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与党は敗北確実、野党党首はカリスマ性なし...イギリス総選挙決定で明らかになったこと

ニューズウィーク日本版 2024年5月30日 15時45分

コリン・ジョイス
<大ニュースなようでいて既定路線の英総選挙、見通すことができる6つのポイント>

イギリスのリシ・スナク首相が7月4日に総選挙を実施すると発表したことは、おそらく14年にわたる保守党支配が終わるだろうことを意味するため、大ニュースと言っていいはずだ。

でも、下院の任期満了が今年末に迫るなか彼がどこかの時点で早々に総選挙に踏み切らなければならないことは分かっていたから、そしてそれがほぼ確実に保守党の敗北に終わる兆候は何年も前から見えていたから、大ニュースとも言えない。

だが、総選挙実施が決まったことで、数々の物事に焦点を当てることができる。以下に述べるのは、以前からかなり明らかで、今はさらに明らかになった物事の概要だ。

聞こえてくるのは保守党への不信感の声ばかり

1)総選挙で保守党は負けるだろう。保守党が大勝した前回2019年の総選挙とは対照的に、人々は概して保守党を嫌悪の目で見ている。なぜなら国民は深刻な生活費の危機(住宅ローン金利の上昇、高いインフレ率、エネルギー価格の高騰、それでいて低い経済成長率)に苦しんでおり、さらにボリス・ジョンソン元首相のペテンとリズ・トラス前首相の悲惨な短命政権を経験したからだ。そのムードを変える時間はない。僕はイギリスで最も保守的な地域の1つであるエセックス州に住んでいるが、聞こえてくるのは保守党に対するうんざりした不信感の声ばかりだ。

2)コアな労働党支持者の間にさえ、キア・スターマー労働党党首に対する熱狂があまり見られないので、彼はむしろ不戦勝というような形になるだろう。投票先未定の浮動層がわざわざ彼に投票しないかもしれないから、彼が僅差で勝利することも意味しているかもしれない。スターマーはカリスマ性に欠けている。労働党の政策は、いまいちパッとしない(たとえば「グリーン産業革命」のように以前に提唱したいくつかの「ワクワクさせる」公約は、大幅に縮小されたり取り下げられたりした)。

スターマーも愚かではない。彼は、リスクを取ることが最大のリスクだと分かっている。大胆で劇的になり始めるよりも、無難に動いておくほうが、より多くの票を得られるだろう。

3)保守党には行き場がない。通常だったら政党は、少しだけ方向性を変えればある程度の勢いを取り戻せるというのが大方の考えだ。ところが保守党は、コアな支持層を喜ばせようと大幅に右寄りに舵を切り、そうすることによって主流の有権者(僕自身もここに入る)を遠ざけてしまった。

前回、保守党に投票した人々の多くは、今度は労働党の政策が「中道」に近いと考えるだろう。

保守党が中道寄りに戻ったりすれば、保守党の右寄り具合が足りないと言って保守党をつぶしにかかっているように見える新党「リフォームUK」(旧ブレグジット党)からの脅威にさらされる。リフォームUKが議席を獲得する可能性はないが、僅差の選挙区で保守党の票を食うには十分であり、結果として保守党に大ダメージを与えるだろう。

4) 保守党は多くの経験豊富な政治家を失っている。僕は以前、63人の保守党議員が再選出馬を見送りそうな情勢になった際に、「人材流出」について記事に書いた。今ではそれが77人に膨れ上がっている。まるで「沈みゆく船から脱走するネズミの群れ」のようだ。

悪あがきで「兵役」復活政策まで浮上

5) 保守党はただただ、のたうち回っているようにも見える。悪あがきは悪い政策を生む。保守党が(兵役・社会奉仕活動を義務付ける)「ナショナル・サービス」の復活を提案しているというニュースを最初に知ったとき、僕は文字通り自分が誤解しているのだと思った。必ずしもひどい考えだと思うからではなく、慎重に検討する必要がある(そしておそらくは棚上げされることになる)たぐいの政策だからだ。どうせ選挙で負けるんだから「試すだけでもやってみよう」との勢いだけで何の計画もなしに発表するようなたぐいの政策ではない。

6) これは荒っぽい推測だが、投票日が近付いて保守党が一向に差を縮められないとなったら、保守党は中傷キャンペーン――スターマー党首とアンジェラ・レイナー副党首がBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)抗議行動の真っ最中に「膝をついている」写真を掲げる――をするようになるのではないかと、僕はいぶかしんでいる。

これは、一般的なイギリス人が多少のことに目をつぶってでも保守党に投票する理由の1つになりかねない。市民の混乱を引き起こし、ロックダウンの規制を破り、「制度的人種差別」だの「白人特権」だの「マイクロアグレッション(無自覚の小さな差別行為)」だのといったひねくれた論理に基づいた抗議行動に、共感を示してこうべを垂れる首相なんて、決して望まれないからだ。

1997年に保守党が、悪魔のような目をしたトニー・ブレアに「ニューレイバー、新たな危険」の文字を掲げたポスターを作ったことは有名だ。その戦略はいまいち弱くて、うまくいかなかった。でも今回は、スターマーが膝をつく実際の写真を見せて、その意味するキャッチコピーを勝手に有権者に想像させればいいだけなのだ。



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