アリストス・ジョージャウ(本誌科学担当)
<スウェーデンのゴットランド島で出土した人骨には、これまで知られていなかった「骨の人為的な変形」がはっきり残っていた>
バイキングの時代に行われていた永久的な身体改造という珍しい慣習に、研究者らが新たに魅力的な光を当てた。
■【写真】これまで知られていなかった「骨の人為的な変形」がはっきり残されているバイキング時代の人骨
今まで長いこと、バイキング時代のスカンディナビア半島における永久的な身体改造の形態は、タトゥーだけだと考えられてきた(この点を証明する具体例は見つかっていないのだが)。しかし最近になって、ほかの2つの例の証拠が発見された。
それは、ヤスリをかけて削った歯と、人為的に変形させた頭蓋骨だ。これらの例の大半は(頭蓋骨の例は全てが)、バルト海に浮かぶスウェーデンのゴットランド島で発見されている。
バイキング時代の社会で、これらの慣習はどのような意味を持っていたのか? その点については、まだ包括的な研究がない。独ハイタブ・バイキング博物館のマティアス・トプラクと独ミュンスター大学のルーカス・ケルクは、2月に学術誌「現代スウェーデン考古学」に発表した最新の研究で、この問題に挑んだ。
「バイキング時代のゴットランド島社会で、なぜこのような身体改造が行われたのか、それが何を意味していたのかをより深く理解するため、私たちは共同で事例研究を行うことにした」と、2人は本誌に語っている。
身体を使って伝える特定のメッセージ
バイキング時代とは、8世紀後半から11世紀にかけて、スカンディナビアの海洋民族であるバイキングがヨーロッパ全土および世界各地で略奪、植民地化、交易を行った時代を指す。
今回の最新の研究は、現在知られているバイキング時代の永久的な身体改造の形態を説明し、考えられる意味合いについて論じた。さらに、人間はどのように自分の体を使って特定のメッセージ(例えば、社会的、宗教的、文化的集団への帰属)を伝えられるかを考察した。
「現代的な例で言えば、タトゥーを入れるのは、それによって自分がどう見られたいかを示す行為だ。自分が手出し無用なタフガイであることを伝えるためかもしれないし、あるいは特定の組織のメンバーだけに分かる隠された意味があるのかもしれない」と、トプラクとケルクは言う。
この研究で2人は、バイキング時代の社会における身体改造の2つの形態を紹介した。1つは前歯を横切る溝を掘る。もう1つは、頭蓋骨を人為的に引き伸ばすというものだ。
身体改造を施したバイキング時代の人骨──人為的に変形させた頭蓋骨 ©SHM/JOHNNY KARLSSON CC BY 2.5 SE
「バイキング時代の永久的な身体改造となると、考古学者は大抵の場合、骨の構造(あるいは歯)を何らかの形で変化させる永久的な身体改造を扱う。タトゥーやピアス、傷痕、髪形やひげのスタイルといった身体改造は、(研究のために)再現することがほぼ不可能だ。現代の一般的なイメージでは、バイキングとタトゥーは完璧にマッチしているのだが」と、2人は言う。
ヤスリをかけて水平に溝を掘った前歯 ©SHM/LISA HARTZELL CC BY 2.5 SE
北ヨーロッパで現在確認されている最初の歯のヤスリがけは、バイキング時代以前の数十年間のもので、バイキング時代後期になるとこの習慣はなくなったようだ。2人の研究では、歯にヤスリをかけている130体以上の人骨が確認され、全て男性だった。
一方、頭蓋骨を変形させた例は珍しく、スカンディナビアでバイキング時代のものとして知られているのは3例しかない。いずれもバイキング時代後期のものだ。
ギルドが生まれる以前に存在した商人の共同体
トプラクとケルクは、前歯に溝を掘るのは「加入儀礼」であり、閉ざされた社会集団の男性たちの身元を示す印だと考えられると言う。
「重要な交易拠点に集中していたことから、この、あるいはこれらの社会集団は後のギルドのような、商人の閉鎖的な集団だった可能性がある」と、2人は言う。
