Infoseek 楽天

今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

ニューズウィーク日本版 2024年4月24日 14時0分

まつもとたくお
<かつてない海外アーティストの来日公演ラッシュ、その背景とは?>

音楽ライターの仕事にもいろいろある。なかでもライブレポートは特に依頼が多い。「無料で観ることができるなんてうらやましい」と言われがちだが、とんでもない。オープニングからアンコールまで出演者の歌声や動き、一言一句を集中して見聞きして、ひたすらメモを取る。大きな会場ではステージが遠すぎてよく見えない場合もめずらしくなく、ライブハウスでは混み合う客席の中で頭の合間から様子をのぞいて書くときもある。終演後は決まってぐったり。プライベートで鑑賞するのが一番。それが本音である。

いきなり愚痴になってしまって申し訳ないが、K-POPの来日公演はコロナの5類移行後に大小を問わず公演が一気に増えたため、このような取材時の苦労を味わう機会が多くなっているのが実状だ。だが、たくさんの現場をこなしているからこそ分かることもある。K-POPの日本公演と言えば、長い間アイドルがメインだったが、近頃は非アイドル系も充実してきた──。これが直近1年の印象だ。

理由ははっきりしている。日本政府が2023年8月、音楽や演劇などをするために外国人アーティストが来日する際の興行ビザの要件を大幅に緩和したためだ。1日あたりの報酬が50万円以上に及ぶアーティストの場合、以前は滞在できる日数は15日以内だったのが30日以内に。すると長期ツアーも可能になってくる。

また、小規模な会場で行うイベントは、これまでは訪日する外国人アーティストに海外で2年以上の活動経験が必要で、舞台や控室の広さなどにも要件を課してきたが、昨年の改正によって一定の実績がある団体が受け皿になるのであれば、対象者の活動経験や会場の広さなどは問わないことになった。

円安で海外のファンがコンサートのため来日

一連の緩和によってキャリアの浅いニューフェイスをはじめ、非アイドル系のグループやシンガーも比較的楽に来日公演を開催できるようになったわけだが、時を同じくして歴史的な円安でインバウンド(外国人が日本を訪れる旅行)が急増したのも、さらに状況を好転させた。

母国ではチケットの競争率が高くてなかなか観られないアーティストでも日本だったら比較的入手しやすいし、ついでに観光もできる。そんな経緯でやってきた外国人のおかげもあり、日本で充実した大型公演を開催する実力派アーティストが目立ってきた。インバウンドの効果を生かしたと言える最近の例は、韓国のシンガーソングライター・IU(アイユー)である。

本国と同じアリーナ規模の公演を実現したIU

 8年ぶりの来日公演を横浜アリーナで開催したIU。こちらはソウルコンサートのようす 이지금 [IU Official] / YouTube

IUは2008年のデビュー以来、ずっとK-POPシーンの最前線に立ち続けたトップスター。俳優としても次々とヒット作に出演し、こちらでも輝かしい経歴を誇る。当然のごとく自身のコンサートもキャリアにふさわしい豪華なステージが作られ、バックのバンドもダンサーも一流の人材をそろえ、かなり手の込んだ演出を施す。コストも相当かかるに違いない。このような公演はアーティストの出身地だけで、海外では縮小バージョンで行われがちだ。しかし今年3月に行われた横浜アリーナの単独公演は本国とほぼ同じ内容で進行し、2日間で推定2、3万人の観客を集めるほどの成功を収めた。

私も同公演に足を運んだが、他のK-POPアーティスト以上に韓国から来たと思われるファンの比率が高かったように思う。かつては日本では5000人規模の会場が最高だったIUが、より大きな会場で開催したコンサートで満足できる結果を残せたのは、人気度・知名度の上昇とともに、インバウンドの後押しがあったからだろう。

海外ファン前提で来日公演を行うアーティストも

こうした傾向を前提に日本公演を行うケースもちらほら出てきた。ベルギー、ブラジル、インド、アメリカと、韓国出身のメンバーがひとりも在籍していないことで知られるK-POPガールズグループ・BLACKSWANが、6月1日に東京・Veats Shibuyaでファンミーティングを開くが、チケットの公式販売サイトは国内用に加え、会員登録なしで購入できるグローバル用も設けられている。彼女たちのように日本で表立った実績がないアーティストでも海外ファンを呼ぶことで来日イベントを成立させるケースは、今後さらに増えていくに違いない。

リーダーでベルギー国籍のファトゥはK-POPアイドル史上初のアフリカ生まれの純粋な黒人アーティスト。 Blackswan Official / YouTube

インバウンドを意識した来日公演は、K-POPアーティストに限らない。中華圏で活躍するアジアのスーパースター、ジェイ・チョウ(周杰倫)は、4月に単独公演をKアリーナ横浜で開催したが、2万人規模の会場を2日連続で満杯にできたのは、やはり華僑や中華圏に住む人たちのサポートだった。最寄りの駅から会場へ向かう人たちの会話はすべて中国語と言っていいほど。日本人客はほとんどいなかったのではないだろうか。

ジェイ・チョウ(周杰倫)は台湾出身のアーティスト。2022年の年収は約22億元(約451億円)といわれる。 周杰倫 Jay Chou / YouTube

以上のような状況は、本場と同じ演出が味わえる、現地に行かないと見られないタイプのアーティストが来てくれる、チケットの価格を抑えられるケースも少なくないなど、日本の人にとってもメリットが多い。K-POPに代表される海外アーティストの日本公演は、円安でも良いことがあると思わせてくれる数少ないものなのだ。

【動画】IUアリーナコンサートの裏側

今年3月に行われたIUの横浜アリーナの単独公演は本国ソウル松坡(ソンパ)区KSPO DOMEで行われた内容とほぼ同じ内容で進行し、2日間で推定2、3万人の観客を集めるほどの成功を収めた。

IUのソウルKSPO DOMEで行われたコンサートのビハインド映像 이지금 [IU Official] / YouTube

この記事の関連ニュース