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高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新幹線も参入

ニューズウィーク日本版 2024年5月20日 18時22分

ジェームズ・ビッカートン
<遅ればせながらアメリカでも、主要都市間を短時間で結ぶ高速鉄道への需要が高まっているが、政府肝入りの国有企業が一手に建設を行う中国のスピードには敵わない>

車社会だったアメリカでは今、時速200~350キロで走る高速鉄道への関心が爆発的に高まっている。都市の交通渋滞に耐えきれず、国内のいくつかの地域で超高速路線の建設計画が具体化している。だがアメリカはこの分野では多くの国、特に同じく後発の中国に大きく後れをとっている。

今年4月には、ラスベガスと南カリフォルニアを結ぶ全長350キロのアメリカ初の高速鉄道の建設が始まった。他にも、テキサス州のダラスとヒューストン、フォートワースを結ぶ高速鉄道の計画など、多くのプロジェクトが提案されている。

こうした動きによって、シカゴなど他の主要都市圏でも同様のプロジェクトを進めようという意欲が促進されている。

だが地政学的なライバルであり、他のどの国よりも長い高速鉄道路線を誇る中国に比べれば、アメリカの高速鉄道網は依然として弱小だ。

統計調査会社スタティスタによると、中国の高速鉄道網は2021年に約4万キロに達し、2019年の時点で個人旅客23億人がその路線を利用した。これは中国のすべての旅客による鉄道利用の約63%に相当する。

これに対して、アメリカには本格的な高速鉄道はないに等しい。

拡大した中国の高速鉄道網

ラスベガスと南カリフォルニアを結ぶ高速鉄道が完成するのは、ロサンゼルスでオリンピックが開催される2028年の予定だ。

この路線を建設しているのは、ブライトライン・ウエスト社。ラスベガスから南カリフォルニアのクカモンガまで、時速320キロで走ることができ、所要時間は最短で2時間10分を予定しているという。フォックス11ニュースによれば、各車両は500人の乗客を運ぶことができる。

民間企業が重要な役割を担っているアメリカとは異なり、中国ではほぼすべての鉄道網が中国国鉄路集団(旧中国鉄路集団公司)によって管理されている。2021年、この国有企業は48億元(約6億7700万ドル)の純利益を記録したが、コロナウイルス以前のレベルまで戻ってはいない。

中国の高速鉄道建設のスピードは驚異的だ。CNNが2022年2月に報じたところによると、過去5年間で鉄道網の約半分が完成したという。鉄道網は2035年までに再び倍増し、全長約7万2500キロに達すると予測されている。すでに多くの路線で、最高時速350キロに達する列車が走っている。

CNNの取材に応じたロンドン大学東洋アフリカ研究学院中国研究所のオリビア・チャン研究員は、この鉄道網はすでに存在している集落をつなぐだけでなく、新たな集落を作り出しているという。

「習近平国家主席の計画は壮大だ。単に既存の町をつなぐだけでなく、既存の町とゼロから建設される新しいメガタウンをつなぐというだから」。

アメリカで計画されている高速鉄道路線の多くは、まだ開発の初期段階にあり、最終的な認可に至っておらず、いくつかの重要な詳細も明らかになっていない。

提案されているプロジェクトのひとつ、ダラス-ヒューストン線は、日本の新幹線の技術を使い、時速約380キロで列車を走らせることを目標としている。開発業者によれば、両都市間の所要時間は90分に短縮される。現在は車で3時間25分、バスで4時間以上かかる。

この開発計画は、今年4月にジョー・バイデン大統領と岸田文雄首相からお墨付きを得ており、アメリカの国営旅客鉄道会社アムトラックと、ダラスに本社を置く民間会社テキサス・セントラル社の共同開発として進められている。

これとは別に、北中部テキサス自治体協議会(NCTCOG)はダラスとフォートワースを結ぶ高速鉄道の計画に取り組んでいるが、いまだに商業パートナーを探している。しかも環境影響調査に関する国家環境政策法(NEPA)の手続きが完了するのは2025年初頭になる見込み、とダラス・モーニング・ニュース紙は伝えている。

民主党のマイク・クイグリー下院議員は、シカゴとセントルイスを結ぶ高速鉄道路線の建設を求めているが、この路線の計画は正式に提出されていない。特筆すべきは、アメリカで提案されている路線のなかで建設計画が決まっているのはラスベガスと南カリフォルニアを結ぶ路線だけで、それ以外は着工する目途が立っていない。

高まる高速鉄道の需要

ノースウェスタン大学の公共交通専門家イアン・サベージ教授は、本誌の取材に対し、中国は人口密度が高いため、高速鉄道はより理にかなったものであることを示唆したが、テキサス州の一部に鉄道網を構築することには確固たる理由があると主張した。

「多くの交通エコノミストと同じように、私もアメリカのような地理的に大きく、広範囲に広がる国における高速鉄道のメリットには懐疑的だった。だがテキサス・トライアングル(ダラス・フォートワース、ヒューストン、オースティン、サンアントニオ)では、国内の他の多くの地域よりも高速鉄道の必要性を強く感じている。距離は400キロほどで、鉄道の旅にはちょうどいい」と、サベージ教授は指摘した。

「つまり、テキサスは自動車中心の州とみなされているが、人口が急増しているため、ちょっとしたパラドックスが生じている。ここ数十年の急速な人口増加とトラックの交通量の増加により、高速道路は渋滞し、高速鉄道の市場機会が生じるところまで来ている。テキサス州中部は、広大な空き地から、人口密集地域へと変貌を遂げた」



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