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カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

ニューズウィーク日本版 2024年6月5日 21時30分

茜 灯里
<数の感覚は様々な動物に備わっているが、数を声で表現しているところが観察されたのはヒト以外でカラスが初めて。この事実を、独テュービンゲン大の研究者たちはどう突き止めたのか>

鳥類の中でも、とりわけ知能が高いとされるカラス。皆さんも、カラスがクルミを車道に置いて、自動車に轢かせることで硬い殻を割って中身を食べたり、巣を壊したヒトを敵として記憶し、家から出てくる度に攻撃したりする様子を見聞きしたことがあるでしょう。

ドイツのテュービンゲン大の研究チームは今回、カラスの賢さを新たな視点から示すことに成功しました。カラスはカラス語で「いち、に、さん、し」と声を出しながら、4まで数を数えられるというのです。研究成果は、科学総合学術誌「サイエンス」に5月23日付で掲載されました。

これまでの研究により、数の感覚を持っている動物はたくさんいることが分かっています。けれど今回の研究では、カラスは数を理解した上で、それに応じた鳴き声を出すことができることが示されました。数を声で表現しているところを観察されたのは、ヒト以外ではカラスが世界初の事例となります。

研究者たちは、どのようにしてこの事実を突き止めたのでしょうか。概観してみましょう。

イヌやネコをも凌ぐ賢さ

カラスは、鳥類の中ではとくに知能が高いことが知られています。カラスの体重は600~800グラム程度ですが、脳の重さは約10グラムあります。ちなみにニワトリは体重が1.2キロ程度で脳は約3グラムです。つまり、カラスはニワトリと比べると、体重に対する脳の比率が5倍以上にもなります。

それどころか、カラスの賢さはイヌやネコを凌ぐとも言われています。その根拠として頻繁に登場するのが、アメリカの心理学者であるハリー・ジェリソン博士が1973年に考案した「脳化指数」です。体重に対する脳の重さを示す、いわば「動物の知性の指標」であり、単純な割り算ではなく、体重が大きいほど脳も重くなる傾向があるため補正値が掛けられています。

脳化指数はネコを基準とすることが多く、ネコを1.0とすれば、イヌは1.2、チンパンジーは2.2~2.5、ハンドウイルカは5.3、ヒトは7.4~7.8になると言います。ネコより数値が低い動物は、たとえばウマが0.9、マウスが0.5、ニワトリが0.25とのことです。一方、カラスは1.25と算出されています。

最近は「カラス学」が目覚ましく発展しており、サイエンス誌には2020年に、「カラス属(一般的なカラスのほかに、カケスやカササギ、オナガなども含む)には自己認識があり、アイディアを熟考することができる」とする研究が掲載されました。22年には神経科学の専門誌「ジャーナル・オブ・コンパラティブ・ニューロロジー」に、「カラスの脳内には約2億~3億個のニューロンが高密度で存在しているため、脳細胞間の連携を効率的に行うことができる」と報告されています。

「7歳くらいの子供に匹敵する」と考える研究者もいるカラスの知能ですが、今回のテュービンゲン大の研究では、「カラスはまさに幼児と同じような思考能力を使って、声に出しながら数を数えている」ことが判明しました。

この研究の重要な部分は、カラスが数の概念を持っているところではありません。数の感覚自体は様々な動物に備わっている能力です。

これまでの研究では、たとえばセイヨウミツバチは4までの数を認識し、訪れる花の順序を覚えて効率的に蜜を集めたり、巣に帰る時の手がかりに使ったりしていることが分かっています。

アフリカライオンのメスの群れに、別の群れのメス1頭の唸り声を聴かせると戦う姿勢を取りましたが、3頭以上の唸り声の場合は躊躇したという報告もあります。ハイイロオオカミでは、自分の群れの数によって狩る獲物の大きさを決めており、9匹以上いる時しかパイソンを狩ろうとはしない様子も観察されました。

ヒトだけが持つと考えられてきた能力

今回の研究論文の責任著者にもなっている神経生物学者のアンドレアス・ニーダー博士は、動物の数の認識に関する150以上の論文を分析し、「数に関する何かしらの能力は、ほぼすべての動物に備わっている」と結論づけています。

一方、数を声に出しながら数え上げることは、数を理解する能力と発声をコントロールする能力を高度に組み合わせなければならず、ヒトだけが持つ能力と考えられてきました。

ヒトは数を覚え始める幼少期、3つの物を「いくつ?」と尋ねられると、単に「3」と答えるのではなく、「1、1、1」や「1、2、3」と物体の数と同じだけ発声して数えます。もっとも、小さい子供は、発声の数は正しくても「1、1、4」などと数字の名前はごちゃ混ぜになってしまうことがあります。それだけ、数の概念を声とリンクさせて正しく数え上げることは難しいのです。

本研究では、3匹のハシボソガラス (学名:Corvus corone) を対象として実験を行いました。カラスたちは、任意の記号や音声で視覚と聴覚の両方の刺激が与えられ、それに応じて1~4回の鳴き声を出し、終了の合図を押すように訓練されました。たとえば、2という数字や2回の音に対して、カラスが2回鳴いてEnterキーをつついて終了を知らせることができれば、報酬(エサ)がもらえます。

実験の結果、すべてのカラスがカラス語で「1、2、3、4」と数に応じた違う鳴き声を出しながらカウントしていき、偶然以上の高い確率で、予め合図で決められていた回数でピタッと止めることができました。間違った場合でも、1回多いか少ないかという近い値での間違いでした。

さらに、要求された発声回数が多いほど、カラスの発声までの準備期間は長くなりました。このことは、カラスが直前の差し迫った状態で、発声回数全体を計画していることを示唆していると言います。

また、回数を間違える際に、①中間の鳴き声を飛ばしてしまうエラー(1→2→3とすべきところを1→3と鳴く)と、②同じ鳴き声を繰り返してしまうエラー(1→2とすべきところを1→1→2と鳴く)に特に注目して分析すると、①は発声回数を少なく間違えた時、②は多く間違えた時によく見られました。このことから、カラスの間違えは、最初の発声回数計画そのもののエラーというよりも、途中で計画から外れてしまった場合に起こることが示唆されました。

研究者たちは、「原理的には、カラスは数を使った高度なコミュニケーションが可能である」と語っています。

3月から7月はカラスの繁殖期です。日本でも、子育て中に普段よりも神経質かつ凶暴になったカラスがニュースを賑わせています。むやみに刺激してカラスの恨みを買ったり、開けやすいゴミ袋を家の前に放置したりすると、「2つ先の角の家を襲撃しよう」と仲間に鳴き声で伝えられてしまうかもしれませんね。

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