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価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

ニューズウィーク日本版 2024年4月17日 13時12分

<日本のリニア計画であれイギリスの高速鉄道HS2であれ、政府や大企業は反対派を蹴散らして高額な大プロジェクトを推し進めがちだが、冷静に必要性を考えると...>

先日、いとこの誕生日パーティーに出掛ける時に失敗を犯した。会場はロンドン方面直通の路線に乗ってわが家から1時間くらいのところなので、僕はその日の午後6時頃に仕事を終え、「行けるだろう」と思ってしまった。

イングランド在住者なら誰でも、この話のオチが予想できるだろう。まず、電車が「信号機故障」により駅間で何度も止まりながら走行したので、会場には遅れて到着した。次に、帰りの電車5本が全て運休になったことが判明した。代わりのバスもなく、駅員も代替手段を教えてくれず、結局タクシーに180ポンド(約3万5000円)払う羽目になった。それからやきもきした2週間がたち、やっとのことで補償金を受け取れた。

この手の災難は珍しいことではなく、もっと小さな遅延や不便は電車ではよくあることだ。今回の場合は、風で架線が破損したことが原因だった。言うならばその日は「暴風」というより「風が強い」程度。イギリスの鉄道網は基本的に「日常的な天候」に対してあまりに脆弱すぎるように思える。もっと金をかけて投資し、維持管理に努めれば確実にインフラを強化できるだろうに、公的資金は常に、価値も疑わしく莫大なコストのかかる壮大な新プロジェクトのほうにばかり注がれているようだ。

こうした「大プロジェクト偏向」は、イギリスの高速鉄道HS2や、日本のリニア中央新幹線に見受けられる。政府や大企業は反対派を蹴散らし、地方部にまたがる建設工事という犠牲をかけてでも、目覚ましい躍進を成し遂げようとするのだ。

利用者が望むのはむしろ細かな改善

ほとんどのイギリス人利用者が望むのはむしろ、単純に既存の列車システムがもっと時間に正確できちんと運行してくれるように改善されることだろう。同様に、2012年に開催された壮大なロンドンオリンピックより、その後10年というものイギリス全土でどんどん閉鎖されている市営プールや地元スポーツ施設にお金を使った方がよかったのではないかと、人々は疑問に感じている。僕たちは大規模プロジェクトの予算や期間をかなりシニカルに見守っている。とんでもなくコストが膨れ上がり、遅延が拡大することをよく分かっているからだ。

個人的には、最近乗ったグラスゴー行きの電車が約6時間もかかったのはそんなに問題ではなかった。それよりよほど問題だったのは、後続の列車が(「人員不足により」)運休したために予約していた多くの乗客が僕の列車に殺到して大混雑になったことだった。おかげでトイレに行くのは障害物コース状態。帰りの電車は30分遅れたうえ、Wi-Fiがダウンして仕事もできなかった。

偉大で高額なものに引き付けられるのは、権力者のさがだ。田中角栄が新潟方面に新幹線を引いたことを誰もが知っているように、彼らは名を残したいのだ。でも、電車内の安定したWi-Fi整備を成し遂げた人の銅像が立つことはない。

権力者たちが大プロジェクトに身をささげると、彼らはしばしば「イギリスの威信を示した」「日本に明るい未来をもたらした」などと評価される。批判する人は「破滅商人」「否定論者」として一蹴される。そして、権力者はあらゆる成功は自分の手柄にするのに、失敗はどれも「心の小さい輩(やから)に邪魔された」せいにする。

もちろん、全ての大規模プロジェクトが悪いアイデアだというわけではない。例えばエリザベスライン(2022年開業)は、通勤客や旅行者がロンドンを横断する際に、ターミナル駅で下車して地下鉄に乗り換えて数駅行き、さらに別の線に乗り換える、という手間を解消してくれた。開通が4年以上遅れたのは痛かったが、今やイギリスの全鉄道旅客の6分の1の利用者を誇る路線になった。これは明らかにニーズに合っていた。

一方、ロンドン行きの時間がもう少し短縮されればイングランド北部が一大経済地域になるだろうと見込んで始動したHS2のように、新しい未来を「創造」しようとするプロジェクトとなると、話が別だ。これらは流れに逆らって泳ぐのと同じ。良くも悪くもロンドンとその周辺はここ数十年で、イギリスの他地域をはるかに上回って経済成長と人口増加が進んでおり、この傾向は今後数十年にわたって続く可能性が高い。

人口は減りリモートワークは増えているのに

さて、日本のリニア計画はといえば、映画『フィールド・オブ・ドリームス』式の理屈に従っているようだ――「それを造れば、彼は来る」。でも日本の人口は減少し続けており、世界は一層「リモートワーク」の方向に進んでいる。

さらに言えば、僕たちは(通常は)電車内でパソコンをWi-Fiにつないで仕事をしたり、スマートフォンなどで映画やゲームを楽しんだりして時間をつぶすことができる。旅の時間をわずかに短縮するためのコストが飛躍的に増大しているこのご時世、「高速化の必要性」はどんどん低下している。



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