岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)
<日本ではSDGsが主流だが、欧州では環境を前面に打ち出した循環経済に注力>
サーキュラーエコノミーは日本語で「循環型経済」と呼ぶ。ひと言でいうと、経済活動において、「資源をできるだけ再利用し、その価値を最大限に使用すること」だ(ただし、いくつかの概念や解釈がある)。
筆者はサーキュラーエコノミーという言葉が使われていなかったおよそ20年前から、ヨーロッパの事例について日本に紹介してきた(スイス発:ペットボトルや古新聞等のリサイクル品を運ぶための洗えるバッグの販売、ドイツ発:赤ちゃん向けの有機素材の肌着・上着レンタルなど)。そして今や、ヨーロッパではサーキュラーエコノミーを実現している企業が着実に増えてきている。
第8回世界循環経済フォーラム(WCEF)が開催
ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミー関連のイベントが多数開催されている。今年で第8回目を迎えた世界循環経済フォーラム(World Circular Economy Forum 略してWCEF)は、代表的なイベントだ。本フォーラムは、フィンランドのSitra(フィンランド政府イノベーション基金)が主催している(参考:Sitraライフスタイルテスト)。
今年は2024年4月15日から18日まで、ブリュッセルで開催された。世界中からビジネスリーダーや政治関係者らが参加し、サーキュラーエコノミーを理論から実践に移すことについて語り合い、世界をリードするサーキュラーエコノミー例が紹介された。
今年の参加国は168カ国。1500人以上が現地に足を運び、オンライン参加者は8000人以上だった。プレス担当によると、日本からは15人が現地参加、105人がオンライン参加した。
前半2日間は主に講演(パネルディスカッション)、後半2日間は具体的な例に迫る「アクセラレーターセッション」の日程で、ベルギーの先進企業訪問のほか、北欧における循環型建設、アフリカの鉱山分野における循環性の強化、昆虫や幼虫を使ってプラスチックなどの廃棄物を生分解する方法といった様々なテーマの会が繰り広げられた。
「国家間の協力」と「イノベーション」がカギ
筆者は15・16日の講演にオンライン参加した。初日のセッション「循環的なビジョンを行動に変える」の中では、オランダのビビアネ・ハイネン社会基盤・水管理担当国務相、アフリカ開発銀行の気候変動とグリーン成長部門マネージャー、アル‐ハマンドゥ・ドゥルスマ氏、アンブロワーズ・ファヨール欧州投資銀行副総裁の3人のパネリストによる討論が行われた。
「循環的なビジョンを行動に変える」セッションにおけるパネルディスカッション「ガバナンスと財政は理論をどう実践化できるか?」 photo by Marian Stănescu ©Sitra
3人はサーキュラーエコノミーの実践について30分ほど語った。ハイネン社会基盤・水管理担当国務相は、「サーキュラーエコノミーは単独で行うことはできない。サーキュラーエコノミー先進国として知られるオランダは、持っているアイデアや専門知識を他国に提供し、他国から学ぶことも重視している。また、サーキュラーエコノミーは原材料の調達や製品に関してグローバルな価値の変化をもたらすことができ、例えば、アフリカの国々によいインパクトを与えるだろう」と話した。
ドゥルスマ氏は「アフリカにおいて、サーキュラーエコノミーは新しいことではない。目を引く事例はすでにある。今必要なことはスケールアップ。それには、まず各国政府が正しい方針と規則を示し、次に金融機関がサーキュラーエコノミーを単なるビジネスチャンスだととらえるのではなく、自らを、気候変動による生物多様性の損失や公害に対応するためのグローバルなコミュニティーの一員ととらえることも大切だ。サーキュラーエコノミーのスタートアップの存在も大切で、少額の資金と技術的な援助があれば、大きく成長できるはず」と説明した。
欧州投資銀行のファヨール氏は、サーキュラーエコノミーに対してのビジョンを語った。「サーキュラーエコノミーはヨーロッパの政策がどこに向かっているかと密接に関係していて、サーキュラーエコノミーのコンセプトを持たない企業やプロジェクトには、多額の投資はしにくい。また、サーキュラーエコノミーにはイノベーションが不可欠で、欧州投資銀行はそれらのプロジェクトへの投資を続けているが、その割合を増やす必要性を感じている。昨年は気候と環境のプロジェクトに50億ユーロを当てたが、そのうち、サーキュラーエコノミー分野のプロジェクトは一部のみだった」
なお、EUは2024年末までにサーキュラーエコノミーリソースセンターを新設し、サーキュラーエコノミーが世界的に実践されるよう促進していくと本フォーラムで発表した。
