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プーチンを相手に「ヒトラー宥和政策」の失敗を繰り返すのか? 当時よりもひどいトランプ一派

ニューズウィーク日本版 2024年4月11日 21時26分

<米共和党はゼレンスキーを助けるか、トランプに忠誠を誓うか──「ウクライナは敵、ロシアは友」とする強硬派も>

[ロンドン発]「ウクライナを巡る米国の正念場。米共和党はゼレンスキーを助けるか、トランプに忠誠を誓うか、厳しい選択を迫られている」と題した英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のエドワード・ルース米国エディターのコラム(4月10日付)を読んで背筋が寒くなった。

英国のデービッド・キャメロン外相(元首相)は4月8日、ウクライナ戦争、北大西洋条約機構(NATO)、緊迫度を増す中東情勢について話し合うため米フロリダ州のマー・ア・ラゴ・リゾートを訪れ、ドナルド・トランプ前米大統領と会談した。

英紙デーリー・テレグラフ(4月9日付)によると、キャメロン氏はトランプ氏に「英国が国防費にどれだけの予算をつぎ込んでいるかを知ってほしい」と第二次大戦以来の英米特別関係の「幅広さと強さ」を強調したという。9、10日にはバイデン政権高官や共和党議員とも会談した。

英国の重要閣僚がトランプ氏と会談するのは前大統領が2020年大統領選でジョー・バイデン氏に敗れて以来、初めてのことだ。さらにキャメロン氏はかつてトランプ氏のイスラム教徒入国禁止政策を「分裂的で愚か」とその保護主義や外国人・女性嫌悪の姿勢を批判したことがある。

ウクライナを支え続ける欧州

今年2月、キャメロン氏は米政治ニュースサイト「ザ・ヒル」に寄稿し、米上院がウクライナへの600億ドルを含む国家安全保障追加支援法案を可決したことを歓迎した。その上で「世界の安全保障のためにウクライナ支援の継続を」と米下院でも可決するよう求めた。

欧州はこれまでにウクライナ支援の半分以上に相当する総額1700億ドルの支援を提供している。欧州連合(EU)は独自に500億ユーロの複数年支援に合意した。ドイツは1月、ウクライナ軍事支援を倍増させた。英国はキーウと2国間安全保障協定を結んだ最初の国となった。

「ウラジーミル・プーチン露大統領は持久戦で西側に粘り勝ち、帝国を拡大することを願望している。彼は私たちが弱いと信じている。1930年代にヒトラーに見せたような弱さ(筆者注:宥和政策)を繰り返してほしくない」とキャメロン氏は言葉を重ねた。

宥和政策にはヒトラーを増長させたという批判のほか、英国は武器弾薬を生産する時間を稼げたとの見方もある。日本の真珠湾攻撃で米国が参戦していなかったら欧州はヒトラーに支配されていたやもしれぬ。米国なしで欧州の安全保障は成り立たないという構図は今も変わらない。

「英外相は私のお尻にキスでもしてろ」

ロシア産エネルギーを優先するあまり、核大国との摩擦を恐れるあまり、2008年にプーチンがジョージア(旧グルジア)に侵攻した時も、14年にクリミアを併合し、東部紛争に火をつけた時も、米国と欧州は、サーベルをガタガタ鳴らすプーチンに怯えて、付け入る隙を与えてきた。

キャメロン氏に対し、熱烈にトランプ氏を支持する共和党強硬派マージョリー・テイラー・グリーン下院議員は英スカイニュースに「キャメロンが何を言おうが、私には関係ない。彼は自分の国のことを心配していればいい。糞食らえ(私のお尻にキスでもしてろ)だ」と言い放った。

反ユダヤ主義、白人至上主義、極右陰謀論をまき散らすグリーン下院議員について、FT紙のルース氏は「20年に当選した当初は単なるジョーク扱いで相手にされなかった。しかし今やマイク・ジョンソン下院議長の座を脅かす存在だ」と警戒する。

グリーン下院議員は「ウクライナ政府はキリスト教徒を攻撃している。ウクライナ政府は司祭を処刑している。ロシアはそんなことはしていない。ロシアはキリスト教を攻撃していない。彼らはキリスト教を保護しているように見える」と発言している。

共和党強硬派「ウクライナは敵、ロシアは友」

今回、ジョンソン下院議長はウクライナ支援継続を求めて訪米したキャメロン氏との会談を拒否した。ウクライナは停戦と引き換えに東部ドンバスとクリミア半島をロシアに割譲すべきだとトランプ氏は漏らしている。ウクライナに武器を供給したいと考えている共和党員は少数派だ。

「共和党強硬派はウクライナを敵、ロシアを友とみなしている。それを孤立主義と定義するのは間違いだ。積極的親露派なのだ」とルース氏は指摘する。トランプ氏の推薦で共和党全国委員会委員長に選出されたマイケル・ワトリー氏は公然とウクライナを敵と呼んでいるという。

ルース氏によると、陰謀論の跋扈に絶望して政界を去った共和党議員の1人、ケン・バック氏はグリーン下院議員を「モスクワのマージョリー」と批判する。ウクライナが司祭を処刑しているという彼女のデタラメはクレムリンにつながる「偽情報トロール部隊」が震源地だ。

米紙ワシントン・ポスト(4月8日付)は「クレムリンにつながる戦略家やトロール部隊は米国の孤立主義を助長し、国境警備に対する恐怖を煽り、米国の経済的・人種的緊張を増幅させようとする捏造記事、SNSへのデタラメ投稿やコメントを何千と書いてきた」と報じている。

英誌エコノミストの大統領選予測では、バイデン氏はトランプ氏を44対43でリードする。「トランプ大統領が返り咲けば米国を孤立させるどころか、米国の外交政策をプーチンに有利な方向に転換させる」とルース氏は懸念する。

ウクライナ追加支援が米下院を通らなければ世界は悪夢を見ることになる。


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