コリン・ジョイス
<イギリスでいま目にしているのは、長期の政権を保っていた英保守党が支持を失い、軽蔑され、確実に敗北に向かっていく過程>
1つの党による長期の政権支配が終わりを迎える過程を、僕はいま興味深く見守っている。僕の経験上、母国イギリスで知る限り、こうした機会は過去2回あったが、どちらも「見逃して」しまった。
英保守党は1979~1997年にわたり政権を握っていたが、その最後の数年、僕は日本で暮らしていた。労働党は13年にわたり政権の座にあったが、2010年についに下野し、それは僕がイギリスに帰国してからまだ1週間ほどの時期だった。
だから、かつては信頼を寄せていたり、あるいは少なくともひどい選択肢の中では一番マシだと思っていた政党を人々が軽蔑するようになる......というような手のひら返しの心境を、僕自身は経験することはなかった。そして、重要な転換点となるような出来事をメディアで見聞きしてはいても、手のひら返しに至るような経過をこの目で見守ることがなかった。
たった今、保守党は今年行われることが確実な次の総選挙で、敗北間違いなしとされている。分別のある人なら誰でも、保守党がまだ勝てる見込みがあるかどうかではなく、どのくらいの規模で敗れるだろうかと推定している。
伝統的に保守党優勢の地域では議席を守れるだろうか? あるいはまともな政党としての終焉を迎えるほど大規模に一掃されてしまうのか?(これは1993年のカナダ総選挙で進歩保守党に起こった出来事のようだ。進歩保守党は政権を何度も担当してきた2大政党の一角だったが、改選前の169議席のうち167議席を失うという惨敗を喫し、ミニ政党に転落してしまった。今回のイギリスでも同じ展開があるだろうかと話している人がいたので、僕はこの事実を初めて知った)。
立候補せず引退する議員が大量に
個人的に興味深く注目したのは、権力が「衰退する」1つの道のりだ。この3月に読んだ記事によると、保守党の議員63人が次回選挙に立候補しない予定で、これは現在の保守党国会議員の約5分の1に相当するという。だからそれは「経験流出」であり「頭脳流出」に当たるかもしれない。これで保守党が選挙で勝利するのはますます厳しくなるだろうし、選挙後の勢力回復はさらに難しくなるだろう。
保守党が再び国民の期待を集めるためには、「新世代」の人材が現れるのを待つ必要があるかもしれない。つまり、勝てる見込みもない選挙に立候補するチャンスをじっと見据えながら、輝かしくない役割をも率先して引き受けようとする若者たちだ。
このプロセスは10年以上かかる可能性があるが、トニー・ブレアとゴードン・ブラウンが時代遅れの「恐竜」と化していた労働党を復活させたのも、デービッド・キャメロンとジョージ・オズボーンが保守党体質を「解毒」させたのも、この手法だった。
今回、引退する議員の中には、41歳で未来を担うかもしれない人物だった、僕の地元のウィル・クインスも含まれる。国中で多くの人々が労働党支持に転じたとしても、彼は次回選挙で再選を果たす可能性が十分にあったと僕は考えている。だから彼の政界引退は単に「避けられない事態を先に済ませた」というわけではない。
僕の地元は「三つ巴」の構図なので、「反・保守党票」が労働党と自由民主党の間で割れる可能性がある。僕が思うにクインスはまともな議員だったから、チャンスだってあった。おそらく彼について最も知られているのは、死産したり乳幼児と死別したりした親に有給休暇を与える法律を成立するために尽力し、成し遂げたことだ。
個人的には、僕の気が狂いそうなほどイライラさせられたトラブルの解決に手を貸してくれたから、僕は彼に感謝している。以前僕は、うちの近所で一晩中うるさい音を立てて稼働している発電機を何とかしてほしいと地元当局に何カ月も訴えていた。必死の思いでクインス議員に手紙を書き、彼が関与してくれるようになると、すぐさま物事が動き出した。
なぜこんなことを言うかというと、議員が自分の地元の選挙区民を悩ましている地元の些細な問題を気にかけてくれるか、それとも当選後は選挙区民のことなどすっかり忘れてしまうか、というのは、人々が国会議員を判断する基準の1つになるからだ。
だから彼は次回選挙で勝つことができたかもしれないが、そうだとしても明らかに、与党議員ほど面白くもなくやりがいもない野党議員の立場に甘んじなければならなくなっていたことだろう。
後任は知名度だけのタレント議員
国会議員が引退すると聞くと、誰もがシニカルに、どうせ「よりおいしい仕事」に就くんだろう、と考えがちだ。何かしら高給の閑職とか、元政治家が政界の世渡り術をフルに売り込めるようないかがわしい「コンサルティング」業務とか、カネさえ出す人なら誰にでも「コネを作ってあげる」役割とか。でもクインスは最近、将校として英軍に所属したところなので、今後は軍人という立場で公務を続けることを考えていると思われる。
僕の地元の保守党は既にクインスの後任候補を選出しているが、政治的実績もなく地域に何のつながりもない人物だけに、僕は正直言って不満に感じている。彼にあるのは有名人という強みだ。ジェームズ・クラックネルはボート競技でオリンピック金メダリスト、スポーツマンとして当然ながら有名だ。
でも僕は本能的に、最大のアピールポイントは知名度である、というタレント政治家は疑いの目で見てしまう。もしかしたら今後、クラックネルが興味深い政治アイデアに満ちていて政治の仕事にあふれんばかりのエネルギーを持ち合わせていることが判明するかもしれない。そうしたら謝ろう。でも僕がまず思ったのは、彼を選んだことには落ち目の政党の必死さが見え隠れしているし、僕の地元選挙区の重要度が下がったらしいのが見て取れる、ということだ。
