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少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

ニューズウィーク日本版 2024年5月26日 15時15分

周来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)
<子供を産まない最大の理由は「お金」といわれる。政府は巨額を投じ少子化対策を推し進める。でも、ふと思う。子育てに希望を持てていない人が多いのでは?>

子供のいる人みんなに聞いてみたい。「子育ては楽しいですか?」

独身の人、子供のいない夫婦にはこう聞いてみたい。「子育てにどんなイメージを持っていますか?」

5月5日、こどもの日。4人の息子がいるわが家では今年も4匹の鯉(こい)が風になびいていた。だがこの鯉のぼり、一般家庭で目にする機会は年々減っている。

マンション住まいだと鯉のぼりを揚げづらいのかもしれないが、住環境の変化だけが理由ではないだろう。厚生労働省によれば、昨年の出生数は75万8631人(速報値)と、過去最少を更新した。なぜ日本人は子供を産まなくなってしまったのか。

少子化は日本だけの問題ではない。中国でも1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が過去最低の1.09(2022年試算)と低迷し、日本の1.26を下回る。危機感を抱く政府は、手を替え品を替え、出産を奨励している。末端の役人は結婚して子供を産まないと出世に響くという話まであるほどだ。

しかし、産むなと言われれば産み、産めと言われれば産まないのが中国社会。一人っ子政策の時代には、ルールの外で産まれ無戸籍となった子供が農村にあふれ、その数は約1300万人ともいわれた。

数年前に「躺平(タンピン、寝そべり)族」と呼ばれる、物を買わず、恋愛や結婚も諦める若者たちが話題になったが、最近は、取りあえず結婚はするが子供は産まない「半寝そべり族」が増えているという。最大の原因は足元の不景気と将来に対する絶望感だ。

そして日本でも、子供を産まない最大の理由は「お金」といわれる。価値観の変化や晩婚化の進展などもあろうが、周囲の独身者や子供のいない既婚者に聞くと、子供を持つだけの経済的余裕がないといった答えが返ってくる。子供1人を大学卒業まで育てるには教育費だけで1000万~2000万円かかるなどと聞けば、出産に尻込みするのも無理はない。

中国も日本も同じ。子育て世代の経済状況は確かに少子化の大きな要因だ。だから日本では岸田政権が、「異次元」と称する年3兆6000億円規模の予算を新たに少子化対策に充てるのだという。でも、それだけで本当にうまくいくのだろうか。

問題は莫大な教育費だけではない。電車でベビーカーを邪魔だと言われた、近隣住民が「子供の声がうるさい」と文句を言う、子供が学校でいじめに遭った、SNSに巣くう悪い大人にだまされた......そんなネガティブな情報ばかりが流れ、子育てに希望を持てない人が多いのではないか。

メディアにも責任の一端があるだろうが、私が常々思うのは、子育ての楽しみを想像できていない人が多いのではないかということ。あるいは逆で、子供を持つ側が「伝えていない」ことが原因かもしれない。

子供はかわいいし、成長する姿を見守ることができるのは何よりうれしい。自分も一緒に成長していけるし、たくさんの刺激をもらい、新たな経験を積み重ねることができる。子供がいることで若々しくいられるし、子供から無条件の愛ももらえる(これは幼児期限定だろうけれど)。月並みで平凡かもしれないが、こういった小さな幸せの積み重ねが子育てだと思う。

もちろん、結婚したくてもできない人や、事情があって子供を持てない人もいるだろう。でもそうでなければ、国のためではなく何よりも自分の幸せのために、子供を持つことを考えてみてほしい。

子育ては、苦労も多いけれど楽しいもの。わが家には上は22歳から下は4歳まで4人の男の子がいるが、妻も私も幸せです。

私の国籍は中国だけれど、息子たちはみな日本国籍。日本の少子化対策に貢献した中国人として、いつか日本政府から表彰してもらえないだろうか(笑)。

周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院を修了。通訳、翻訳、コーディネーターの派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレントとしても活動している。


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