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「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...SNSで犯罪組織に応募

ニューズウィーク日本版 2024年5月30日 14時0分

ニック・モルドワネク(本誌政治担当)
<ソーシャルメディアの広告を見て、軽い気持ちで犯罪組織の「求人」に応募する若者たち>

「人間の密輸」に手を染めるアメリカのティーンエージャーが今、急激に増加している。

正規の手続きを経ずにアメリカに移住しようとする人たちを非合法な形で入国させたり、既に不法入国している人たちを運んだり、かくまったりしているのだ。法執行機関の関係者の話によると、そうした若者たちの最大の動機はカネだという。

密入国は、成り済まし、文書偽造、福祉の不正受給、ギャング活動、金融詐欺、さらにはテロリズムなど、さまざまな犯罪への入り口といわれることが多い。密入国の増加をめぐっては、バイデン政権への風当たりが強まっている。

メキシコと国境を接するテキサス州は2021年3月、「ローンスター作戦」と称して強硬な密入国対策に乗りだした。今年4月の発表によると、この作戦によってこれまで3年間に身柄を拘束された密入国者数は50万3800人以上。逮捕者数も4万400人を上回る(このうち3万6100人以上が重罪)。

同州公衆安全局が本誌に示したデータによると、今年1月には密入国を手助けした疑いで数百人が逮捕された。被疑者の年齢はさまざまで、1960年代生まれの人物もいるが、2008年生まれも含まれている。

昨年11月には、同州ダラスのティーンエージャー2人が密入国関与の容疑で逮捕された。そのうちの1人ジョナサン・ロドリゲス(17)はケーブルテレビ局ニューズネーションに対し、この件で2人に提示された報酬は1300ドルだったと語っている。ロドリゲスは未成年ながら、成人扱いで訴追された。

テキサス州エルパソの地元テレビ局KTSMによると、その1カ月後には、エルパソで15歳の少年が身柄を拘束されて訴追された。5人の密入国者を車両で運んだ容疑だ。

密入国に加担する犯罪組織メンバーには10代の若者も少なくないと、テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員(共和党)は本誌に語っている。

「悲劇的な話だが、メキシコでもアメリカでも、多くのティーンエージャーが犯罪組織に利用されて、犯罪の実行役を担わされている」

同議員に言わせれば、バイデン政権は連邦レベルの密入国対策を実行せず、「意図的に」状況を悪化させているという。

クルーズはバイデン政権が事態を悪化させていると批判する BILL CLARKーCQ-ROLL CALL/GETTY IMAGES

メキシコとの国境に近いアリゾナ州南東部のコーチス郡は、昔から密入国の舞台になってきた。国境付近の町で密入国は目新しい現象ではないと、同郡のマーク・ダネルズ保安官は本誌に語る。

「この3年間とそれ以前の違いは、規模の大きさだ。今(密入国の)件数は史上最悪の水準に膨れ上がっている。しかも対策は取られていないし、対策を講じようという姿勢も見られない」

メキシコとの国境付近でテキサス州の「ローンスター作戦」により拘束されたグループ(21年3月) JOHN MOORE/GETTY IMAGES

全米の保安官たちは、国境の密入国問題についてジョー・バイデン大統領と政権上層部に直接伝える機会を求めてきた。ところが、ホワイトハウスはいまだに、保安官たちを招いて意見を聞いていないという。バイデンは、アメリカ現代史上初めて国境警備についての対話に臨もうとしない大統領だと、ダネルズは批判する。

「本腰を入れて一致結束した対策とメッセージを打ち出し、法律の執行を徹底し、未成年者に大きな影響を及ぼすソーシャルメディアの問題に対処しない限り」問題は続くだろうと、ダネルズは言う。

大がかりなネットワーク

コーチス郡のブライアン・マッキンタイア検事が本誌に示したデータによれば、同郡検察が昨年1~11月(集計済みの最新データ)に密入国関連の容疑で訴追した未成年者は33人。そのうち20人が成人として扱われた。22年も1年間で49人が訴追されている(38人が成人扱い)。

「ほかの地域から犯罪者がたくさん集まってくる」と、マッキンタイアは言う。「犯罪者の観光名所のようになってしまった。メーン州、オレゴン州、(イリノイ州の)シカゴなど、ありとあらゆる場所からやって来る」

本誌の取材に応じた多くの法執行機関関係者と同様、マッキンタイアは、若い世代が密入国に関わるケースが急増している要因として、ソーシャルメディアを挙げる。画像・動画投稿アプリの「スナップチャット」などのソーシャルメディアで流れてくる広告の影響が大きいというのだ。

ある広告では大量の札束の画像を映し出し、アリゾナ州のダグラスやシエラビスタなど所定の場所まで密入国者を運べば、簡単にその金が手に入るとうたっている。

「密入国者1人をできるだけ早く、途中で捕まらずに(アリゾナ州の)フェニックスまで車で運ぶことに成功した場合、1500ドルのカネを受け取れると言われれば、そのリスクをいとわない人は多い」と、マッキンタイアは指摘する。

密入国ビジネスを手がける犯罪組織は、密入国しようとする人から1人当たり6000~8000ドル(メキシコから入国する場合)の料金を徴収する。密入国者は料金の一部を前払いし、残りは借金として背負い、アメリカ入国後に返済する。その結果として、密入国者は「年季奉公人」のような状態に置かれると、マッキンタイアは言う。