<イギリスでいま目にしているのは、長期の政権を保っていた英保守党が支持を失い、軽蔑され、確実に敗北に向かっていく過程>
1つの党による長期の政権支配が終わりを迎える過程を、僕はいま興味深く見守っている。僕の経験上、母国イギリスで知る限り、こうした機会は過去2回あったが、どちらも「見逃して」しまった。
英保守党は1979~1997年にわたり政権を握っていたが、その最後の数年、僕は日本で暮らしていた。労働党は13年にわたり政権の座にあったが、2010年についに下野し、それは僕がイギリスに帰国してからまだ1週間ほどの時期だった。
だから、かつては信頼を寄せていたり、あるいは少なくともひどい選択肢の中では一番マシだと思っていた政党を人々が軽蔑するようになる......というような手のひら返しの心境を、僕自身は経験することはなかった。そして、重要な転換点となるような出来事をメディアで見聞きしてはいても、手のひら返しに至るような経過をこの目で見守ることがなかった。
たった今、保守党は今年行われることが確実な次の総選挙で、敗北間違いなしとされている。分別のある人なら誰でも、保守党がまだ勝てる見込みがあるかどうかではなく、どのくらいの規模で敗れるだろうかと推定している。
伝統的に保守党優勢の地域では議席を守れるだろうか? あるいはまともな政党としての終焉を迎えるほど大規模に一掃されてしまうのか?(これは1993年のカナダ総選挙で進歩保守党に起こった出来事のようだ。進歩保守党は政権を何度も担当してきた2大政党の一角だったが、改選前の169議席のうち167議席を失うという惨敗を喫し、ミニ政党に転落してしまった。今回のイギリスでも同じ展開があるだろうかと話している人がいたので、僕はこの事実を初めて知った)。
立候補せず引退する議員が大量に
個人的に興味深く注目したのは、権力が「衰退する」1つの道のりだ。この3月に読んだ記事によると、保守党の議員63人が次回選挙に立候補しない予定で、これは現在の保守党国会議員の約5分の1に相当するという。だからそれは「経験流出」であり「頭脳流出」に当たるかもしれない。これで保守党が選挙で勝利するのはますます厳しくなるだろうし、選挙後の勢力回復はさらに難しくなるだろう。
保守党が再び国民の期待を集めるためには、「新世代」の人材が現れるのを待つ必要があるかもしれない。つまり、勝てる見込みもない選挙に立候補するチャンスをじっと見据えながら、輝かしくない役割をも率先して引き受けようとする若者たちだ。
このプロセスは10年以上かかる可能性があるが、トニー・ブレアとゴードン・ブラウンが時代遅れの「恐竜」と化していた労働党を復活させたのも、デービッド・キャメロンとジョージ・オズボーンが保守党体質を「解毒」させたのも、この手法だった。
今回、引退する議員の中には、41歳で未来を担うかもしれない人物だった、僕の地元のウィル・クインスも含まれる。国中で多くの人々が労働党支持に転じたとしても、彼は次回選挙で再選を果たす可能性が十分にあったと僕は考えている。だから彼の政界引退は単に「避けられない事態を先に済ませた」というわけではない。
僕の地元は「三つ巴」の構図なので、「反・保守党票」が労働党と自由民主党の間で割れる可能性がある。僕が思うにクインスはまともな議員だったから、チャンスだってあった。おそらく彼について最も知られているのは、死産したり乳幼児と死別したりした親に有給休暇を与える法律を成立するために尽力し、成し遂げたことだ。
個人的には、僕の気が狂いそうなほどイライラさせられたトラブルの解決に手を貸してくれたから、僕は彼に感謝している。以前僕は、うちの近所で一晩中うるさい音を立てて稼働している発電機を何とかしてほしいと地元当局に何カ月も訴えていた。必死の思いでクインス議員に手紙を書き、彼が関与してくれるようになると、すぐさま物事が動き出した。
なぜこんなことを言うかというと、議員が自分の地元の選挙区民を悩ましている地元の些細な問題を気にかけてくれるか、それとも当選後は選挙区民のことなどすっかり忘れてしまうか、というのは、人々が国会議員を判断する基準の1つになるからだ。
だから彼は次回選挙で勝つことができたかもしれないが、そうだとしても明らかに、与党議員ほど面白くもなくやりがいもない野党議員の立場に甘んじなければならなくなっていたことだろう。
後任は知名度だけのタレント議員
国会議員が引退すると聞くと、誰もがシニカルに、どうせ「よりおいしい仕事」に就くんだろう、と考えがちだ。何かしら高給の閑職とか、元政治家が政界の世渡り術をフルに売り込めるようないかがわしい「コンサルティング」業務とか、カネさえ出す人なら誰にでも「コネを作ってあげる」役割とか。でもクインスは最近、将校として英軍に所属したところなので、今後は軍人という立場で公務を続けることを考えていると思われる。
僕の地元の保守党は既にクインスの後任候補を選出しているが、政治的実績もなく地域に何のつながりもない人物だけに、僕は正直言って不満に感じている。彼にあるのは有名人という強みだ。ジェームズ・クラックネルはボート競技でオリンピック金メダリスト、スポーツマンとして当然ながら有名だ。
でも僕は本能的に、最大のアピールポイントは知名度である、というタレント政治家は疑いの目で見てしまう。もしかしたら今後、クラックネルが興味深い政治アイデアに満ちていて政治の仕事にあふれんばかりのエネルギーを持ち合わせていることが判明するかもしれない。そうしたら謝ろう。でも僕がまず思ったのは、彼を選んだことには落ち目の政党の必死さが見え隠れしているし、僕の地元選挙区の重要度が下がったらしいのが見て取れる、ということだ。