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子どもの読解力は家族との会話の中で養われる

ニューズウィーク日本版 2024年6月5日 11時30分

舞田敏彦(教育社会学者)
<勉強への自信にも影響する、家庭内での「関係の貧困」>

だいぶ前になるが、週刊誌「AERA」(2018年4月16日号)に「経済的貧困ではない『関係の貧困』が子どもの読解力に影響」という記事が出ていた。無料塾に来る貧困家庭の子どもを見ると、読解力に乏しい、数学の計算問題はできるが文章題になるとできない、SNSでの細切れの会話に浸っており文章を構築できない......。こうした傾向があるという。

その原因として、家庭での「関係の貧困」が言われている。貧困家庭では親子間のコミュニケーションが少なく、子どもはネットで好きなコンテンツを見てばかりで自分の世界にこもる。未知のものに触れ、何かを読み解くことも減ってしまうのではないか、と。その上で「家族の中での会話量が大事。親の長時間労働が問題」と指摘している。

なるほど、とくに読解力や文章力には当てはまるだろう。お金をかけて参考書を買ったり、塾に通ったりすることで一朝一夕に身につくものではない。対人のコミュニケーションの量がモノをいう。経済的貧困よりも「関係の貧困」が影響しそうだ。

この説はデータで支持されるか。国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動等に関する調査』(2014年度)では、小学校4~6年生の児童に「家の人と日々の出来事について話すことがどれほどあるか」と問うている。

この問いへの回答を、勉強の得意感とクロスさせてみる。経済的貧困のレベルを統制して「関係の貧困」の影響を取り出すため、年収が400万円以上600万円未満の家庭の子に限定する。小学校4~6年生の家庭の場合、ボリュームゾーンはこの階層だ。<図1>は、クロス集計の結果を帯グラフにしたものだ。両方の設問に有効回答をした1931人の児童のデータによる。

勉強の得意感をグループごとに比べると、家族とよく話すグループ(左側)ほど、勉強が得意という子が多い。家族と話す頻度が最も高い群では、52.3%が「勉強は得意」と回答している。一方、会話頻度が最低の群では28.3%しかいない。一番右側の群では、37.5%が「勉強は全く得意でない」と答えている。

これは家庭の年収を統制した比較で、家庭の経済力の影響は除かれている。家庭でのコミュニケーション頻度の影響を示唆する、一つのデータとみていいだろう。なお勉強といってもいろいろな教科がある。冒頭の「AERA」記事では、「関係の貧困」と読解力の関連が強いことが言われているが、そうであるなら国語の得意感との相関が強そうだ。

家族との会話頻度で分けたグループ間で、国語・社会・算数・理科の各教科が得意と答えた児童の割合を計算した。結果を折れ線グラフにすると、<図2>のようになる。

算数・社会・理科の得意感は、家での会話頻度との間に明瞭な相関関係はない。理科は、ほぼフラットだ。家庭の年収を一定化しているためだろう。だが国語だけは、右下がりのクリアな傾向が出ている。家族とよく会話するグループほど、得意と答える児童の割合が高い。あくまで自己評定だが、注目に値するデータだ。

国語だけは、経済的貧困よりも「関係の貧困」の影響が強いことがうかがえる。冒頭の「AERA」記事で言われている通りだ。読解力や文章力は、座学での学習だけで身につくものではなく、他者と向き合って言葉を交わす、生きた実践で鍛えられる。

最近ではSNSを介したコミュニケーションが多くなっているが、細切れの単語(隠語)を多用する形式では、長めの文章を書く訓練にもならない。

リアルなコミュニケーションも欠かせない。言語能力の形成途上にある年少の子どもは、特にそうだ。小さい子どもの場合、主な生活の場は家庭で、育ちに影響する「重要な他者」は家族(親)なので、親子間の会話が重要となる。

子どもに問いを発し、それを咀嚼(読解)させ、理性のツールである言語で応答させる。こういう経験を意図的に積ませたい。それが為される場は、かしこまって向かい合う勉強部屋である必要はない。食卓をはじめとした、日々の自然な生活の場でよい。

<資料:国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する調査』(2014年度)>

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