舞田敏彦(教育社会学者)
<死因別の比較で見ると、特に未婚男性の比率が高いのは肺炎や糖尿病、高血圧、腎不全>
未婚化に歯止めがかからず、2020年時点の男性の生涯未婚率は25%を超えた(『国勢調査』)。4人に1人が生涯結婚することなく独り身で暮らす、ということだ。家族がいないことによる孤独に加え、食生活も乱れやすくなる。孤食はもちろん、自分の好きなものばかりを食べる「固食」にもなりがちだ。
厚労省の『人口動態統計』を見ると、筆者くらいの中年男性の死亡率は既婚者よりも未婚者で高い。未婚の男性は、不健康な食生活になりやすいためだろう。細かい死因別の死亡者数を比較すると、この推測が確からしく思えてくる。
『人口動態統計』には、主な死因の年間死亡者薄が配偶関係別に出ている。45~64歳の男性を未婚者と有配偶者に分けて、主要死因の死亡者数を取り出すと<表1>のようになる。未婚者とは、一度も結婚したことがない人をいう。
死亡者の総数(一番下)は未婚者が2万4624人、有配偶者が2万8258人となっている。後者のほうがベース人口の上で多数なのだから当然だ。
しかし死因別に見ると、「未婚者>有配偶者」のものが多い。肺炎の死亡者数は未婚者が750人、有配偶者が288人。糖尿病や高血圧疾患による死亡者数も、未婚者は有配偶者の倍以上だ。ベース人口の差を考慮すると、未婚者がこれらの病で命を落とす確率は、有配偶者よりだいぶ高いことになる。
2020年の『国勢調査』によると、同年10月時点の45~64歳男性(日本人)の未婚者は347万3234人、有配偶者は1103万8376人。よって、トータルの死亡率は以下のようになる。ベース人口10万人あたりの死亡者数だ。
▽未婚者=2万4624人/347万3234人=709.0人
▽有配偶者=2万8258人/1103万8376人=256.0人
同じ中高年男性でも、未婚者の死亡率は有配偶者の2.8倍にもなる。死因別に見ると、この倍率はもっと大きい。<表1>の各死因の死亡者数をベース人口で割った死亡率にし、「未婚者/有配偶者」の倍率が大きい順に並べると、<表2>のようになる。
肺炎による死亡率は未婚者が21.6、有配偶者が2.6で、前者は後者の8.3倍にもなる。糖尿病は7.5倍、高血圧は6.8倍、腎不全も6.4倍もの差が出ている。
肺炎はタバコ、糖尿病は甘いもの(脂っこいもの)、高血圧や腎不全は塩分の摂り過ぎだろう。こういう習癖に陥りやすいのは、食を「他律」されることがない未婚者だろう。同居の家族がいない独り暮らしの人は、とくに注意を要する。
だがそもそも、未婚者には低学歴・低収入といった不利な属性の人が多く、安価なジャンクフード等に依存せざるを得ない、という実態もある。アメリカでは、社会経済的地位による「健康格差」が問題化しているが、多かれ少なかれ日本も同じだろう。
前回の記事(「休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年で倍増している」)では、ご飯を食べられない国民が増えている現実を示した。奢侈品を除く食品については、消費税率を下げる(撤廃する)ことも考えなければならないだろう。
本記事では中高年男性のデータを見たが、この人たちは学校で家庭科を学んでいない。未婚の単身者となると、食生活が乱れやすいのも当然だ。中高の家庭科が男女共修になって久しいものの、この教科の学習が蔑ろになっていることはないか(とくに男子)。ここで示したような健康格差があることを踏まえ、食に対する生徒の関心を高めていく必要がある。
<資料:厚労省『人口動態統計』(2020年)、
総務省『国勢調査』(2020年)>
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未婚化に歯止めがかからず、2020年時点の男性の生涯未婚率は25%を超えた(『国勢調査』)。4人に1人が生涯結婚することなく独り身で暮らす、ということだ。家族がいないことによる孤独に加え、食生活も乱れやすくなる。孤食はもちろん、自分の好きなものばかりを食べる「固食」にもなりがちだ。
厚労省の『人口動態統計』を見ると、筆者くらいの中年男性の死亡率は既婚者よりも未婚者で高い。未婚の男性は、不健康な食生活になりやすいためだろう。細かい死因別の死亡者数を比較すると、この推測が確からしく思えてくる。
『人口動態統計』には、主な死因の年間死亡者薄が配偶関係別に出ている。45~64歳の男性を未婚者と有配偶者に分けて、主要死因の死亡者数を取り出すと<表1>のようになる。未婚者とは、一度も結婚したことがない人をいう。
死亡者の総数(一番下)は未婚者が2万4624人、有配偶者が2万8258人となっている。後者のほうがベース人口の上で多数なのだから当然だ。
しかし死因別に見ると、「未婚者>有配偶者」のものが多い。肺炎の死亡者数は未婚者が750人、有配偶者が288人。糖尿病や高血圧疾患による死亡者数も、未婚者は有配偶者の倍以上だ。ベース人口の差を考慮すると、未婚者がこれらの病で命を落とす確率は、有配偶者よりだいぶ高いことになる。
2020年の『国勢調査』によると、同年10月時点の45~64歳男性(日本人)の未婚者は347万3234人、有配偶者は1103万8376人。よって、トータルの死亡率は以下のようになる。ベース人口10万人あたりの死亡者数だ。
▽未婚者=2万4624人/347万3234人=709.0人
▽有配偶者=2万8258人/1103万8376人=256.0人
同じ中高年男性でも、未婚者の死亡率は有配偶者の2.8倍にもなる。死因別に見ると、この倍率はもっと大きい。<表1>の各死因の死亡者数をベース人口で割った死亡率にし、「未婚者/有配偶者」の倍率が大きい順に並べると、<表2>のようになる。
肺炎による死亡率は未婚者が21.6、有配偶者が2.6で、前者は後者の8.3倍にもなる。糖尿病は7.5倍、高血圧は6.8倍、腎不全も6.4倍もの差が出ている。
肺炎はタバコ、糖尿病は甘いもの(脂っこいもの)、高血圧や腎不全は塩分の摂り過ぎだろう。こういう習癖に陥りやすいのは、食を「他律」されることがない未婚者だろう。同居の家族がいない独り暮らしの人は、とくに注意を要する。
だがそもそも、未婚者には低学歴・低収入といった不利な属性の人が多く、安価なジャンクフード等に依存せざるを得ない、という実態もある。アメリカでは、社会経済的地位による「健康格差」が問題化しているが、多かれ少なかれ日本も同じだろう。
前回の記事(「休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年で倍増している」)では、ご飯を食べられない国民が増えている現実を示した。奢侈品を除く食品については、消費税率を下げる(撤廃する)ことも考えなければならないだろう。
本記事では中高年男性のデータを見たが、この人たちは学校で家庭科を学んでいない。未婚の単身者となると、食生活が乱れやすいのも当然だ。中高の家庭科が男女共修になって久しいものの、この教科の学習が蔑ろになっていることはないか(とくに男子)。ここで示したような健康格差があることを踏まえ、食に対する生徒の関心を高めていく必要がある。
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総務省『国勢調査』(2020年)>
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