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「棒と石」で戦う兵士たち...中印国境の衝突...過去動画が再浮上した「意外な理由」

ニューズウィーク日本版 2024年6月12日 16時40分

アーディル・ブラール
<インドのモディ首相の3期目の就任にあわせるかのように、4年前の中国とインドの国境での紛争動画が中国のSNSに流出した。現在は安定しているように見えるこの地域だが、専門家は緊張が高まっていると警告する>

中国とインドの国境沿いの係争地で衝突した両国軍の兵士が棒や石で戦う様子を撮影した新たな動画が、中国のソーシャルメディア・微博(ウェイボー)で公開された。

【動画】「棒と石」で戦う兵士たち...中印国境の衝突...過去動画が再浮上した「意外な理由」

このドラマチックな映像は、核保有国同士の軍事的緊張を浮き彫りにしている。この地域では2020年に何度も衝突が起きており、中国とインドの兵士は棒や石を使って攻撃し合った。両軍は国境地帯をパトロールする兵士に銃を携帯することを禁じる協定を結んでいたからだ。

Clash Reportというソーシャルメディアのアカウントは6月8日、国境地帯で衝突する中国人民解放軍(PLA)とインド軍の新たな動画が公開されたと伝えた。

「新たな国境の衝突で、中国人民解放軍兵士がインド人兵士を殴打する様子が映し出されている」と、Clash ReportはX(旧ツイッター)に投稿した。

2020年にラダック東部の係争地で中印両軍のにらみ合いが始まって以来、両軍ともに少なくとも5万人の兵士が向かい合って駐屯している。インド軍は15~20万人の兵士を送り、中国軍と対峙させていると報じられている。

2020年6月、ヒマラヤの渓谷でインド軍と中国軍のパトロール隊が激しい小競り合いを起こし、20人のインド軍兵士と少なくとも4人の中国軍兵士が死亡した。この地域の紛争で死者が出たのは、約50年ぶりのことだった。

中国の意図的な流出か

本誌が以前報じたところによると、PLAはインド軍に匹敵する兵力を有しており、新疆ウイグル自治区とチベット軍事地区から最大20万人の兵士を派遣しているという。

本誌が分析したところでは、今回の動画は2020年当時の衝突の際に撮影されたものだが、以前出回ったものとは別の角度から撮影されている。ここ数日、中国の軍事ブロガーたちは微博で、2020年の軍事衝突の際に撮影された古い動画を共有している。

「中国は、不法侵入した外国軍兵士との衝突で死亡したPLAの兵士に敬意を表するため、2020年6月に起きたラダック地方ガルワン渓谷における中印国境紛争の動画を公開した」と、中国国営メディアのチャイナ・ニュースは2021年2月に報じた。

PLAの兵士が撮影した衝突の動画は、通常、Xで公開される前に、まず微博で公開される。

こうした動画の流出は初めてのことではない。中国の軍事ブロガーは過去にも同様の動画を流出させている。最新の動画は、インドの新内閣の発表と、ナレンドラ・モディ首相の3期目の就任宣誓式と同じタイミングで投稿された。

世界の主要国の指導者たちはみな、モディに祝福の言葉を送っているが、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席はまだ当選を祝うメッセージを出していない。中国外務省は声明でモディを祝福した。

中印両国が多数の兵士を配置しているラダック地域は、事実上インドの支配下にある。しかし、中国はインドのラダックに対する支配に異議を唱えている。

「中国は、インドが一方的かつ違法に設定したいわゆるラダック連邦直轄領を承認したことはない」と、中国外務省の毛寧(マオ・ニン)報道官は2023年12月に述べた。

だが、インドはラダックを自国の領土の一部とみなし、中国の主張を否定している。

「インドの一貫した原則的な立場は、アルナーチャル・プラデーシュとジャンムー・カシミール連邦直轄領およびラダック全域は、これまでも、そしてこれからも、インドの不可分の一部であるということだ」と、インド外務省は4月に述べている。

中国は、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州も、南チベットの一部として領有を主張している。

専門家たちは、この地域は安定しているように見えるが、両国間の軍事的緊張が一触即発の状態になっていると強調する。

「国境をめぐる状況は、いくつかの理由からインドにとってより危機的かもしれない。撤退のふりをして、その後に占拠するという中国の侵食戦術は、消し去ることのできない事実を作り出している」と、フランスのシンクタンク、モンテーニュ研究所のアジア・米国特別顧問フランソワ・ゴドマンは、4月12日付のディプロマット誌で述べている。

民族復興と拡張主義

本誌は中国外務省とインド外務省に電子メールでコメントを求めている。

中国は従来、台湾について語るとき、しばしば国境の防御と「中華民族の復興」の追求を引き合いに出してきた。だがインド、ロシア、モンゴルなど、陸地の国境の関連性を訴えることは、比較的新しい現象だ。この傾向は、中国が「外国による占領」の時代に失ったと認識している国家的地位を回復しようとする取り組みと徐々に結びついている。

最近、ブルームバーグは、インドがパキスタンとの西部国境に配備していた部隊を再配置し、中国との国境に1万人の部隊を追加配備したと報じた。

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