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能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

ニューズウィーク日本版 2024年5月21日 21時25分

茜 灯里
<過去11年間の能登半島の地震活動データを精査したMITの研究者らが、大雪や大雨が地震発生のトリガーになっていることを示唆。論文執筆者の1人であるウィリアム・B・フランク博士は「大雪による降水現象は能登の群発地震の発生タイミングとよく相関していた」と語る>

本年1月1日16時10分ごろに発生し最大震度7を記録した能登半島地震の被害は、死者245人(消防庁災害対策本部発表、5月14日現在)、総額1.1~2.6兆円(内閣府閣僚会議資料より)にも及びました。4カ月以上経った現在も復興復旧活動は続いており、地震を機とする若者層の県外流出なども問題となっています。

この地震の原因は、3月11日に行われた政府の地震調査委員会による報告で「既知の2つの断層(猿山沖セグメントと珠洲沖セグメント)のさらに下に重なっている活断層によって発生した」と結論付けられました。

もっとも、能登地方や能登半島沖では2018年頃から地震活動が活発化しており、とりわけ20年12月頃からはそれ以前と比べると地震回数が約400倍に増加していました。22年6月19日には最大震度6弱、23年5月5日には最大震度6強の地震(石川県が「令和5年奥能登地震」と命名)が発生しています。

そこで気象庁は、本年1月1日の最大震度7の地震及び20年12月以降の一連の地震活動について、名称を「令和6年能登半島地震」と定めました。約3年間に能登半島近辺で起きた群発地震(比較的狭い震源域で断続的に多発する地震活動)をひとまとめにして命名したということです。

アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大)の研究者らは、20年以降の能登半島の群発地震の発生のタイミングを探りました。その結果、大雪や大雨が地震発生のトリガーになっていることが示唆されました。気象条件が、地震発生のきっかけになることを示した研究は初めてと言います。研究の詳細は、オープンアクセスの科学誌『Science Advances』に5月8日付で掲載されました。

日本では近年、全国的に記録級の大雨が観測されています。まもなく梅雨を迎えますが、初夏は地震が起こりやすい危険な時期なのでしょうか。研究内容と地震の原因について概観しましょう。

「内陸型地震」と「海溝型地震」

地震の種類には、大きく分けて「内陸型(直下型)」と「海溝型(プレート境界型)」があります。令和6年能登半島地震は内陸型、11年の東日本大震災や、近い将来に確実に起きると言われている南海トラフ地震は海溝型です。

内陸型地震は、地下20キロくらいまでの比較的浅い震源で起こります。内陸部にある岩盤(プレート)に大きな力が加わると、ひずみが蓄積されたり断層(ずれ)や割れが生じたりします。そして、あるタイミングで地表面近くの岩盤が破壊されると、局地的に激しく揺れる原因となります。

一方、海溝型地震は、海のプレートが陸のプレートの先端を引き込みながら沈むときにひずみがたまり、それが限界に達すると陸のプレートが一気に跳ね上がることが原因です。 接するプレート面が広ければ広いほど、ずれて動く距離が長ければ長いほど、地震の規模は大きくなります。

また、内陸型でも海溝型でも、大きな地震では一般的に本震と余震が観測されますが、小さな地震が連続する群発地震では両者の区別がつかないことがしばしばです。さらに群発地震では、発生のきっかけや地震回数の増減の原因が未だによく分かっていません。

気象庁のデータによると、令和6年能登半島地震の始まりとされる20年12月は、有感地震(震度1以上の地震)が1回もありませんでした。その後、21年の有感地震は70回、22年は195回、23年は241回と発生回数は加速的に増加し、24年は5月17日までの半年足らずの間に1834回も発生しています。

「令和6年能登半島地震」の最大震度別地震回数表(気象庁発表、24年5月17日16時時点)

季節による環境変化が地球の基礎構造に影響を与える?

今回、MITの研究者たちは能登半島の群発地震について、環境要因が地震の性質や発生に関わっていたり、地殻変動と相関性があったりするかどうかを調べるために、気象庁が公表している過去11年間の能登半島の地震活動データを精査しました。

その結果、地震が活発化する20年以前は、地震の発生は散発的で環境要因は無関係に見えました。対して、地震活動が活発化した20年後半以降は、地震波の伝わる速度が季節と関連性があると解析できました。

研究チームは、季節による環境変化が、群発地震を発生させるような形で地球の基礎構造に影響を与えるのではないかと考えました。具体的には、雨や雪がよく降る季節は地下の「間隙流体圧」(岩盤内の隙間や割れ目を流れる水の圧力)が上昇し、地震波の伝わり方が遅くなるといいます。地震波の減速は一時的なもので、水分の蒸発や流出によって取り除かれると間隙水圧は減少し、速度はアップするそうです。

さらに地震波の遅い時期、つまり岩盤内の水圧が高い時期は、特に大雪があった場合と地震発生のタイミングとで適合性が高いことが観測されました。

論文執筆者の1人であるMITのウィリアム・B・フランク博士は「地表での降雪やその他の環境負荷が、地下の応力状態に影響を及ぼします。大雪による降水現象は、能登の群発地震の発生タイミングとよく相関していました。地震がなぜ起こるかの原因となるのはプレートですが、いつどのように起こるかに影響を与えるものの1つは気候であることは明らかです」と語っています。

研究チームは、今後、雨や雪と地震の関係が、能登半島以外の地域でも観測されるかを調査する予定です。世界の様々な地域で、気象条件が群発地震と関連していることを示すことができれば、地震予知や防災に活用できるかもしれません。

今回の研究はあくまで限られた地域・期間での群発地震での解析結果です。気象条件が地震発生のタイミングのトリガーになる可能性は、余震を伴う大地震にも当てはまるかは未知数です。ましてや、今、もっとも注目を集めている南海トラフ地震は海溝型地震なので、まったく違う発生トリガーの可能性が高いかもしれません。

そもそも、自然災害には例外がつきものです。どのようなタイミングで発生しても焦らないように、日頃から心と物資を備えておきたいですね。

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