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「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母親が語る、自閉症の子を育てる不安と苦しみと怒り

ニューズウィーク日本版 2024年6月1日 11時21分

ベス・ルッジェーロ・ベル(ニューヨーク州在住の高校教師)
<発達障害が「天の恵み」などと世間では言われるが、とんでもない。不安や怒りに苦しむ親の「本音」を聞いてほしい>

私は42歳で息子が2人いる。次男は自閉症だ。世間では「自閉症は天の恵み」などと言うが、診断から8年、そんなふうに思ったことは一度もないし、今後もないだろう。

自閉症の子供を持つ親はポジティブ思考を強要されがちだ。SNSや周囲の親、さらには医療の専門家までもが、自閉症をネガティブに語ってはいけない雰囲気をつくる。

実際には、人と違うことを恐れる社会で人と違う子供を日々見守るのはとてもつらい。公共の場に出るのは、子供だけでなく親も怖い。息子が独り立ちして家庭を持つことは難しいという現実を認めるのは、胸がつぶれるほど悲しい。

けれどもそうした思いは口に出すべきではない。「旅路を受け入れ」「喜びを見いだす」のが、親の務めだから。

20年前に高校で英文学を教え始めた頃の私は、自閉症が怖かった。自閉症の生徒は孤立し、仲間外れにされていた。どんなに頭がよくても、とっぴな言動のせいで「変な子」の烙印を押された。いつか自分が自閉症の子供を持ったらと思うと、ぞっとした。

中学に上がれば息子はからかわれ、仲間外れにされるだろう

自閉症児を育てる経験は、私の授業を変えた。知識やスキルを教えることより、優しさと寛容の精神を示すことが大事になった。自閉症の生徒や身近に自閉症の人がいる生徒が障害を理解し、普通のことだと思えるように、私は息子の話も積極的にする。

外で息子をじろじろ見たり陰口を言ったりする人がいれば、こちらから話しかけて自閉症特有の言動を説明する。

息子について語るのは、実は自分のためでもある。息子は現在小学3年生で同級生にも学校の職員にも愛されているが、中学に上がる日はすぐに来る。いじめっ子のすることは、私が中高生だった頃から変わっていない。

息子はからかわれ、仲間外れにされるだろう。私が高校の生徒たちに息子のことを話すのは、「うちの子に優しくして。守ってあげて」という切なる願いの表れなのだ。

よその子がいい成績を取ったり課外活動で活躍したりするのを見れば、内心羨ましいし、腹も立つ。子供の成長は喜ばしい半面、寂しくもあるとよその親は語るが、うちの子は一生幼児期に閉じ込められ、彼の成長は新たな不安と恐怖の種でしかない。

いつまでも自閉症でなかったらと想像しては苦しむだろう

そんな私が誰より嘘のない関係を築けるのは、同じ自閉症の子を持つ親たちだ。

苦労は当事者にしか分からない。息子が3歳までにおむつを卒業できたのは私の人生最大の手柄だが、その気持ちが分かるのは自閉症児の親だけ。息子を映画館に連れて行けない理由が分かるのも、飛行機を使う家族旅行に息子抜きで行く私を非難しないのも、彼らだけだ。

私は息子の可能性を信じ、彼のために戦い続けるけれど、この波乱の旅路に感謝する日は決して来ないだろう。

いつまでも、自閉症でなかったら息子は、私たち家族はどんな人生を送ったのかと想像しては苦しむだろう。手に入ると思っていた人生を奪われたことへの怒りや悲しみに、涙を流すだろう。この手で自閉症を取り除いてやれたらと願わない日はないだろう。

親も介護者も、子供を愛しているなら自閉症も愛さなければならないなんて思い込む必要はない。私は息子を心から愛しながら、彼の自閉症をずっと憎み続けるだろう。これが本音だ。

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