て満室

一部には、日食はその前の週の地震と合わせて「神の怒り」だなどという保守派がいたり、反対に左派のコメンテーターは「日食は温暖化の影響」だなどという全く非科学的な説明をしたりという例もありました。ですが、こうした「トンデモ」な言説はごく少数であり、極めて多くのアメリカ人は天文現象としての日食のメカニズムを正確に理解したうえで、大きな関心を寄せていたのでした。

とにかく日食への関心は幅広く、皆既帯に入る地域のホテルは全て満室となり、該当地域に向かう航空機、鉄道、バスのチケットは軒並み売り切れていました。報道によれば、皆既日食が観測されたエリアは12州にわたっており、人口でいうと3100万人で、これに概算で400万人の観光客が移動してきていたと言われています。

例えば前述のインディアナポリス市では、少なくとも10万人が来訪して経済効果は報道によれば4800万ドル(72億円)と言われています。全米では少なくとも10億ドル(1500億円)という概算もあります。これとは別に、皆既帯に入っていたメキシコやカナダでも相当な経済効果があったようです。

アメリカではこの先、次の皆既日食は20年後の2044年までありません。では、そこまで先ではなくて人口密集地、つまり交通アクセスの容易な場所で起こる皆既日食はまず、2028年にオーストラリアのシドニーがあります。

その後ということですと、実は日本になリます。

まず今から6年後、2030年6月1日に北海道で金環食が観測されます。この時の金環食帯が通過するのは、北アフリカからギリシャ、トルコ、ウクライナ、ロシアを通ってくるので、日本だけではありません。ですが、6月という新緑の素晴らしい季節の北海道で日食が見られるというのは、観光産業にとってはチャンスだと思います。

しかし、なんといっても日本にとって大きなイベントになるのは、2035年9月2日の皆既日食です。この時の皆既帯は、中国の北京から北朝鮮を横断して日本の能登半島から富山県、長野県、群馬県、埼玉県、栃木県、茨城県を通ります。中でも、群馬から栃木、茨城の北関東各県は、ほとんどの地域で皆既日食が見られるのです。

例えば、皆既日食が見られる筑波大学や群馬大学では、天文学についての啓蒙活動や日食を利用した実験などを計画していくことになると思います。それ以上に、今回、日食の面白さに目覚めたアメリカ人が、この北関東での皆既日食に殺到する可能性は十分にあります。受け入れ体制を用意して、その経済効果をしっかり確保することも必要になってくるでしょう。

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