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現実味を増すトランプの再選...「現代の平民」が見ている、カリフォルニアの「テック貴族」が支配する「封建制」とは?

ニューズウィーク日本版 2024年6月5日 11時10分

会田弘継(ジャーナリスト・思想史家) アステイオン
<それでもなぜ、トランプは支持されるのか? 社会の分断は「左右」ではなく、「上下」だった...。エリート支配の社会を転覆しようとする、虐げられてきた者たちの「革命」について> 

不倫口止め料支払い事件で法廷に立たされ、あれだけメディアに叩かれながらも支持率は一向に落ちそうにもない。普通なら政治家として一発退場の事態だ。だが逆に支持が強まる気配さえうかがえる。

投票日まで半年を切ったアメリカ大統領選挙。「それでもなぜ、トランプは支持されるのか?」。世界中が首を傾げている。報道を追っても、支持の論理がまったく読めない。挙げ句の果てにトランプ支持者は陰謀論に欺されている、と言って納得した気になる。

国民の半分が欺される? そうではなく、多分、一種の意味の転倒が起きているのだ。これまでの常識が通じなくなった。そのような事態を普通、「革命」と呼ぶ。

「それは反乱か」
「いいえ陛下、革命です」

1789年7月14日バスティーユ監獄陥落の報を国王ルイ16世に伝えた公爵は、そう答えた。フランス革命の始まりである。おそらく2016年大統領選挙でトランプが選出された時から革命的事態が始まり、いまに至っても続いている。そう考えれば筋道を追うことができるかもしれない。

革命は理由なく始まるものではない。ルイ王朝は腐敗して行き詰まり、人びとは辛酸をなめ、怒りの限界に達した。だから暴力的に旧制度の破壊が始まり、それまでの常識や言葉の意味がすべて転倒していったのだ。

封建社会へ復帰

ではトランプ登場に至った理由は何なのか。そこを考え抜かなければ、「それでもなぜ......」の解答は見つからないだろう。

最近こんな調査結果を見て、愕然とした。2016年大統領選挙でヒラリー・クリントンが勝利した全米の472郡がアメリカの国内総生産(GDP)に占めた割合は64%、それに対しトランプが勝った2584に及んだ郡は36%を占めただけだ。

この傾向は2020年大統領選挙になるとさらに強まり、バイデン勝利の520郡はGDPの71%を占め、トランプが勝った2564郡は29%だった。

バイデンに多くの票が入る地域がいかに繁栄して豊かな人びとが住み、トランプ支持者が多い地域がいかにさびれて停滞しているのかを如実に示している。

この集計を行ったシンクタンク、ブルッキングス研究所はトランプ支持地域が、躍動するアメリカ経済から疎外され、ないがしろにされていることをうかがわせると分析している。

ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットという3人の富豪の資産を合計すると、アメリカ国民の下位50%の資産合計額に並ぶ。そう言った方が、アメリカのすさまじいまでの格差社会がピンとくるかもしれない。尋常ではない世界だ。

アメリカに限ったことではない。英国議会の調査によれば、2030年には、上位1%の富裕層が世界の富の3分の2を支配することになると予想されている。

シリコンバレーのハイテク企業とその創業者らをトップに超格差社会が形成され、さらに世襲によって身分が固定化される傾向がどんどんと強まる。

それを「封建制」の復活だと警告するのは、都市問題専門家ジョエル・コトキンの『新しい封建制がやってくる:グローバル中流階級への警告』(東洋経済新報社)だ。

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ=、アマゾン)の純資産合計はフランスのGDPに匹敵し、それぞれの分野で巨大な市場支配力を持つ。

こうした企業を支配する「テック貴族」たちは、中世貴族のように、インターネット領域ビジネスで「自然独占」を利用し、膨大な個人データを勝手に用いて「デジタル土地収奪」を行ってきた。

エンタメ、金融と手を結び、さらに自動運転システム、ドローン、宇宙開発、人工知能(AI)といった未来産業の支配に向かっている。説明責任のほとんどない少数者が強大な権力を握っていく。

こうしたテック貴族エリートの寡頭支配層はメディアや大学を牛耳る知識層とも結託している。それは、ちょうどエリート貴族が聖職者と権力を分け合い、封建社会の中核となっていたのと同じだと、コトキンは言う。

テック貴族、知識人聖職者の寡頭支配体制の下であえいでいる現代の「第3身分」(平民)は、やせ細っていく中産階級、さらにその下で資産もなくギグワークであえぎながら生きる労働者階級だという。

カリフォルニア州の大学で都市問題を研究するコトキンが描く同州の封建的状況は特にすさまじい。

民主党が強く「進歩的」とみられている同州は貧富の格差を示すジニ係数は全米で最高レベル、米国の生活保護受給者総数の3分の1がカリフォルニアに住む。州内でも最も進歩的とされるサンフランシスコ市は過去10年を見ると全米の都市で最も格差が広がっている。

新たな支配階級

シリコンバレーはさらに醜悪だ。7万6000人の億万長者が住む一方で、住民の30%が公的・私的経済援助に頼っている。

創業者らのエリート層の下にいる高いスキルを持つ専門職は高給を得ているが、税金・物価が高いため生活は中流。その下にいる膨大な数のギグワーカーが「農奴」のような立場で、底辺にはホームレスや薬物中毒者がたむろする。「高度に階層化され、社会的流動性の乏しい」社会ができあがっているという。

コトキンは、カリフォルニア、特にシリコンバレーやサンフランシスコに見られる高度に階層化された格差社会を「封建制」への後退とみたが、これを少数の管理者(テクノクラート)が支配する「インサイダーとアウトサイダーに分かれた社会」であると見るのは、マイケル・リンド『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』(同)である。

左右対立を越えた視点を持つ論客として注目されてきたリンドは、戦前アメリカの代表的トロツキスト、ジェームズ・バーナム(1905―1987)の代表的著作The Managerial Revolution (1940)を援用して、今日の状況を考えている(同書は1960年代に邦訳される際「経営者革命」と題されたが、議論の対象となるmanagersは経営者よりずっと広い概念である)。

バーナムは、ブルジョワ革命の後に来るのはプロレタリアート革命ではなく、資本家に代わって生産手段を管理するmanagers、すなわち企業テクノクラートや官僚テクノクラートによる支配の時代だと見た。その下で一般市民は徹底的に管理・搾取され、民主主義は形骸化すると考えた。まさに今日の世界の姿かもしれない。

バーナムを援用するリンドやコトキンを通して現代アメリカ、特にトランプ(そしてサンダース)登場の背景を考えると、いま起きていることは左右の分断ではなく、上下の分断に起因することが見えてくるはずだ。

トランプ現象とは、エリートに支配された社会を転覆しようとする、虐げられてきた者たちによる、言葉の意味や常識も変えてしまうほどの「革命」的事態なのかもしれない。

会田弘継(Hirotsugu Aida)
共同通信社ワシントン支局長、論説委員長を経て、青山学院教授、関西大学客員教授などを歴任。著書に『破綻するアメリカ』(岩波現代全書)、『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫)、『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)など。訳書にフランシス・フクヤマ『政治の起源』(講談社)、ラッセル・カーク『保守主義の精神』(中公選書)など。7月に『それでもなぜ、トランプは支持されるのか:アメリカ地殻変動の思想史』(東洋経済新報社)を刊行予定。

 『新しい封建制がやってくる:グローバル中流階級への警告』
 ジョエル・コトキン[著]
 東洋経済新報社[刊]

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 『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』
 マイケル・リンド[著]
 東洋経済新報社[刊]

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