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プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

ニューズウィーク日本版 2024年5月14日 17時30分

河東哲夫
<経済の過熱でインフラが激化すれば、プーチンの権力掌握を招いた98年デフォルト当時の情勢にロシアは逆戻り>

プーチン大統領の5期目が始まった。2030年までの任期いっぱい務め上げれば30年(08~12年の4年間は首相)。ロシア帝国時代ならまだしも、民主主義の現代には珍しいことだ。力で抑えているだけでなく、大衆が「お上」による分配に期待しているからこうなる。

しかも、西側の期待に反して、ロシア経済は「繁栄」を続ける。ロシアの経済は22年、制裁を受けて2.5%縮小したが、昨年は成長率がプラス3.6%に急上昇。軍需生産への支出急増と、労働力不足による企業間の賃上げ競争で、投資・消費共に増えているからだ。過熱ともいわれる繁栄感のなか、エリートの間ではヌードパーティーが流行し、イワノフ国防次官がウクライナ開戦後も物資調達での収賄で夫人に贅沢をさせていたとして拘束されるなど、19世紀の作家ゴーゴリが描いたロシア人の欲望の祭典は健在だ。

 

しかし、ロシアがウクライナで勝利してNATO諸国に攻め込むことはないだろう。昨年6月に始まったウクライナ軍の反転攻勢は、ロシア軍の固い防御に阻まれて失敗に終わったが、ロシアは逆攻勢に出ることができていない。これまでに3000両近くの戦車を破壊されたと推定され、ロシア十八番の砲撃戦も、砲弾を北朝鮮から推定で300万発も融通してもらったのはいいが、その中には爆発して砲身を破壊するものさえあると伝えられる。大砲製造には、高品質の鋼鉄を必要とし、それを成型するには精密な工作機械が必要だが、これは目下西側から輸入できない。

98年デフォルト当時と情勢は酷似

プーチンはこれまで、「ロシアには『主権』がある。日本、欧州諸国を見ろ。自分で自分のことを決められない」と憎まれ口をたたいてきたが、昨年末あたりから「経済面での主権も重要だ」と言うようになった。これが今回、5期目就任のスピーチで公式に顔を出している。つまりプーチンはウクライナ戦争で、ロシアの経済力、技術力の不足を嫌というほど味わわされたのだ。

5月9日の戦勝記念日。軍パレードの戦車はただ1台、第2次大戦中の「骨董品」が赤の広場への坂をガラガラと上った。近く任命される「新閣僚」もほとんどは居座り。70年前の戦車同様、その精勤ぶりにはもう痛々しいものがある。

プーチンは9日の大統領布告で、国民生活の飛躍的向上を約束しているが、国防費をGDPの6%相当まで増やしておきながら、どうやって「国民生活の向上」を図れるというのか。プーチンは今、法人・個人が共に対象の増税を画策している。

経済の過熱は、インフレを激化させる。そうなれば、エリツィンからプーチンへの権力禅譲を招いた1998年8月のデフォルト宣言当時に情勢は酷似する。歴史は一回りして、何もなかった時に戻るのだ。

プーチンの後継は、公安機関に支えられて体制内から出てくるだろう。しかし長期政権が代わると、公安関係者たちも利権の奪い合いを始めかねない。権力は数年にわたり安定を欠くだろう。

 

ロシアには、今の世界での居場所がない。西側はロシアを敵視するし、途上国も経済力を欠くロシアに頼り切れない。石油で経済を回し、公安機関で社会を抑え付け、それをロシア正教や古い共同体的価値観で正当化する今のやり方では、ロシアの若い世代も夢と誇りを持てない。

もっとも、これから世界は気候変動で冷暖房需要が増大し、原油・天然ガス・石炭がもっと発電に消費され、ロシアを救うかもしれない。ロシアは半分沈んでも、いつまでも海上を漂う大船のようなものだ。

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