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「惑星破壊に加担するな」国連グテレス事務総長がPR業界に苦言を呈した理由

ニューズウィーク日本版 2024年6月12日 13時0分

ジェフ・ヤング
<グテレス事務総長は6月5日の演説で、化石燃料業界の広告を禁止するよう求めた>

国連のアントニオ・グテレス事務総長は6月5日の「世界環境デー」に合わせて演説を行い、化石燃料業界の広告禁止を訴えた。PR会社や広告代理店に対しては、化石燃料の宣伝を担うことをやめるよう求めている。

グテレスはニューヨークのアメリカ自然史博物館で行った環境行動に関する演説の中で、「私はそうした企業に対し、惑星破壊に加担する行動をやめるよう訴える」と呼びかけ、「化石燃料は我々の惑星を汚染しているだけでなく、あなた方のブランドにとっても有害だ」と語った。

グテレスは、石油、ガス、石炭会社がグリーンウォッシュ(環境配慮に見せかけたうわべだけのアピール)キャンペーンや偽情報キャンペーンを仕掛けているとして非難。たばこ会社が喫煙の害をはぐらかす目的でかつて用いた誤解を招くPRキャンペーンになぞらえた。

「人の健康を害する製品については多くの国が広告を規制または禁止している」とグテレスは述べ、「一部は今、化石燃料についても同じことをしている」と指摘した。

化石燃料の利害関係者が消費者に誤解を与える広報宣伝に力を入れていることは、証拠で裏付けられつつある。複数の調査や学術研究を通じ、化石燃料企業が広告やロビー活動を利用して気候変動に関する科学的根拠に疑問を植え付けるキャンペーンを展開している実態が明らかになった。例えばエクソン・モービルのようなケースでは、企業が石油の燃焼を増やすことの有害性について知っていながら、その事実を隠蔽していた。

「エクソン・モービルは気候変動に関して自分たちが知っていたことを組織的に歪曲し、主流派の科学者の発言を歪曲した」。ハーバード大学の科学歴史学者で論文筆者のナオミ・オレスケスは昨年10月、本誌のインタビューでそう語っていた。

オレスケスがジェフリー・スープランと共同執筆した査読付き論文のうち、2023年1月の論文は、温暖化など現代人が経験している影響を驚くほど正確に予測する気候変動モデルをエクソンが何十年も前に開発していながら、公表を差し控えていた実態を見せつけた。

4月には米議会の上下両院による合同調査の結果、石油・ガス会社が気候科学について「大衆を混乱させ、誤解を与える」PRキャンペーンを展開しながら、一方で将来的にさらなる化石燃料の利用を画策していたと断定した。

「石油大手の偽りキャンペーンは、気候変動を裏付ける科学的根拠のあからさまな否定から、ごまかし、偽情報、二枚舌へと発展した」と同調査は結論付けている。

そうした全てが、石炭、石油、ガス会社および業界団体の宣伝を担うPR会社や広告代理店に対するプレッシャーとしてのしかかった。

「PRは何十年も前から気候変動に関する偽情報の根源だった」。クリーン・クリエイティブズのエグゼクティブディレクター、ダンカン・マイゼルは本誌にそう語った。同団体は広告代理店を温室効果ガスの排出企業から引き離す目的で2020年に設立された。

「気候変動について誤解を与えることは基本的に何もかも、化石燃料にかかわる広告代理店やPR会社から始まった」とマイゼルは言う。

マイゼルはグテレスの演説について、PR業界の中で気候変動に関する自分たちの価値観に沿った仕事をしようとする運動の関係者にとって励みになると評価した。さらに、この演説は化石燃料企業を代弁する企業へのメッセージでもあると述べ、「彼らにとってこれは、撤退を計画すべき時が来たという合図になると思う。明日にでもというわけにはいかないかもしれないが、これはスタートの合図だ」と話している。

クリーン・クリエイティブズは2種類の企業リストをまとめている。1つは化石燃料側の宣伝を担う世界数百社のリストで、PR・広告代理店の世界大手6社が名を連ねる。もう1つのリストには、石油、ガス、石炭企業との仕事はしないと誓約した企業が並ぶ。

マイゼルによると、同団体の誓約は34カ国の1000社以上が採用した。この中で最大のPR会社はサンフランシスコに本社のあるアリソン・ワールドワイドで、本誌がまとめた米国のPR会社ランキングで最大の5つ星を獲得している。

アリソンのパーパス担当執行副社長、ホイットニー・デイリーは、誓約に加わることを昨年秋に決めたのは、会社としての価値観と事業戦略の両方が動機だったと本誌に説明した。

「自分たちにそれができること、石油と石炭、ガスの仕事を拒んでもまだ利益が出せることを、我々は市場と業界に印象付けている」とデイリーは語り、この誓約によって、同じような考え方の潜在顧客に対して自分たちの気候に対するコミットメントを示すことができると言い添えた。

グテレスは演説の中で、広告業界で恐らく最も有名な存在(架空ではあるが)を引き合いに出している。

「(化石燃料会社は)広告会社やPR会社に助けられ、けしかけられてきた。マッドメン――あのテレビシリーズを覚えているだろうか――が狂気に火を付けた」。マッドメンは1960年代のニューヨークの広告業界を描いて長年の人気を誇ったAMCのテレビドラマシリーズ。

マッドメンの主役、ドン・ドレイパーはカリスマ広告マン。道徳的葛藤を抱えながら、健康不安をごまかそうとするたばこ会社を手助けしてきた。最終回では海辺の瞑想施設に引きこもって自分の人生を回想する。クライマックスシーンは、ドレイパーが自分のやり方を変えたのかどうかという疑問を残したまま終わる。

デイリーは、マッドメンの引用を笑いながらも、やはり内省の機会にこれを利用した。社会に影響を及ぼすことを意図する業界の一員として、PRや宣伝のプロは気候変動のような社会的問題に果たすべき重要な役割があるとデイリーは言う。

「私たちは文化的会話を形成する言葉の力を持っている。どんな会話を形成したいのか」

(翻訳:鈴木聖子)

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