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政治資金改革を時間稼ぎの「政局的な話」としか考えていない自民党

ニューズウィーク日本版 2024年5月17日 10時42分

藤崎剛人
<政治資金問題について野党の追及を受けると「自民党の力をそぐための政局的な話」を反論する自民党からは「被害者意識」しか感じられない>

自民党の裏金問題を機に、国会では政治資金改革の議論が活発に行われている。野党が企業団体献金や政治資金パーティーの禁止など踏み込んだ案を出す中、自民党の改革案が甘いといわれ、厳しく追求されている。

そのような状況下、自民党の政治刷新本部座長を務め同党の改革案をまとめる立場の鈴木馨祐議員が、5月12日、民放の政治番組に出た際に野党から厳しい政治資金改革を求められたことに対して「自民党の力を削ぎたいという政局的な話」と発言した。これは単なる失言ではなく、裏金問題について反省がなく、改革案すら積極的に「政局」に利用しようとする自民党の本音といえよう。

甘過ぎる与党の政治資金法改革案

自民党が今国会に提出するとされる政治資金規正法改革案は、野党案に比べて極めて緩いものだ。たとえば立憲民主党が政治資金パーティー、企業団体献金、政策活動費を全て禁止し、また会計責任者だけでなく議員本人の連座制を導入する案を提出しているのに対し、自民党のそれでは、10万円以上のパーティー券購入者の公開や、政策活動費の使途の概略公開にとどまる。

また連座制についても、会計責任者が不記載・虚偽記載で処罰された場合には、政治資金の収支報告書を確認した議員も責任を問われる可能性があるが、違反に「気づかなかった」場合には責任を免除される。これを野党は「なんちゃって連座制」と批判している。

こうした不十分な改革案は、自民党と公明党の与党内ですら合意を得ることはできなかった。5月16日に自民党は、この政治資金規正法改革案を単独提出する方針を決定した。

野党の追及に「自民党の力をそぐ」と反発する自民党議員

このような自民党の政治改革への「やる気のなさ」は、当然ながら野党によって徹底的に批判されている。5月12日に放映された政治討論番組には、改革案を作成する実務上の責任者である自民党の政治刷新本部座長、鈴木馨祐衆院議員が出演し、野党議員の追及に対して弁明をすることになった。そこで鈴木議員は、政治資金パーティーの禁止といった厳しい政治資金規正法改革を迫る野党議員に対し、「(政治資金問題の)再発防止と自民党の力をそぎたいという政局的な話がごっちゃになっている」と反発したのだ。

この発言がさらなる批判を招いたのはいうまでもない。れいわ新撰組の大石あきこ議員は、「いかに反省していないかって話。力削がなきゃいけないんですよ。その力の源泉は裏金だったわけじゃないですか」と反論。そもそもの出発点が自民党の裏金問題だったことを考えれば、鈴木議員の発言は極めて無責任であり、自民党の印象を更に悪化させる失言であった。

ところが当の鈴木議員はもちろん自民党執行部も、「自民党の力をそぐ」発言を問題視している形跡はみられないのだ。番組放映から一週間たとうとしている現在でも、この発言は撤回されていないし、鈴木議員は月曜日の政治討論番組にも出席しているのだ。

このことは、野党や世論が要求する厳しい政治資金規正法改革を、自民党は本当に自分たちの「力をそぐ」ための攻撃だと思っており、自分たちは「被害者」である。そのような「政局」に対して徹底抗戦するのは当然だと考えているということを物語っているのではないか。

政治改革を「政局的な話」に持ち込もうとしている自民党

実は4月23日、自民党が暫定的に示した政治改革案では、「出版、機関紙販売事業」「労働組合の政治活動および政治資金」の透明性のあり方が検討項目にあがっていた。「機関紙販売事業」は、「赤旗」の販売費を政党の主な資金源としている共産党を念頭においたものであり、「労働組合」とは、連合を主要な支持母体とする立憲民主党を念頭においたものだろう。驚くべきことに、自民党の裏金問題を発端とする政治資金改革機運のどさくさで、自民党は今回の裏金問題にはまったく関係がない機関紙や労働組合の政治活動を規制することで「野党の力をそぐ」ような「改革」を行おうとしているのだ。

立憲民主党の岡田幹事長は、このような自民党の動きに対して、自民党の裏金や政策活動費とは異なり、何が問題なのか具体的に示されていない機関紙や労働組合の話を盛り込むことで論点を無意味に広げることは、政治改革を今国会で行わせないための時間稼ぎであるとして批判している。しかし、果たしてそそのような深謀遠慮が自民党にあるのかは疑わしい。

話はもっと単純なのではないだろうか。自民党は政治資金規正法改革が不可避とみて、せめてもの抵抗として時間稼ぎをしているのではないのではないか。4月4日に自民党が発表した「裏金議員」39人の処分は、一般的な感覚からすると極めて甘いものだった。それは各種世論調査でも明かだ。自民党は、そもそも裏金問題を深刻な問題と捉えておらず、従って改革の必要性それ自体を感じていないのではないか。自民党の関心は最初から、自分たちの力がそがれるか、あるいは自分たちが野党の力をそぐかという「政局」の話なのではないか。

4月の3補選で自民党は3敗を喫した。自民党の支持率は、政権奪回以後最低水準にまで落ち込んでいる。これまで政権の支持率は大きく落ち込むことはあっても、自民党の支持率は3割台をキープしてきたのに対して、今や2割台だ。

この落ち込みは、裏金問題に対する世論の怒りの凄まじさにあるのは明らかだが、当の自民党議員はこの期に及んでもなお、問題の深刻さに気付けていない様子だ。9月の総裁選で岸田総裁の首を挿げ替えれば支持率は回復するだろうと考えている議員もいるようだ。しかし、裏金に対する世論と自民党の温度差に気づかない限り、たとえ総裁が変わっても自民党の再起はないだろう。



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