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日本と韓国では女性や若手の校長が特異的に少ない

ニューズウィーク日本版 2024年5月2日 14時45分

舞田敏彦(教育社会学者)
<能力(何ができるか)よりも属性(何であるか)がモノを言う両国の特徴が教育現場でも如実に出ている>

教員にはいろいろな職階があるが、そのトップは校長だ。校長は「校務をつかさどり、所属職員を監督する」(学校教育法37条)。また職員会議を主宰するなど、それなりの権限を有している。政策文書でも「校長のリーダーシップ」という文言が必ずといっていいほど盛り込まれ、学校運営の成否は校長の手腕にかかっているといっても過言ではない。

その校長がどういう属性の人かを見ると、男性が大半を占める。やや古いが、OECDの国際教員調査「TALIS 2018」によると、日本の中学校校長の女性割合は8.0%でしかない。他国はどうかというと、韓国は23.0%,アメリカは41.6%、スウェーデンに至っては62.6%が女性だ。海外の教育関係者が日本の学校を視察した際、校長が男性ばかりであることに驚くというが、無理からぬことだ。

 

教員全体の女性割合の違いを考慮しても、日本では、女性から校長が出にくいといえる。日本の中学校教員の女性割合は42.2%なのに、校長では8.0%でしかない。両性から同じ確率で校長が出ているとしたら、この2つの数値は同じであるはずだが、現実はかなり隔たっている。後者を前者で割ると0.190。女性から校長が出るチャンスは、期待値(1.00)の5分の1でしかないことになる。

主要国について、同じ数値を計算すると<表1>のようになる。

女性からどれほど校長が出やすいかは、右端の輩出度で示されている。日本の数値(0.190)は、7か国の中で最も低い。もっと大きく括ると、日韓と他の国々の段差が大きい。アメリカ、イギリス、フランスでは、期待値の6~7割のチャンスで女性校長が出ている。スウェーデンは男女でほぼ均等、ブラジルに至っては男性より女性からの方が校長は出やすい(1.00以上)。日本の状況が特異であることが分かる。

日本では管理職への昇進の性差が大きいというが、学校でもそれが出ている。いや、学校の方が顕著といえるかもしれない。激務もあってか、小・中学校の女性教員の93%が「管理職になりたくない」と答え、そのうちの半数が「自分の家庭の育児や介護等との両立が難しい」という理由を挙げている(国立女性教育会館『学校教員のキャリアと生活に関する調査』2018年)。

当人が希望しないのだからという話ではなく、家庭における家事・育児・介護等の負担が女性に偏っている状況を変えないといけない。女性の校長が増え、学校でジェンダーフリー教育が推進されるためにもだ。

次に年齢という観点から、若年層からの校長の出やすさも比較してみる。同じく「TALIS 2018」によると、日本の中学校校長のうち50歳未満の者(以下、若年層)は皆無だ。年齢主義が強く、若い人が昇進を望んでも、能力に関係なく「まだ早い」と止められたりする。対してアメリカでは校長の63.7%が若年層で、教員全体の若年層割合(69.0%)とほぼ等しい。校長の出やすさに年齢は関係なく、あくまで能力を重視するお国柄が出ている。

<図1>は横軸に女性、縦軸に若年層からの校長の出やすさをとった座標上に、48の国のドットを配置したグラフだ。

 

日本と韓国は、両軸とも値が低く左下の方にある。女性から校長が出る確率は期待値(1.00)の2~3割で、若年層からはゼロだ。「何ができるか(能力)」よりも、あくまで「何であるか(属性)」がモノをいう国で、文化のようなものも出ている。ここで押さえるべきは、日本は属性による昇進チャンスの閉鎖性が強い国であることだ。学校では、それがひときわ強く表れている。校長の登用の在り方を検討する余地があるだろう。

職歴(キャリア)という点でも、もっと多様性を促していい。制度上は、教員免許を持たない人も校長に採用でき(学校教育法施行規則22条)、民間人校長が学校経営に敏腕をふるうケースも増えている。学習指導要領がいう「社会に開かれた教育課程」を組むことにも寄与する。

<資料:OECD「TALIS 2018」>

 

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