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都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

ニューズウィーク日本版 2024年5月29日 12時0分

冷泉彰彦
<東京一極集中と少子化という待ったなしの課題は十分に議論されていない>

4年の年月があっという間に経過して、再び都知事選の季節となりました。岸田政権が現職の小池知事の人気に乗じて都知事選と衆院選との同時選挙を狙うなどという噂もありましたが、諸条件が激変した現在は小池氏の再選も不透明となっています。そんな中で、立憲民主党の蓮舫参議院議員、改革派の石丸伸二・安芸高田市長、更には保守系の田母神俊雄氏まで参戦を表明、まるで衆院東京15区補選の拡大版といった様相を呈してきました。

この顔ぶれに、供託金を払ってでも参戦したい各種の候補が参加することで、いつものような虚しいな政治ショーが繰り返されそうです。虚しいというのは、他でもありません。現在の東京は大きな2つの問題を抱えており、真剣な政策の選択を必要としています。けれども、現時点での論戦ではこの2つの論点が十分に浮かび上がっていないからです。

 

問題の1つ目は、一極集中です。このまま一極集中が続けば、地方の衰退は加速するばかりです。対策は待ったなしですが、対策を実施して効果を上げるには、そもそも現在の一極集中の何がどう問題なのかを把握しなくてはなりません。各候補は一極集中への現状認識をまず表明して、これを受けた対策を公約すべきです。

企業と雇用が集中し過ぎているという認識であれば、地方への企業、雇用、人口の分散を進めることになります。ですが、この点に関しては半世紀前の田中角栄政権による「列島改造計画」にしても、大平正芳政権による「田園都市構想」も効果を上げることはできませんでした。今度こそ成功させるにはどうしたら良いのか、説得力のある提案が必要です。

高齢化で東京の財政は一気に苦しくなる

地方には男尊女卑や年長者支配といった封建制の名残りがあり、これが改革を遅らせて人材流出を絶望的なまでに加速しているという認識もあります。そうであるなら、東京の先進的な企業や集団が地方のコミュニティにおける多数派を奪取しつつ、地方を改革して東京からの分散の受け皿にするという発想もあるでしょう。

一極集中はしていても、その中身がダメという認識もありそうです。そもそもDXが遅れて紙とハンコと対面コミュニケーションが残り、そのために物理的に近い東京という空間に、企業や官庁が後ろ向きの一極集中をしているというストーリーです。この場合は東京の効率性を一気に高めて、人材を地方に回すという発想もあり得ます。

いやいや東京には余裕はないという意見もあります。このまま、単身高齢世帯が加速度的に増加して税収より歳出が増えれば財政的には苦しくなります。それを支えようにも、国際基準から見たらDXも準英語圏化も遅れているのは事実。ならば、地方を切り捨ててでも、東京は真の経済成長を目指さないと十数年で崩壊してしまうという議論もあり得ます。

問題の2つ目は少子化です。東京に人口が流入する一方で、東京は全国でも最悪の少子化都市であり、この循環が続くようなら東京が全国の人口減の元凶として、事態をどんどん奈落の底に引っ張っているという認識もあります。ならば、その原因はどこにあり、対策はどうしたら良いのか、これも大きな論点になります。

共稼ぎが当たり前となる中で、夫婦が長時間労働をしていたら子育てに割く時間を確保できません。この問題を解決できなければ、2人目、3人目を産んで育てるというのは東京では不可能です。東京が率先して生産性を向上して長時間労働を断ち切るにはどうしたらいいのか、知恵を集めなくてはなりません。事務作業を全部英語にしてしまい業務アプリなども世界標準にするとか、旧弊に固執する世代を公職追放するとか、相当にドラスティックな対策も提案されていいと思います。

 

目に余る住宅の高騰

職住近接も重要ですが、昨今の都心部の住宅の高騰は目に余ります。こうなると、都市計画が破綻しているとしか言いようがありません。やたらに高層ビルの再開発が進む中で、都心部は子育て家庭の住む空間ではなくなりつつあります。こうした都市計画のあり方も争点になっていいと思います。

最大の問題は教育費だと思います。この点に関しては無償化政策が進められていますが、問題は中高の授業料ではありません。東京では半世紀以上前から公立中学の提供する教育が変質してしまい、その結果として小学校の低学年から塾通いをさせて中高一貫校に入れようとする家庭が多すぎます。この塾の費用が大きな圧迫となり、2人目、3人目を断念する理由になっているというストーリーも成立します。それならば、東京における公立中学の再建というのは喫緊の課題になります。

一極集中と少子化、この2つのテーマだけでも、具体的な対策を実施して効果を上げるには、強いリーダーシップが求められます。様々な有権者層に媚びて総花的な政策でごまかしている時間はないし、ある意味では今回の都知事選がラストチャンスなのかもしれません。まずは、そのような緊迫感を持った論戦を期待したいと思います。

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