中国もサーキュラーエコノミーに注力
「中国の循環的変革を明らかにする」セッションで語る、エレン・マッカーサー財団北京事務所のイソン・グアン代表 photo by Alexandru Enache ©Sitra
本フォーラムには、世界最大の製造国である中国も参加した。「中国の循環的変革を明らかにする」セッションでは、中国のベストサーキュラー実践や中国の循環経済発展を促進する国際協力といったテーマの発表があり、パネルディスカッションも行われた。
エレン・マッカーサー財団北京事務所のイソン・グアン代表は、「国内では、ゼロウエイストの施策を積極的に取り入れる市が増加している。製造分野では、サーキュラーエコノミーの実践が常識となってきている。サーキュラーエコノミーを取り入れる必要性がある場合、中国はバリューチェーンを最も手頃な費用で短期間に変えることができる。また、中国はサーキュラーエコノミーの知見を発展途上国に提供している」と現状を語った。
ヨーロッパとの関係については、「中国は、インフラ向上のためにヨーロッパの先端テクノロジーや設備を必要とし、ヨーロッパは、サーキュラーエコノミーの戦略と製品を提供できるという中国の強みを必要としている。また両者は、再生エネルギーやEVバッテリーといった新しい分野で共同していくことができる。サーキュラーエコノミーはこれまでにないほど重要になっている。サーキュラーエコノミーのビジョンに向けて、一緒に取り組んでいこう」と締めくくった。
ヨーロッパのサーキュラーエコノミー 先駆的な例
Sitraは今回のフォーラムで、建物と建設、食と農業、林業、繊維および織物の分野から、サーキュラーエコノミーを実践し、生物多様性の損失に取り組むヨーロッパの優良企業30社を公表した。産業繊維の染色に多種類の有毒化学物質を使う代わりに、自然界の生物が作り出す色のDNA配列をコピーした微生物を使うことで、水の消費量を減らし汚染を軽減することを目指す企業など、興味深いものばかりだ。
日本でもサーキュラーエコノミーの優れた実践は行われている。サーキュラーエコノミーの導入により新たな雇用創出も期待できるため、日本でもさらにイノベーションが増えれば、経済の活性化に貢献するはずだ。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com
<日本ではSDGsが主流だが、欧州では環境を前面に打ち出した循環経済に注力>
サーキュラーエコノミーは日本語で「循環型経済」と呼ぶ。ひと言でいうと、経済活動において、「資源をできるだけ再利用し、その価値を最大限に使用すること」だ(ただし、いくつかの概念や解釈がある)。
筆者はサーキュラーエコノミーという言葉が使われていなかったおよそ20年前から、ヨーロッパの事例について日本に紹介してきた(スイス発:ペットボトルや古新聞等のリサイクル品を運ぶための洗えるバッグの販売、ドイツ発:赤ちゃん向けの有機素材の肌着・上着レンタルなど)。そして今や、ヨーロッパではサーキュラーエコノミーを実現している企業が着実に増えてきている。
第8回世界循環経済フォーラム(WCEF)が開催
ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミー関連のイベントが多数開催されている。今年で第8回目を迎えた世界循環経済フォーラム(World Circular Economy Forum 略してWCEF)は、代表的なイベントだ。本フォーラムは、フィンランドのSitra(フィンランド政府イノベーション基金)が主催している(参考:Sitraライフスタイルテスト)。
今年は2024年4月15日から18日まで、ブリュッセルで開催された。世界中からビジネスリーダーや政治関係者らが参加し、サーキュラーエコノミーを理論から実践に移すことについて語り合い、世界をリードするサーキュラーエコノミー例が紹介された。
今年の参加国は168カ国。1500人以上が現地に足を運び、オンライン参加者は8000人以上だった。プレス担当によると、日本からは15人が現地参加、105人がオンライン参加した。
前半2日間は主に講演(パネルディスカッション)、後半2日間は具体的な例に迫る「アクセラレーターセッション」の日程で、ベルギーの先進企業訪問のほか、北欧における循環型建設、アフリカの鉱山分野における循環性の強化、昆虫や幼虫を使ってプラスチックなどの廃棄物を生分解する方法といった様々なテーマの会が繰り広げられた。
「国家間の協力」と「イノベーション」がカギ
