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韓国は「移民国家」に向かうのか?

ニューズウィーク日本版 2024年5月22日 19時22分

伊東順子
<日本同様、労働力不足が懸念される韓国、その特殊事情とは>

この記事は「外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国」の続編になります。

日韓の18歳はよく似ている?

先日、TBSラジオの「荻上チキ・ Session」で取り上げられていた日本財団の「18歳意識調査」が興味深かったので、元データをたどってみた。

日本、イギリス、米国、中国、韓国、インドの6カ国の中で、日本と韓国の若者の意識がよく似ているのは予想通りだったが、「あれ?」と思ったのは貧困問題への意識。ここでは中国も含めた日中韓の若者が他国の18歳とは対照的であり、特に韓国では貧困問題はあまり重要とは考えられていないようだ。

下記に示す課題のうち、現在の自国にとって重要なものはどれだと考えますか。3つまで選択してください(複数回答3つまで、n=1000)。

ただ、中国の場合、こういった調査に参加できる層は限定的だろう。番組に出演していた阿古智子教授が指摘したように、都市と農村の差もはげしいから、この結果が全体を代表するとは言いにくい。

韓国の場合、地域差は問題にならないが、「18歳」という年齢が特別すぎる。たとえばメディア関連の質問で、韓国には「新聞を毎日読む」と答えた人が多かったことが驚かれていたが、大学受験を前にした18歳なら当然だろう。試験問題や小論文の対策に新聞はとても重要であり、そのテーマは今の韓国でもっともホットなイシューといえる。

彼らが考える自国の最重要課題は、その1位が少子化、2位が高齢化、そして3位は経済成長である。日本の18歳もそこまではぴったり同じということで、日韓はここでもそっくりだ。

少子高齢化対策としての、外国人労働者移入政策

さて、前回の「外国人労働者問題」の続きだ。日韓両国で「少子高齢化」が最重要課題であり、「外国人労働者の移入政策」はそこにリンクする。

「移民政策を取り入れなければ、国家が消滅してしまう」――人口減少を補完するために、韓国政府は「移住労働者」を増やす方針のようだが、社会の受け入れ体制は十分ではない。日本に先駆けてシステムは整えたものの、国民の意識が追いつかない。それを象徴するのが、前回も取り上げた「ビニールハウスの宿舎」問題である。

農村で働く移住労働者の居住環境が劣悪な原因の一つは、韓国社会の差別意識にある。彼らを働く仲間とか、地域で共に暮らす隣人とは考えない。それは村全体の意識なのだろう。それでなければ、ご近所の手前、ビニールハウスに住まわせることなどできないと思う。

一方、工場労働者の場合は、また別の問題がある。釜山郊外でビニール加工工場を経営している友人は慢性的な労働者不足に悩んでいたが、雇用許可制によりインドネシア人の労働者を雇用することができた。彼はとても喜んで、さっそく近隣のマンションの部屋を借りて寮にしようとしたのだが、住民の激しい反対にあった。結局、マンションを諦めて、工場の一部を寝泊まりできるように改造したと言う。

「外国人が集団で暮らすようになると、マンションのイメージが悪くなって、不動産価格が下がってしまうと言われました。うちで買ってしまえばいいんですが、そこまでの資金はないので......」

背景にある韓国独特の不動産事情

日本でも賃貸住宅への入居にあたり、外国人が差別されることは多い。外国人でなくても、高齢者や収入が不安定なフリーランサーなども苦労する。私も日本で部屋を借りるのは大変だった。

一方、韓国では意外なことに、個人が借りる場合は外国人だから、フリーランサーだからと差別されることはほとんどない。その代わりにまとまった額の保証金が必要となる。保証人よりも保証金。韓国社会は常に直球型である。

この保証金は最低でも家賃の10カ月分ほど。つまり6万円のワンルームなら60万円、20万円の2LDKなら200万円である。そのうえで月々の家賃を払わなければいけない。保証金はデポジットだから、退去する際に全額返金されることになっている。ただし最初にまとまったお金のない移住労働者には厳しいルールだ。
したがって移住労働者の多くは、ひとまずは雇用主が準備した宿舎に居住することになる。そのため地域社会とはどうしても壁ができてしまう。

日本のほうがまだマシだという理由

「外国人にとっては、日本のほうがマシだと思います。一般の人々が外国人と暮らすことに慣れている」

日本で4年ほど暮らした元韓国人留学生は、日本のほうが「外国人を受け入れる準備ができている」と言っていた。彼は私が編集する雑誌に、それについて書いたものを寄稿してくれた。

「東京で暮らしながら私が驚いたことの一つは、その地域に住む日本の子たちと同じ制服を着た、肌の色の違う子をかなりの頻度で目撃したことだ」(クォン・ジェミン「東京の魅力と、それでも出ていこうと思った理由」、『中くらいの友だち』12号)

私自身も日韓を行き来しながら、その違いは感じる。市民社会における「外国人の存在感」は日本のほうが格段に高い。日本を代表するアスリートもいれば、メディアで発言する外国人も多い。その中には日本に対する辛口意見を言う人もいるが、それも自分が暮らすコミュニティを良くするための苦言だというのがわかる(それに向かって「帰れ」とか「ゴキブリ」とかひどいヘイトスピーチをする日本人もいるのが、本当に残念だ)。

外国人比率でいえば韓国のほうが圧倒的に高い。2024年3月時点で在韓国外国人は約260万人であり、これは人口の5%を超える。一方、日本は2023年末で約340万人。日本は韓国の倍以上の人口をもつ国であるから、その差は歴然としている。

「労働力」から、コミュニティの一員へ

韓国のほうがすでに外国人比率は高いのに、存在感がない。おそらくその最大の理由は、韓国には永住資格をもつ外国人がとても少ないからだと思う。日本の場合は23年末基準で永住者約90万人、これに特別永住者(戦前に日本国籍を保有していた朝鮮半島や台湾出身者とその子孫)約28万人をあわせて約120万人。さらに日本国籍を取得した元外国人が60万人余りいる。

ところが韓国の場合は永住資格をもつ外国人は約18万人(2024年3月)に過ぎず、約260万人の外国人のほとんどが期限付きの在留資格しかもっていない。また「不法滞留者」(未登録外国人)は40万人を超えており、彼らの多くは発言権をもたずにいる。新型コロナのパンデミック下で、日本では外国人にも等しく配られた給付金が、韓国では国民だけに限られるなどの差別があったが、その原因はやはりコミュニティの一員として暮らす外国人が少なかったせいもあると思う。政府も自治体も簡単に無視してしまうのだ。

韓国が移民国家になるというのならば、そこで必要なのはまずは、外国人をとりあえずの「労働力」として考えるのではなく、コミュニティの一員として考えること。そのためにはさらなる法と制度の改正と同時に、人びとの意識を変えることが大切になってくる。韓国政府はすでに永住資格への道を開くための準備をしているが、国民の中にはシンガポールやドバイのような「労働力」にふりきった形でいいという意見もある。

同じ悩みをもつ日本はどうするのだろう? もはや賃金で韓国に追いつかないなら、せめて人権感覚ではリードしてほしいと思う。そこは「日本のほうがやはり先進国だ」と韓国の人も認めるところなのだから。

【動画】大卒でなければ永住資格が取れない韓国

年齢、学歴、韓国語能力、所得などを点数化し、一定の点数を超えなければ永住権の取得や居住ビザの更新ができない韓国。 SBS 뉴스 / YouTube

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