加谷珪一<小林製薬「紅麴サプリ」問題をめぐり、2015年に安倍政権の成長戦略の一環として導入された機能性表示食品制度がやり玉にあがるが>
小林製薬の健康被害問題で、規制緩和によって導入された「機能性表示食品」が被害を拡大させたとの指摘が出ている。確かにこの制度が悪影響をもたらしたのかについて検証する必要があるが、これをもって規制緩和そのものを否定するのは早計である。
日本における規制緩和というのは、特定企業の優遇策にしかなっていないことが多く、本当の意味で企業間競争を活性化させる役割を果たしていない。機能性表示食品も本来の規制緩和とは方向性が異なるものだった可能性が高い。
現代の資本主義社会において、規制緩和が経済成長に果たす役割は大きい。なぜなら政府の保護で特定大企業による独占や寡占が行われると、適切な競争が阻害され、経済全体の効率が著しく低下するからである。
消費者にとっても、保護された企業のシェアが大きすぎると、価格を一方的に決められてほかに選択肢がなくなり、その価格を受け入れざるを得ないという不都合が生じる。とりわけ市場メカニズムを重視するアメリカ社会では、大企業による独占や寡占、あるいは政府による過剰な保護というのは排除すべき存在と見なされている。
機能性食品の導入で安倍首相が語っていたこと
一方で、単純に企業の負担を軽減し、消費者のリスクを高めるだけの改革は、本来の意味での規制緩和には該当しない。そのようなことをすれば、当該分野に強い大企業をさらに潤わせ、消費者を危険にさらすだけだからである。
当然のことながら、こうした間違った規制緩和政策の下では企業の新規参入も促進されない。単純な企業負担の軽減策では、市場において既に高いシェアを持ち、体力のある大企業がさらに有利になる可能性が高く、健全な競争環境は構築されない。
機能性表示食品制度は2015年、安倍政権が進める成長戦略の一環として導入された。この制度では、国による審査はなく、届け出のみで製品を製造・販売することが可能であり、導入当初から安全性への懸念が相次いでいた。
安倍晋三首相(当時)は食品に関する規制について「中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされているといってもよいでしょう」とスピーチしている。つまり機能性表示食品制度には、中小企業やベンチャー企業の活動を活性化させる役割があると認識していたようだが、この考えは誤りといってよい。
規制緩和そのものを否定することの間違い
本来、ベンチャー企業というのは、大企業が取り組まないニッチな市場を狙うべきものであり、単純に規制だけを取り払って企業の負担を軽くすれば、体力のある大手企業が当該分野を総取りするだけの結果に終わる。規制が存在することで特定企業による独占もしくは寡占になっている市場に競争原理を取り戻すという、本来の規制緩和とは質的に異なると考えてよい。
安倍氏がこの仕組みを理解できず規制緩和を実施したのか、実は規制緩和に名を借りた特定企業の優遇策だったのか定かではないが、方向性として間違っていたのは事実である。もしそうであれば、間違った規制緩和で発生した健康被害問題を取り上げ、規制緩和そのものを否定するというロジックもまた成立しない。
本来、政府による規制緩和には、消費者の利便性向上と適切な競争促進という2つの意味がある。機能性表示食品はどちらにも該当しない可能性が高く、制度の見直しは必至だろう。
小林製薬の健康被害問題で、規制緩和によって導入された「機能性表示食品」が被害を拡大させたとの指摘が出ている。確かにこの制度が悪影響をもたらしたのかについて検証する必要があるが、これをもって規制緩和そのものを否定するのは早計である。
日本における規制緩和というのは、特定企業の優遇策にしかなっていないことが多く、本当の意味で企業間競争を活性化させる役割を果たしていない。機能性表示食品も本来の規制緩和とは方向性が異なるものだった可能性が高い。
現代の資本主義社会において、規制緩和が経済成長に果たす役割は大きい。なぜなら政府の保護で特定大企業による独占や寡占が行われると、適切な競争が阻害され、経済全体の効率が著しく低下するからである。
消費者にとっても、保護された企業のシェアが大きすぎると、価格を一方的に決められてほかに選択肢がなくなり、その価格を受け入れざるを得ないという不都合が生じる。とりわけ市場メカニズムを重視するアメリカ社会では、大企業による独占や寡占、あるいは政府による過剰な保護というのは排除すべき存在と見なされている。
機能性食品の導入で安倍首相が語っていたこと
一方で、単純に企業の負担を軽減し、消費者のリスクを高めるだけの改革は、本来の意味での規制緩和には該当しない。そのようなことをすれば、当該分野に強い大企業をさらに潤わせ、消費者を危険にさらすだけだからである。
当然のことながら、こうした間違った規制緩和政策の下では企業の新規参入も促進されない。単純な企業負担の軽減策では、市場において既に高いシェアを持ち、体力のある大企業がさらに有利になる可能性が高く、健全な競争環境は構築されない。
機能性表示食品制度は2015年、安倍政権が進める成長戦略の一環として導入された。この制度では、国による審査はなく、届け出のみで製品を製造・販売することが可能であり、導入当初から安全性への懸念が相次いでいた。
安倍晋三首相(当時)は食品に関する規制について「中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされているといってもよいでしょう」とスピーチしている。つまり機能性表示食品制度には、中小企業やベンチャー企業の活動を活性化させる役割があると認識していたようだが、この考えは誤りといってよい。
規制緩和そのものを否定することの間違い
本来、ベンチャー企業というのは、大企業が取り組まないニッチな市場を狙うべきものであり、単純に規制だけを取り払って企業の負担を軽くすれば、体力のある大手企業が当該分野を総取りするだけの結果に終わる。規制が存在することで特定企業による独占もしくは寡占になっている市場に競争原理を取り戻すという、本来の規制緩和とは質的に異なると考えてよい。
安倍氏がこの仕組みを理解できず規制緩和を実施したのか、実は規制緩和に名を借りた特定企業の優遇策だったのか定かではないが、方向性として間違っていたのは事実である。もしそうであれば、間違った規制緩和で発生した健康被害問題を取り上げ、規制緩和そのものを否定するというロジックもまた成立しない。
本来、政府による規制緩和には、消費者の利便性向上と適切な競争促進という2つの意味がある。機能性表示食品はどちらにも該当しない可能性が高く、制度の見直しは必至だろう。