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出演者がみずから歌う韓国ドラマソングの美学 ポイントは「オーソドックスなアレンジ」

ニューズウィーク日本版 2024年6月13日 19時35分

まつもとたくお
<K-POPのヒットチャートに登場した見知らぬアーティストの正体は?>

韓国における大衆音楽とテレビドラマの関係は他の国よりも密接である。先日もK-POPのヒットチャートのベスト10のなかにECLIPSEの名前を見つけたときにあらためてそう思った。

ECLIPSEとは今春放送されたドラマ『ソンジェ背負って走れ』に登場する劇中バンドで、実際に活動しているわけではない。しかしながら同作品のヒットによってオリジナルサウンドトラック(OST)も注目を集め、数々の挿入歌がチャートの上位へ。そのうちのひとつがECLIPSE名義の曲というわけだ。

このようにドラマに登場する人物が歌う関連曲にスポットライトが当たるパターンは、韓国ではかなり多い。その始まりを特定するのは困難ではあるものの、成功例が目立ってきたのは2000年代に入ったあたりからで、日本の韓流ファンであれば『美しき日々』(2001年/日本初放送は2003年)でリュ・シウォンが演じた覆面シンガー・ZEROを真っ先に思い出すに違いない。

ソロアーティストではなくバンドの成功例では、やはり『美男〈イケメン〉ですね』(2009年)が最初だろうか。劇中に登場する4人組のA.N.JELLは、主演のチャン・グンソクとパク・シネに加え、FTISLAND のイ・ホンギやCNBLUEのジョン・ヨンファといった実在するバンドのメンバーも参加。ドラマが大ヒットしたおかげで、リアルにライブをするほどの人気を集めている。

『美男〈イケメン〉ですね』で主役を演じたチャン・グンソクとパク・シネはドラマのOST以外でもオリジナル曲を発表、ファンミーティングなどで披露している。 SBS Drama/ YouTube

主な出演者がシンガーでテーマソングも担当した『ドリームハイ』(2011年)もこの方面での重要な作品だと言えよう。スターを夢見る若者の葛藤や成長を描いた学園ドラマということで、当時ブレイク中のアイドルたちが多数参加して大きな話題となった。当然のごとくOSTは夢と希望にあふれるポジティブなナンバーばかり。テギョン(2PM)やペ・スジ(当時はmiss Aに在籍する歌手)、IUといった人気者たちのフレッシュで伸びやかなボーカルが存分に楽しめる。

K-POPとドラマの蜜月で大ヒットした『応答せよ1997』

K-POPとドラマの蜜月度の高さで1、2を争うのは『応答せよ1997』(2012年)だ。90年代後半に一世を風靡した2大ボーイズグループ=H.O.T.とSECHSKIES。両グループを応援する女子高校生を中心に物語が進むため、劇中に流れるBGMも当時のK-POPが中心に。OST盤も懐かしのK-POPが大半を占める。主演したチョン・ウンジとソ・イングクが歌った挿入歌がヒット。おかげでウンジとともに彼女が所属するガールズグループ・Apinkも人気が上がった。

『応答せよ1997』主演のソ・イングクは音楽オーディション番組「スーパースターK」で優勝したことをきっかけに歌手として芸能界デビューしており、このドラマは俳優としては2作目の作品だった。ほかの主要登場人物の多くも俳優以外の者が多く、放送開始前は酷評一色だった。 Stone Music Entertainment / YouTube

近年はK-POPの世界をテーマにしたドラマもあり、U-KISS、SF9、ATEEZといった人気グループのメンバーが役者として参加した『イミテーション』(2021年)は、彼らの歌声をたっぷり聴くことができる。人気ウェブ漫画が原作で、劇中に登場するアイドルグループはリアルな音楽番組に登場するなど話題の多いドラマだったが、残念ながらECLIPSEのような結果は出せなかったようだ。

主人公ではないが印象的な役柄で出演しつつ歌声も響かせるケースも少なくない。代表的なものとしては『彼女の私生活』(2019年)があげられる。バラエティ番組『少年24』出身のユニット・IN2ITが挿入歌を担当し、さらにメンバーのうち4人が劇中に登場。ヒロインが好きなアイドルグループの一員という役を見事に演じきっている。

出演者が歌うドラマ歴代No1は?

今のところ、〈ドラマ出演者が歌う挿入歌〉部門で歴代トップと言えそうなのは、『賢い医師生活』(2020年・2021年)である。5人の医師たちが息抜きにバンドをやるシーンが頻繁に出てくるが、本人たちがリアルに歌い演奏しており、しかもテクニックもプロ級なのだから驚いてしまう。演奏しているのは韓国の古き良き時代のロック&ポップスが大半で、中高年には懐かしく、若者にはフレッシュに響いて好評を博した。

医師たちのアマチュアバンドが演奏するという設定のため、OSTはカバー曲で占められており、チョ・ジョンソクが歌った「アロハ」は2001年にCOOLが大ヒットさせた曲。 Stone Music Entertainment / YouTube

さらにチョ・ジョンソクが歌った「アロハ」や、チョン・ミドの「愛するってわかってた」といった主人公たちが歌うカバーソング(ドラマの印象的なシーンで使用)がヒットチャートの1位を獲得。OSTは配信やCDはもちろん、アナログレコードも発売されるほど多くの人に愛されている。

こうして思いつくままに出演者歌唱のドラマソングを並べてみたが、一連の楽曲を聴いて思ったのは、オーソドックスなアレンジがほとんどで、もっと正直に言ってしまうと、アグレッシブさが足りないということだ。なかでも前述のECLIPSEは、どの曲もひと昔前の王道のアメリカンロック風で特筆すべきポイントが見当たらない。それでも大ヒットしてしまうのは、ドラマの世界観を見事に表現できているからなのだろうか。

OSTとはドラマの演出や演技を引き立てるスパイスのようなものであり、決してメインディッシュではない。マイルドになるのは当然と言えば当然である。とはいえ、サウンドの良し悪しだけを長年語ってきた者としては、悩ましい楽曲が増えてきた----。そう思う今日この頃だ。

『ソンジェ背負って走れ』よりECLIPSE「Run Run」

『ソンジェ背負って走れ』は劇中のバンドによる演奏ということで、ECLIPSEの曲は正式なMVはない。「Run Run」はECLIPSEの曲としては「夕立」に次ぐ人気曲。 tvN Drama / YouTube

『賢い医師生活』よりチョン・ミド「愛するってわかってた」

原曲は2006年に発売されたシン・ヒョボムの9枚目のタイトル曲。『賢い医師生活』の劇中では音痴という設定のチェ・ソンファ役を演じたチョン・ミドだが、実際には舞台を中心に活躍する俳優で、『スウィニートッド』『ラ・マンチャの男』『ドクトルジバゴ』などのミュージカルで主演するほどの実力の持ち主。 Stone Music Entertainment / YouTube



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