筆者は15・16日の講演にオンライン参加した。初日のセッション「循環的なビジョンを行動に変える」の中では、オランダのビビアネ・ハイネン社会基盤・水管理担当国務相、アフリカ開発銀行の気候変動とグリーン成長部門マネージャー、アル‐ハマンドゥ・ドゥルスマ氏、アンブロワーズ・ファヨール欧州投資銀行副総裁の3人のパネリストによる討論が行われた。
「循環的なビジョンを行動に変える」セッションにおけるパネルディスカッション「ガバナンスと財政は理論をどう実践化できるか?」 photo by Marian Stănescu ©Sitra
3人はサーキュラーエコノミーの実践について30分ほど語った。ハイネン社会基盤・水管理担当国務相は、「サーキュラーエコノミーは単独で行うことはできない。サーキュラーエコノミー先進国として知られるオランダは、持っているアイデアや専門知識を他国に提供し、他国から学ぶことも重視している。また、サーキュラーエコノミーは原材料の調達や製品に関してグローバルな価値の変化をもたらすことができ、例えば、アフリカの国々によいインパクトを与えるだろう」と話した。
ドゥルスマ氏は「アフリカにおいて、サーキュラーエコノミーは新しいことではない。目を引く事例はすでにある。今必要なことはスケールアップ。それには、まず各国政府が正しい方針と規則を示し、次に金融機関がサーキュラーエコノミーを単なるビジネスチャンスだととらえるのではなく、自らを、気候変動による生物多様性の損失や公害に対応するためのグローバルなコミュニティーの一員ととらえることも大切だ。サーキュラーエコノミーのスタートアップの存在も大切で、少額の資金と技術的な援助があれば、大きく成長できるはず」と説明した。
欧州投資銀行のファヨール氏は、サーキュラーエコノミーに対してのビジョンを語った。「サーキュラーエコノミーはヨーロッパの政策がどこに向かっているかと密接に関係していて、サーキュラーエコノミーのコンセプトを持たない企業やプロジェクトには、多額の投資はしにくい。また、サーキュラーエコノミーにはイノベーションが不可欠で、欧州投資銀行はそれらのプロジェクトへの投資を続けているが、その割合を増やす必要性を感じている。昨年は気候と環境のプロジェクトに50億ユーロを当てたが、そのうち、サーキュラーエコノミー分野のプロジェクトは一部のみだった」
なお、EUは2024年末までにサーキュラーエコノミーリソースセンターを新設し、サーキュラーエコノミーが世界的に実践されるよう促進していくと本フォーラムで発表した。
中国もサーキュラーエコノミーに注力
「中国の循環的変革を明らかにする」セッションで語る、エレン・マッカーサー財団北京事務所のイソン・グアン代表 photo by Alexandru Enache ©Sitra
本フォーラムには、世界最大の製造国である中国も参加した。「中国の循環的変革を明らかにする」セッションでは、中国のベストサーキュラー実践や中国の循環経済発展を促進する国際協力といったテーマの発表があり、パネルディスカッションも行われた。
エレン・マッカーサー財団北京事務所のイソン・グアン代表は、「国内では、ゼロウエイストの施策を積極的に取り入れる市が増加している。製造分野では、サーキュラーエコノミーの実践が常識となってきている。サーキュラーエコノミーを取り入れる必要性がある場合、中国はバリューチェーンを最も手頃な費用で短期間に変えることができる。また、中国はサーキュラーエコノミーの知見を発展途上国に提供している」と現状を語った。
ヨーロッパとの関係については、「中国は、インフラ向上のためにヨーロッパの先端テクノロジーや設備を必要とし、ヨーロッパは、サーキュラーエコノミーの戦略と製品を提供できるという中国の強みを必要としている。また両者は、再生エネルギーやEVバッテリーといった新しい分野で共同していくことができる。サーキュラーエコノミーはこれまでにないほど重要になっている。サーキュラーエコノミーのビジョンに向けて、一緒に取り組んでいこう」と締めくくった。
ヨーロッパのサーキュラーエコノミー 先駆的な例
Sitraは今回のフォーラムで、建物と建設、食と農業、林業、繊維および織物の分野から、サーキュラーエコノミーを実践し、生物多様性の損失に取り組むヨーロッパの優良企業30社を公表した。産業繊維の染色に多種類の有毒化学物質を使う代わりに、自然界の生物が作り出す色のDNA配列をコピーした微生物を使うことで、水の消費量を減らし汚染を軽減することを目指す企業など、興味深いものばかりだ。
日本でもサーキュラーエコノミーの優れた実践は行われている。サーキュラーエコノミーの導入により新たな雇用創出も期待できるため、日本でもさらにイノベーションが増えれば、経済の活性化に貢献するはずだ。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com