「メンバーは歯の形によって身元を証明し、仕事の上での保護や特権を得たのかもしれない。この説は、正式なギルドが生まれる前のバイキング時代に、より大規模で組織化された商人の共同体が存在していたことを示唆している」
頭蓋骨の変形(全て女性の人骨に見られた)を説明付けるのは、歯に掘った溝の場合より「はるかに難しい」と、2人は言う。だが彼らは入手可能な証拠から、この風習はバイキング時代のゴットランド島の文化の一部ではなく、ヨーロッパ南東部から伝わったと考えている。
「この身体改造がもともと何を意味していたのかは分からない」と、2人は言う。「もしかしたら社会的地位や美しさ、あるいは特定の社会集団の印だったのかもしれない」
3体の人骨のうち少なくとも2体は、この地域で埋葬された女性に通常見られるよりも多くの宝石を身に着けていた(3人目の墓は現代になって破壊されたため、この女性がどのように埋葬されたかは分からない)。
「これらの女性たちは外国人であることがはっきりしていたのに、地域社会に溶け込んでいた」と、2人の研究者は言う。
「バイキング時代のゴットランド島のような交易中心の社会では、彼女たちの異質な外見は、交易網が遠くまで広がっている証しとして理解されていただろう。このことは、バイキング時代のゴットランド島社会が非常に開放的で、外国の影響も統合できたことを示唆している」
身体改造を施したバイキング時代の人骨──人為的に引き伸ばすように変形させた頭蓋骨 ©SHM/JOHNNY KARLSSON CC BY 2.5 SE
ヤスリをかけて水平に溝を掘った前歯 ©SHM/LISA HARTZELL CC BY 2.5 SE
<死者のための空間として建てられたとみられる600〜950年頃の建築群から、人為的に変形されたと思われる成人の骨が見つかった>
■乳幼児期に行われるのが一般的...この動画の記事に戻る
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<スウェーデンのゴットランド島で出土した人骨には、これまで知られていなかった「骨の人為的な変形」がはっきり残っていた>
バイキングの時代に行われていた永久的な身体改造という珍しい慣習に、研究者らが新たに魅力的な光を当てた。
■【写真】これまで知られていなかった「骨の人為的な変形」がはっきり残されているバイキング時代の人骨
今まで長いこと、バイキング時代のスカンディナビア半島における永久的な身体改造の形態は、タトゥーだけだと考えられてきた(この点を証明する具体例は見つかっていないのだが)。しかし最近になって、ほかの2つの例の証拠が発見された。
それは、ヤスリをかけて削った歯と、人為的に変形させた頭蓋骨だ。これらの例の大半は(頭蓋骨の例は全てが)、バルト海に浮かぶスウェーデンのゴットランド島で発見されている。
バイキング時代の社会で、これらの慣習はどのような意味を持っていたのか? その点については、まだ包括的な研究がない。独ハイタブ・バイキング博物館のマティアス・トプラクと独ミュンスター大学のルーカス・ケルクは、2月に学術誌「現代スウェーデン考古学」に発表した最新の研究で、この問題に挑んだ。
「バイキング時代のゴットランド島社会で、なぜこのような身体改造が行われたのか、それが何を意味していたのかをより深く理解するため、私たちは共同で事例研究を行うことにした」と、2人は本誌に語っている。
身体を使って伝える特定のメッセージ
バイキング時代とは、8世紀後半から11世紀にかけて、スカンディナビアの海洋民族であるバイキングがヨーロッパ全土および世界各地で略奪、植民地化、交易を行った時代を指す。
今回の最新の研究は、現在知られているバイキング時代の永久的な身体改造の形態を説明し、考えられる意味合いについて論じた。さらに、人間はどのように自分の体を使って特定のメッセージ(例えば、社会的、宗教的、文化的集団への帰属)を伝えられるかを考察した。
