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不倫口止め料裁判「有罪評決」のトランプ前米大統領を「擁護」...ジョンソン元英首相の論理とは?

ニューズウィーク日本版 2024年6月1日 18時0分

木村正人
<トランプへの不倫口止め料裁判での有罪評決を、ジョンソン元英首相は「露骨に政治的なもの」と批判>

[ロンドン発]アダルト女優への不倫口止め料を不正に会計処理したとされるドナルド・トランプ前米大統領に対し、ニューヨーク州地裁の陪審は5月30日、34すべての罪状で有罪評決を下した。米大統領経験者への有罪評決は初めてだ。7月11日に判事から量刑が言い渡される。

トランプ氏は「不正な裁判だ。この国と憲法を守るために必要なことは何でもする。われわれは戦うつもりだ」と控訴する方針を明らかにした。実刑になっても大統領選の候補資格は失わず、大統領に返り咲いた暁には職務遂行に支障を来すとして州の刑事手続きに介入することもできる。

「多くの共和党員は依然としてトランプ氏を支持しており、公職や法廷外でのトランプ氏の欠点を認めながらも大統領選では彼に投票するだろう。実際、共和党員の56%はトランプ氏の性的スキャンダルは大統領選への出馬資格を剥奪する理由にはならないと考えている」

トロント・メトロポリタン大学(カナダ)のユージン・チャン准教授らは豪非営利メディア「ザ・カンバセーション」でこう解説する。トランプ氏の行為は褒められたものではないが、トランプ氏は自分たちのために職務を果たしてくれるという「モラル・デカップリング」が働く。

英国の「政界の道化師」の援護射撃

トランプ氏のセクハラは認識しているが「トランプ氏は政治的な魔女狩りの犠牲者だ」「トランプ氏に対する現在の裁判や告発は選挙妨害の一種」とトランプ支持者は考える。有名映画監督の性的スキャンダルには目をつぶり、名作を支持し続ける人がいるのと同じ心理構造だ。

トランプ氏が大統領に返り咲くことこそが、自分自身の禊になると言わんばかりにトランプ氏を援護射撃する英国の政治家がいる。「政界の道化師」ボリス・ジョンソン元英首相だ。英大衆紙デーリー・メール(5月31日)に「機関銃を使った暴徒のような暗殺計画だ」と寄稿した。

「マンハッタンの法廷で陪審員は『有罪』評決を34回も繰り返した。普通の政治的暗殺ではない。暴徒がトランプ氏を機関銃で襲撃したような攻撃だった。これはトランプ氏の世論調査でのリードの終わりを意味するに違いないと左派リベラルメディアは興奮した」(ジョンソン氏)

「識者の明らかな驚きをよそに有権者の大半は評決に無関心であることが判明した。しかし、少なくとも私が目にした世論調査では有罪の評決を受けたらトランプ氏に投票する可能性が高くなると答えた人が15%もいたのには驚いた」(同)

67%が「有罪でも大統領選の投票には影響しない」

米NPR/PBSニュースアワー/マリストが5月30日に発表した全米有権者世論調査によると、67%はトランプ氏が口止めの不正会計で有罪になっても大統領選の投票には全く影響しないと回答していた。ジョー・バイデン米大統領の支持率は50%、トランプ氏は48%だった。

17%は、有罪になった場合、トランプ氏に投票する可能性は低くなると回答。ジョンソン氏が書いているように15%はトランプ氏に投票する可能性が高くなると答えた。逆に無罪になっても大統領選の投票に影響はないと答えた有権者は76%にのぼった。

「世論調査を見て『えッ?』と言わざるを得ない。トランプ氏は毎週のようにマンハッタンの法廷で審理を受けることを余儀なくされてきた。左派はトランプ氏のテフロン加工のような無敵ぶりは、彼が政治を腐敗させた証拠だと主張するだろう」(ジョンソン氏)

ジョンソン氏はトランプ支持者の裁判と評決に対する見解に共感しているという。トランプ氏を大統領選の投票から排除し、米国民が彼に投票する機会を奪うために反トランプ勢力が法廷闘争を利用しようとしているように見えると主張している。

断末魔の喘ぎか、アングロサクソン支配の終わりか

「有罪評決は露骨に政治的なものであり、完全に人為的なものだった。民主党の検察官たちは賢明なことをしていると考えていたのだろう。しかし反トランプの法廷闘争は逆効果となり、トランプ氏を傷つけるよりも、むしろ強化することになる」(ジョンソン氏)

「彼の批判者が何を言おうとトランプ氏が最高の力を発揮すれば世界が必要としている力強く自信に満ちたリーダーシップを提供できると信じている」とジョンソン氏は大西洋を越えてトランプ氏に無批判のエールを送る。

英国では7月4日に総選挙が行われる。英紙フィナンシャル・タイムズは最大野党・労働党448議席、保守党138議席と1997年にニューレイバー(新しい労働党)を掲げて誕生したブレア政権をはるかに上回る歴史的な大勝利を予想している。

マーガレット・サッチャー英首相とロナルド・レーガン米大統領のデュエットで幕を開けたネオリベラリズム(新自由主義)は今まさに終わりを告げようとしている。トランプ氏とジョンソン氏のデュエットは断末魔の喘ぎなのか、それともアングロサクソン支配の終わりなのか。

【英国総選挙と米大統領選】

1979年5月、英総選挙、サッチャー保守党政権
1980年11月、米大統領選、レーガン共和党政権
1983年6月、英総選挙、サッチャー保守党2選
1984年11月、米大統領選、レーガン共和党再選
1987年6月、英総選挙、サッチャー保守党3選(650議席中376議席)
1988年11月、米大統領選、ブッシュ(父)共和党政権
1989年11月、ベルリンの壁崩壊
1991年12月、ソ連崩壊
1992年4月、英総選挙、メージャー保守党勝利
1992年11月、米大統領選、クリントン民主党政権
1996年11月、米大統領選、クリントン民主党再選
1997年5月、英総選挙、ブレア労働党政権(659議席中418議席)
2000年11月、米大統領選、ブッシュ(子)共和党政権
2001年6月、英総選挙、ブレア労働党2選(659議席中412議席)
2001年9月、米同時多発テロ
2004年11月、米大統領選、ブッシュ(子)共和党再選
2005年5月、英総選挙、ブレア労働党3選
2008年11月、米大統領選、オバマ民主党政権
2010年5月、英総選挙、キャメロン保守党政権、自由民主党と連立
2012年11月、米大統領選、オバマ民主党再選
2014年2月、ロシアがクリミア侵攻
2015年5月、英総選挙、保守党単独政権
2016年6月、英国が国民投票、51.9%対48.1%でEU離脱を選択
2016年11月、米大統領選、トランプ共和党政権
2017年6月、英総選挙、メイ保守党過半数割れ
2019年12月、英総選挙、EU離脱巡りジョンソン保守党大勝(650議席中365議席)
2020年以降、コロナ危機
2020年11月、米大統領選、バイデン民主党政権
2022年2月、ロシアがウクライナに全面侵攻
2024年7月、英総選挙、スターマー労働党圧勝予想(フィナンシャル・タイムズ紙、650議席中448議席)
2024年11月、米大統領選



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