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この10年で日本人の生活苦はより深刻化している

ニューズウィーク日本版 2024年6月13日 15時30分

舞田敏彦(教育社会学者)
<お金に困っていると感じている人の割合が多いのは主に25歳から49歳の現役世代で、約半数に達している>

国民の生活が苦しくなっていると言われる。引き合いに出されるのは、稼ぎの減少だ。雇用の非正規化もあり、働く人の収入は減っている。「官」も例外ではなく、図書館職員の7割以上が非正規雇用で、生活できないほどの低賃金で働いているという(弁護士ドットコムニュース、2024年6月6日)。

だが、収入が多くても生活に困っている人はいる。収入より支出が多い人だ。生活苦の広がりを可視化するには、ワーキングプアが何%かよりも、「生活が苦しい」と感じている人の割合に注目したほうがいい。

「今の生活は苦しいか」と尋ねる調査は数多いが、信頼のおける政府調査だと、内閣府の『国民生活に関する世論調査』がある。筆者の年代(45~49歳)を見ると、悩み・不安があるという人は84.0%で、そのうち「今の収入や資産の悩み・不安がある」と回答しているのは57.8%(2023年調査)。全数ベースの割合は、この2つをかけ合わせて48.6%となる。40代後半の国民のおよそ半分が、お金に困っている。

他の年齢層の数値も出し、つなぎ合わせたグラフにすると<図1>のようになる。時代変化を見るため、10年前の2013年との比較もしている。

この10年間で、不穏な闇が広がっている。2023年で見ると、25~49歳の半数前後がお金の悩みを抱えている。意外というか、高齢層では比較的少ない。

社会を支える働き盛りの層で、生活苦が広がっているようだ。特に、結婚・出産期の若年層で割合が高いのが気にかかる。若者にカネがないのはいつの時代も同じだが、近年は増税も加わっている(「この四半世紀でほぼ倍増した若年世代の税負担率」2023年8月16日、本サイト)。大学進学率の高まりで奨学金を借りている人も増えているが、少なくなった手取りからその返済もしないといけない。結婚どころではない。

追い打ちのごとく、全国民から少子化支援金を徴収することも決まった。子育てをしている家庭の負担軽減に使われるのだろうが、持たざる者から持てる者へとお金が流れることにもなる。全体として見ると、結婚・出産から遠のく若者が増え、少子化がますます進みそうだ。若者の可処分所得を増やすことに重きを置いたほうがいい。

お金に困っている人の実数も見積もってみる。上述のように2023年の45~49歳だと、お金の悩みがある人の割合は48.6%。この年の当該年齢人口は912万人ほどなので、経済苦を感じている人の実数は443万人と推定される。<図2>は、年齢ごとの見積もり数をグラフにしたものだ。

この10年間で、お金に困っている国民の実数もかなり増えている。2023年で最も多いのは45~49歳、いわゆる「ロスジェネ」だ。全年齢層の合計は3757万人で、20歳以上の国民の3人に1人がお金に困っていることになる。

増税が相次いでいるが、税による再分配が適切に機能しているなら、こういう状況になるだろうか。国の税収は過去最高なのだが、最近の内訳をみると所得税や法人税よりも消費税が多くなっている。税金には累進性を持たせる、という原則が崩れつつある。

「国民の生活が苦しい、政府の出番だ」となるのだが、国のやることなすことが逆効果というケースが増えているように思えてならない。このほど徴収が決まった少子化支援金も、使途を誤らないようにしてほしい。まずは学校の学費を下げるというように、使い道を限定することから始めるべきだ。

<資料:内閣府『国民生活に関する世論調査』>

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