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プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧州はロシア離れで対中輸出も採算割れと米シンクタンク

ニューズウィーク日本版 2024年5月27日 14時59分

ブレンダン・コール
<ウクライナを支援する欧州諸国へのパイプラインの栓を締めるなどの脅しが効き過ぎて、欧州諸国は代替のガス調達先を見つけてしまった。友好国・中国への輸出も採算割れになりそうだ>

アメリカのシンクタンク、アトランティック・カウンシルの最新の分析によると、ロシアの国営ガス会社ガスプロムは天然ガスの新しい市場を見つけることができずにいる。そのため、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの軍事力を維持するための貴重な収入源が減り、西側に対抗する武器としてのエネルギーの影響力が損なわれている。

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世界最大級の天然ガス上場企業である国営エネルギー会社ガスプロムは、ロシア経済の中心的存在だが、ウクライナ戦争で大きな痛手を負っている。

 

ウクライナ侵攻後の2022年半ば、ガスプロムはヨーロッパへのガス供給を制限した。これは、冬の季節を前にウクライナの支援国に脅しをかけ、同時に欧米によるロシア制裁とウクライナ支援に対する報復をねらったプーチンの動きと見られている。

だが、EUはすでに代替の長期的なガス輸入源を見つけてしまった。ロシアの天然ガスに輸入制限を科すまでもなく、ロシアのパイプラインを通じたガス輸入の大半を必要としなくなった。依然としてロシア産ガスに依存しているのはオーストリアやハンガリーなど一部の国だけだ。

ガスプロムの2023年上半期の売上高は、前年同期比で41%減少し、営業利益は71%、ガス生産量は25%減少した。石油・電力事業も含むガスプロム・グループ全体で、昨年の純損失が6290億ルーブル(約69億ドル)となり、2023年は無配に終わった。

儲からない中国への輸出

ロシアの元エネルギー副大臣で現在は野党政治家のウラジーミル・ミロフがアトランティック・カウンシルに提出した報告書によると、ガスプロムはEU市場を失った影響に苦しんでおり、「損失を補う方法を見つけられずにいる」という。

この報告書によると、同社のガスの上流(探鉱・開発・生産)部門の拠点は、西シベリアの主要油田とEUの代わりに開発中のアジアの市場を結ぶインフラが不足しているため、孤立している。また、天然ガスを新たな市場へ導くためのLNG(液化天然ガス)プラントを西シベリアに建設することもできていない。

アトランティック・カウンシルは、中国までの新しいパイプラインの建設には約1000億ドルの費用がかかるとし、ロシアは「かなりの損失を被りながら中国にガスを販売することになる可能性が高い」という。中国へのガス輸出で利益を上げるのは難しいかもしれないと指摘する。

ガス需要を国内供給と中央アジアからの輸入に頼ることができる中国は、2030年以降までガスの追加供給を必要としないとも予想されており、ガスプロムと新たなガス供給契約を締結する場合、いかなる種類の上乗せ価格も認める気はないだろう、と報告書は分析する。さらに、ガス価格がはるかに安いロシアの国内市場や、南アジア諸国へのパイプライン建設における技術的・政治的な困難など、その他の障害によって、「ガスプロムは近い将来、八方塞がりの状態になる」という。

ベルリンを拠点とするエネルギー専門アナリスト、トーマス・オドネルは本誌に対し、ガスプロムの苦境は、ロシアのガスをヨーロッパに対して強い影響を与える道具として使おうとしたプーチンの戦術が裏目に出たことを示している、と語った。

「ヨーロッパに衝撃を与え、エネルギー戦争で服従させ、ウクライナと連帯させないための措置だったが、うまくいかなかった」と彼は言う。「プーチンは大量のガスを持っているが、それを売ることができない」

 

アトランティック・カウンシルの報告書によれば、ロシアの石油産業はガスプロムよりもうまく欧米の制裁を乗り切った。G7とEUはロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシア産原油に60ドルという価格上限を設けた。だが原油は海港経由で輸送することができるため、ロシアとのつながりを隠して原油を輸送する「影の船団」と呼ばれる闇タンカーを使って、ロシアは制裁を骨抜きにしている。

ミロフは、ロシアの石油・ガス産業と国家財政はきわめて回復力が高いため、すぐに崩壊することはないが、「西側のエネルギー市場からのデカップリングにより、非常に困難な状況に陥っている」と結論づけた。



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