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【写真特集】写真の力で混迷を増す世界を捉えて

ニューズウィーク日本版 2024年4月27日 13時19分

Picture Power
<第67回目となる世界報道写真コンテストでは、世界のプロ・フォトグラファー3,851人から応募された6万点を超す報道写真、ドキュメンタリー写真から入賞作を選出。混迷を深める世界を報道の「目」はどう捉えたか>

【写真】
左)「世界報道写真単写真」大賞 『姪の亡きがらを抱くパレスチナ人女性』  Mohammed Salem 昨年10月17日、ガザ地区の自宅がイスラエル軍のミサイル攻撃で破壊され、家族4人と共に死亡した姪のサリー(5歳)を抱き締める女性。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、昨年末までのガザ地区の死者のうち3分の2が女性と子供だという © Mohammed Salem, Reuters 
右上)「世界報道写真単写真」特別賞 『イスラエルのガザ空爆』  Mustafa Hassouna 昨年10月19日、イスラエルの空爆で破壊された家々の瓦礫の中を歩く住民。この空爆で大学と住宅の約25棟が被害を受けた © Mustafa Hassouna, Anadolu Images
右下)「世界報道写真単写真」特別賞『音楽祭襲撃の直後』  Leon Neal 昨年10月7日、ガザ地区との境界近くで行われた音楽祭をハマスの戦闘員が奇襲。数百人を殺害し、数十人を連れ去った © Leon Neal, Getty Images

昨年10月、イスラム組織ハマスによるイスラエル南部襲撃で再燃したパレスチナ自治区ガザの紛争。今年の世界報道写真コンテストの単写真部門の大賞は、イスラエルの報復による空爆で亡くなった姪を抱くパレスチナ人女性を捉えた1枚が選ばれた。67回目となる今回のコンテストには、世界中のフォトグラファーから6万点超の報道やドキュメンタリー写真の応募があった。

異例だったのは、単写真部門の特別賞に、イスラエル側とガザ側双方の被害を記録したそれぞれの写真2枚を選んだと発表があったことだ。審査員団は対照的な2枚で「(戦場の)荒廃ぶりのさまざまな規模感を示す」のが狙いだとした。しかし写真の並立は、長年のイスラエルによる封鎖や今回の紛争で深刻さを増すガザの人道危機を矮小化する、という批判も出ている。
混迷を深める世界を報道の「目」はどう捉えたか。受賞作の一部を紹介する。

片岡英子(本誌フォトエディター)

 【連載20周年】 Newsweek日本版 写真で世界を伝える「Picture Power」
    2024年4月30日、5月7日号 掲載

「単写真(東南アジア・オセアニア)」部門 『沈むことなく闘う』  Eddie Jim 南太平洋の島国フィジーのキオア島の長老が記憶をたどり、少年時代に海岸線があった地点に孫と共に立つ。世代を超える海面上昇の影響を表現した。同島には1940年代に隣国ツバルから移住した人々が多いが、海面上昇のせいでさらに住民が故郷を離れる事態も懸念される© Eddie Jim, The Age/Sydney Morning Herald

「オープン・フォーマット(アジア)」部門 『心の糸』 »松村和彦 本誌2022年2月1日号でも紹介した京都新聞写真記者・松村和彦が、認知症の症状や患者の心情、家族や介護者との関係性を丁寧に写し取った作品。認知症を理解して当事者に思いを寄せる周囲の環境が「薬」になるという視点や、審美的スタイルが高い評価を得た © Kazuhiko Matsumura, for The Kyoto Shimbun

「長期取材プロジェクト(欧州)」部門『ノー・マンズ・ランド』 Daniel Chatard ドイツ西部ハンバッハの森にある環境活動家の拠点施設を撤去をする警察官。ドイツは再生エネルギー移行のリーダー的存在でありながら石炭への依存が大きい。炭鉱建設のための森林伐採、土地買収などの阻止を目指す環境活動家と警察を長期取材した作品 © Daniel Chatard

「ストーリー(欧州)」部門 『カホフカ・ダム:紛争地域の洪水』  Johanna Maria Fritz 昨年6月6日、ウクライナ南東部のロシア支配地域にあるカホフカ・ダムが爆発により破壊された。ドニプロ川下流のヘルソンでは大規模な洪水が発生し、数百人が死亡したとされる。インフラ環境の兵器化が人間に与える影響を可視化したストーリー © Johanna Maria Fritz, Ostkreuz, for Die Zeit

「ストーリー(アジア)」部門 『危機に瀕するアフガニスタン』  Ebrahim Noroozi 昨年11月17日、パキスタンとの国境近くにあるキャンプで横たわる難民。アフガニスタンでは2021年のタリバンによる制圧以来、外国援助がなくなり経済が崩壊。干ばつと2つの大地震が危機に追い打ちをかけた。一連の人物描写で荒廃する国を記録した中の1枚 © Ebrahim Noroozi, Associated Press

「世界報道写真長期取材プロジェクト」大賞 『2つの壁』  Alejandro Cegarra 2019年、メキシコ政府は寛大だった移民政策を厳格化。南方から入国を目指す移民に対する暴力や当局の汚職の原因となり、国境付近の不安定化につながった。ベネズエラからメキシコへ移住した撮影者自らの経験を生かし、移民の現状を長期間をかけて記録した作品 © Alejandro Cegarra, The New York Times/Bloomberg

「オープン・フォーマット(アフリカ)」部門 『漂流』  Felipe Dana and Renata Brito 2021年5月、アフリカ北西部モーリタニアの漁船がカリブ海のトバゴ島に漂着。船内で遺体が複数発見された。彼らは何者で、なぜ大西洋の反対側にいたのか。欧州を目指したはずの彼らの故郷やルートを調査し、危険を冒す移民の知られざる物語を記録したウェブ作品 © Felipe Dana and Renata Brito, Associated Press

「世界報道写真オープンフォーマット」大賞 『戦争は私的なもの』  Julia Kochetova ウクライナ東部ハルキウ州で「検問所」を作る子供。メディアが地図や統計で戦況を伝えるのに対し、受賞者は個人のウェブサイトを通じてフォトジャーナリズムとドキュメンタリー形式の日記を組み合わせ、個々人の日常の現実としての戦争がどのようなものかを伝える © Julia Kochetova

「ストーリー(アフリカ)」部門 『バリム・バベナ』  Lee-Ann Olwage 孫娘と教会へ行く準備をする認知症のダダ・ポール(91歳)。マダガスカルでは、認知症を発症すると、社会の認識不足から差別の対象になる。現地の「バリム・バベナ」(子は親を世話するべきという原則)に従い、認知症の父親を介護する娘と家族の物語 © Lee-Ann Olwage, for GEO

「単写真(南米)」部門 『アマゾンの干ばつ』  Lalo de Almeida ブラジル北部ポルトプライア先住民居住区付近のアマゾン川支流の乾いた川底を、漁師が歩く。昨年、アマゾン川流域は観測史上最悪の干ばつに見舞われた。交通を船運に頼るこの地域では水のない川を歩くしかない。干ばつの深刻さと世界的な環境危機を語る1枚 © Lalo de Almeida, for Folha de São Paulo



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