「現代的な例で言えば、タトゥーを入れるのは、それによって自分がどう見られたいかを示す行為だ。自分が手出し無用なタフガイであることを伝えるためかもしれないし、あるいは特定の組織のメンバーだけに分かる隠された意味があるのかもしれない」と、トプラクとケルクは言う。
この研究で2人は、バイキング時代の社会における身体改造の2つの形態を紹介した。1つは前歯を横切る溝を掘る。もう1つは、頭蓋骨を人為的に引き伸ばすというものだ。
身体改造を施したバイキング時代の人骨──人為的に変形させた頭蓋骨 ©SHM/JOHNNY KARLSSON CC BY 2.5 SE
「バイキング時代の永久的な身体改造となると、考古学者は大抵の場合、骨の構造(あるいは歯)を何らかの形で変化させる永久的な身体改造を扱う。タトゥーやピアス、傷痕、髪形やひげのスタイルといった身体改造は、(研究のために)再現することがほぼ不可能だ。現代の一般的なイメージでは、バイキングとタトゥーは完璧にマッチしているのだが」と、2人は言う。
ヤスリをかけて水平に溝を掘った前歯 ©SHM/LISA HARTZELL CC BY 2.5 SE
北ヨーロッパで現在確認されている最初の歯のヤスリがけは、バイキング時代以前の数十年間のもので、バイキング時代後期になるとこの習慣はなくなったようだ。2人の研究では、歯にヤスリをかけている130体以上の人骨が確認され、全て男性だった。
一方、頭蓋骨を変形させた例は珍しく、スカンディナビアでバイキング時代のものとして知られているのは3例しかない。いずれもバイキング時代後期のものだ。
ギルドが生まれる以前に存在した商人の共同体
トプラクとケルクは、前歯に溝を掘るのは「加入儀礼」であり、閉ざされた社会集団の男性たちの身元を示す印だと考えられると言う。
「重要な交易拠点に集中していたことから、この、あるいはこれらの社会集団は後のギルドのような、商人の閉鎖的な集団だった可能性がある」と、2人は言う。
「メンバーは歯の形によって身元を証明し、仕事の上での保護や特権を得たのかもしれない。この説は、正式なギルドが生まれる前のバイキング時代に、より大規模で組織化された商人の共同体が存在していたことを示唆している」
頭蓋骨の変形(全て女性の人骨に見られた)を説明付けるのは、歯に掘った溝の場合より「はるかに難しい」と、2人は言う。だが彼らは入手可能な証拠から、この風習はバイキング時代のゴットランド島の文化の一部ではなく、ヨーロッパ南東部から伝わったと考えている。
「この身体改造がもともと何を意味していたのかは分からない」と、2人は言う。「もしかしたら社会的地位や美しさ、あるいは特定の社会集団の印だったのかもしれない」
3体の人骨のうち少なくとも2体は、この地域で埋葬された女性に通常見られるよりも多くの宝石を身に着けていた(3人目の墓は現代になって破壊されたため、この女性がどのように埋葬されたかは分からない)。
「これらの女性たちは外国人であることがはっきりしていたのに、地域社会に溶け込んでいた」と、2人の研究者は言う。
「バイキング時代のゴットランド島のような交易中心の社会では、彼女たちの異質な外見は、交易網が遠くまで広がっている証しとして理解されていただろう。このことは、バイキング時代のゴットランド島社会が非常に開放的で、外国の影響も統合できたことを示唆している」
身体改造を施したバイキング時代の人骨──人為的に引き伸ばすように変形させた頭蓋骨 ©SHM/JOHNNY KARLSSON CC BY 2.5 SE
ヤスリをかけて水平に溝を掘った前歯 ©SHM/LISA HARTZELL CC BY 2.5 SE
<死者のための空間として建てられたとみられる600〜950年頃の建築群から、人為的に変形されたと思われる成人の骨が見つかった>
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