フェニックスの地元テレビ局KTVK/KPHOによると、昨年11月には、同州ギルバート出身の18歳とメサ出身の19歳が身柄を拘束された。容疑は、5人の人物の密入国を助けたことだ。

同じフェニックスの地元メディアの12ニュースによると、今年3月にもコーチス郡で15歳、16歳、18歳の3人が密入国に関与した容疑で逮捕されている。

共和党関係者の視察に同行するダネルズ保安官(左から3人目) KEVIN DIETSCH/GETTY IMAGES

手っ取り早く稼げる誘惑

アリゾナ州の国土安全保障調査部(HSI)のレイ・リード特別捜査官補は、トゥーソン都市圏の作戦を監督している。リードが国土安全保障省に入った08年当時、密入国は身内によるものだった。基本的には幼なじみや親族の知り合いを頼って集まったグループが、頭領が指揮を執る大きな密入国ビジネスに参加していた。

それが近年は、密入国を取り仕切る国際犯罪組織のスキームは協同組合のように運営され、個人が密輸サービスを提供する。

「彼らは連絡を取り合うが、必ずしも直接、会うわけではない......信頼できる知り合いや幼なじみのネットワークには頼らなくなった」と、リードは言う。「(取り締まる側にとって)難しいのは、世界中で誰でもこうした組織のメンバーになれるが、ほかのメンバーには会わないということだ。彼らは基本的に、広告に応募して、広告の掲載者とオンラインでやりとりするだけだ」

さらに犯罪組織は、ソーシャルメディアや暗号化されたアプリが「匿名であるという偽りの感覚」に付け込み、応募する人々を利用して搾取する方法を見つける。

アリゾナ州南部では、密入国者を運ぶ運転手の募集や、それより数は少ないが違法薬物の販売など、あらゆる類いの広告がソーシャルメディアにあふれているとリードは言う。「こうした広告に応募する人は、手っ取り早くカネを稼ぎたいだけだ。組織側は基本的に、自分たちの広告は法執行機関にバレないと言って指示を出す」

「応募者の身元は調べない。組織は存在を明かすというリスクはあるが、匿名性を利用して個人をリクルートできる。そして、法執行機関は自分たちのやりとりを見ることはできないと説明する」

そのようなメッセージは「誤り」だと、リードは強調する。今の時代は法執行機関が自由に使えるツールがあって、本当の意味の匿名性は存在しないのだ。これは、検問では徹底的に調べたりしない、車を警察犬で調べたりしないといった犯罪組織の昔からの傲慢な思い込みでもあると、彼は言う。

しかし、広告に応募する若者にとって危険であることに変わりはない。「あなたがフェニックスに住む20歳で、お気に入りのソーシャルメディアがあり、ポップアップする広告を見て簡単に稼げそうだと思って応募するなら──それは個人の選択だ。誰も強制しているわけではない。彼らは広告に応募して、指示を受ける。彼らが誰なのか知る由もない人々を車に乗せる。そうしたことをする人々が捕まっている」

ソーシャルメディアは若者が好む場所であるため、彼らの経済的な動機も「最大の搾取の対象」になると、リードは付け加える。もっとも、経済的な動機は、密入国に関与するかどうかの大きな分かれ目ではない。あらゆる立場の人が、とても裕福な家族の人も含めて、言いくるめられて手を染めることになる。

「私たちが扱っているのはほぼ無限のバーチャルコミュニティーだ。つまり、世界中の人に関係がある話をしている。インターネットにアクセスできる人は誰でも、これらの組織に加わることを自ら選べば、搾取される可能性がある」

「まずは意識を高めることだ。自分の愛する人が何をしているか、自分の子供が何をしているか、知ろうとすることだ。あなたが大人で、このような広告に応募しようと決めたのなら、自分が組織的な犯罪に加わろうとしていることを理解してほしい。自分の車に家族を乗せるのか、それとも常習犯を乗せるのか」

政争より子供たちを守れ

国境問題について議会で証言したこともあるダネルズは、若い人々は貪欲さや未熟さといった理由で巻き込まれると語る。トゥーソンまで3時間のドライブで1000ドル以上稼げることは、10代の若者にとって魅力的だ。

ダネルズは地域や地方自治体、連邦政府の同僚と協力して、「人間の密輸」の蔓延とティーンエージャーの関与に焦点を当ててきた。彼らは学校を訪ね、そのような行為に加担することの影響と危険性に警戒するように話をしている。

「車のハンドルを握っている子供や、密輸など何らかの国際的犯罪行為に関わる子供を見るたびに、彼らの人生が変わってしまうことを目の当たりにする。もし私が、あるいは同僚がそれを食い止めることができるなら、私たちはやるべきことをしているということだ」

政治的な問題が多すぎて全体的な結果が重視されていないと、ダネルズは続ける。「こうした取り組みのカギは、連邦政府が関与しないことだ。連邦政府は自分たちが関与しているかのように話すが。バッジを着けた捜査官ではなく官僚たちのことだ。共和党だろうが民主党だろうが無所属だろうが関係ない。政党を守るのではなく、この国を守れ。それが一番大切なことなのに、選挙や政治的な所属を気にするあまり、この国では毎日、人が死んでいる」

移民関税執行局に匿名で情報を提供できる電話番号もある。リードによれば、大切な人が違法行為に関与していることに気付いた両親などから集められた情報は、既に有効に活用されている。

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