<その魅力は、癒やし効果や清潔さ、風呂の種類の豊富さだけにあるのではない>
最近、銭湯の魅力を「再発見」している。昨年還暦を迎え、新宿区から月に4枚の入浴券をもらえるようになったのがきっかけだ。入浴料は520円(大人)だから、年間で約2万5000円分とかなりお得である。
それで週1回、せっせと近所にある万年湯という銭湯に通うようになった。定期的に銭湯に行く生活は、風呂なしアパートに住んでいた来日当初の貧乏学生時代以来だ。
これは私だけじゃないと思うが、大きな湯船につかると疲れが取れ、心身共に癒やされる。万年湯は清潔できれいだし、ジェット風呂、電気風呂、濁り湯のシルク風呂と種類が豊富なのも楽しい。
中国にも公衆浴場(「浴池」と呼ばれ、浴場内にはあかすりをしてくれる人がいる)の文化があるので、私は来日当時から、裸で他人と一緒に風呂に入ることには抵抗がなかった。しかも、湯船につかる前に体を洗うマナーがある日本の銭湯は、中国より断然きれいだ。
湯船にあかが浮いていない! と感動した約37年前の来日時を思い出す。近年は日本のスーパー銭湯が進出しているし、中国の銭湯も昔よりきれいになっているかもしれないが。
どちらにしても、銭湯はまさに極楽。だが私にとってその魅力は、癒やし効果や清潔さ、風呂の種類の豊富さだけにあるのではない。
一番は、なんと言っても他のお客さんとの交流だ。裸の付き合いで相手の本音を聞けるのが何より楽しいのである。
湯船につかっていると、地元のおじさんから「(テレビに出てる)周さんだろ?」などと話しかけられ、世間話に花が咲く。
時には「日本の政治家はダメだな」の一言から政治談議が始まり、「おたくの習近平のほうがまだいい。中国の力を借りてアメリカから独立したいよ」なんて過激な発言をするおじさんも。「いやいや、彼は独裁。日米同盟を大事にしたほうがいいですよ」。これではどちらが中国人か分からない(笑)。温かい湯につかりながら、密告される心配もなく政治談議に興じることができる社会のなんと素晴らしいことか。
もちろん私も、日本で銭湯がどんどん減っている現状は知っている。風呂なし物件は今や探すほうが難しく、銭湯の公共的な意義は薄れている。サウナがいまブームらしいが、その流れで「町の銭湯」が増えることもなさそうだ。法律で入浴料金が統制されている一般公衆浴場の数は、ここ30年で4分の1程度にまで減少しているという。私自身、30年ぶりに銭湯の魅力を「再発見」した身なので大きなことは言えないが、なんとも寂しい限りだ。
だが、銭湯復活の希望はあるかもしれない。日本は温泉大国で、外国人も日本各地で温泉を楽しんでいるのは皆さんもご存じだろう。その昔、訪日する中国人観光客の三大定番は「富士山、温泉、雪見」とも言われていた。私自身も温泉が大好きで、草津温泉から別府温泉まで各地の温泉を訪れている。
だが実を言うと、外国人が楽しんでいるのは温泉だけでない。町の銭湯にも外国人はやって来ているのだ。
欧米人から韓国人、台湾人まで、私も銭湯で多くの外国人を目にしてきた。今回は東京観光だけで温泉地に行けないからという理由の人もいるだろうし、民泊の小さなシャワーではリラックスできないという人もいるだろう。タトゥーがあるから温泉には入れないが、銭湯にはタトゥーOKな所もあるので経験してみたい──そんな人もいるかもしれない。
日本文化の1つとして外国人からも関心を集めつつある銭湯だが、もしも彼ら旅行者も私と同じように「地元民との交流」を楽しむことができたら......。それこそが温泉とは違った銭湯の魅力、そして銭湯復活のカギになるかもしれない。
周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。
最近、銭湯の魅力を「再発見」している。昨年還暦を迎え、新宿区から月に4枚の入浴券をもらえるようになったのがきっかけだ。入浴料は520円(大人)だから、年間で約2万5000円分とかなりお得である。
それで週1回、せっせと近所にある万年湯という銭湯に通うようになった。定期的に銭湯に行く生活は、風呂なしアパートに住んでいた来日当初の貧乏学生時代以来だ。
これは私だけじゃないと思うが、大きな湯船につかると疲れが取れ、心身共に癒やされる。万年湯は清潔できれいだし、ジェット風呂、電気風呂、濁り湯のシルク風呂と種類が豊富なのも楽しい。
中国にも公衆浴場(「浴池」と呼ばれ、浴場内にはあかすりをしてくれる人がいる)の文化があるので、私は来日当時から、裸で他人と一緒に風呂に入ることには抵抗がなかった。しかも、湯船につかる前に体を洗うマナーがある日本の銭湯は、中国より断然きれいだ。
湯船にあかが浮いていない! と感動した約37年前の来日時を思い出す。近年は日本のスーパー銭湯が進出しているし、中国の銭湯も昔よりきれいになっているかもしれないが。
どちらにしても、銭湯はまさに極楽。だが私にとってその魅力は、癒やし効果や清潔さ、風呂の種類の豊富さだけにあるのではない。
一番は、なんと言っても他のお客さんとの交流だ。裸の付き合いで相手の本音を聞けるのが何より楽しいのである。
湯船につかっていると、地元のおじさんから「(テレビに出てる)周さんだろ?」などと話しかけられ、世間話に花が咲く。
時には「日本の政治家はダメだな」の一言から政治談議が始まり、「おたくの習近平のほうがまだいい。中国の力を借りてアメリカから独立したいよ」なんて過激な発言をするおじさんも。「いやいや、彼は独裁。日米同盟を大事にしたほうがいいですよ」。これではどちらが中国人か分からない(笑)。温かい湯につかりながら、密告される心配もなく政治談議に興じることができる社会のなんと素晴らしいことか。
もちろん私も、日本で銭湯がどんどん減っている現状は知っている。風呂なし物件は今や探すほうが難しく、銭湯の公共的な意義は薄れている。サウナがいまブームらしいが、その流れで「町の銭湯」が増えることもなさそうだ。法律で入浴料金が統制されている一般公衆浴場の数は、ここ30年で4分の1程度にまで減少しているという。私自身、30年ぶりに銭湯の魅力を「再発見」した身なので大きなことは言えないが、なんとも寂しい限りだ。
だが、銭湯復活の希望はあるかもしれない。日本は温泉大国で、外国人も日本各地で温泉を楽しんでいるのは皆さんもご存じだろう。その昔、訪日する中国人観光客の三大定番は「富士山、温泉、雪見」とも言われていた。私自身も温泉が大好きで、草津温泉から別府温泉まで各地の温泉を訪れている。
だが実を言うと、外国人が楽しんでいるのは温泉だけでない。町の銭湯にも外国人はやって来ているのだ。
欧米人から韓国人、台湾人まで、私も銭湯で多くの外国人を目にしてきた。今回は東京観光だけで温泉地に行けないからという理由の人もいるだろうし、民泊の小さなシャワーではリラックスできないという人もいるだろう。タトゥーがあるから温泉には入れないが、銭湯にはタトゥーOKな所もあるので経験してみたい──そんな人もいるかもしれない。
日本文化の1つとして外国人からも関心を集めつつある銭湯だが、もしも彼ら旅行者も私と同じように「地元民との交流」を楽しむことができたら......。それこそが温泉とは違った銭湯の魅力、そして銭湯復活のカギになるかもしれない。
周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。