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仲間と学びで、未来を拓く...「仲間」を重視する、人事のための「人事図書館」が話題を集める理由とは?

ニューズウィーク日本版 2024年6月20日 19時24分

flier編集部
<人・組織に関する蔵書1000冊。人事の「悩みの本質」に寄り添う場「人事図書館」を立ち上げ得たTrustyyle代表の吉田洋介さんに聞く>

2023年10月、「人事図書館、つくります。」というXのポストが反響を呼びました。発起人は、人事領域の第一線で活躍されてきた株式会社Trustyyle代表の吉田洋介さん。クラウドファンディングでは472名からのご支援があり募集金額の目標を達成。満を持して2024年4月1日、東京・人形町にて「人事図書館」がオープンしました。

人事が「仲間」と出会い、「本」に学んでともに磨き合う。そんな新たな図書館を立ち上げた背景とは? 今後の展望とともにお聞きします。
(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)

人事に関する「本の英知」に気軽にふれられる場をつくりたい

人事図書館を立ち上げた株式会社Trustyyle代表の吉田洋介さん

──吉田さんが人事図書館を立ち上げたきっかけは何でしたか。

きっかけは3つあります。1つは、人事で困っている方々が気軽に相談できるような場をつくりたいと考えたことです。どうしたら組織がうまくいくかという人事の普遍的な課題を解決に導くような知見は、すでに50年、100年前から書籍として残されている。それが失われていくのはもったいないことだと思っていました。人事の方々がこうした知見に気軽にふれられ、相談や学びのハードルを低くしたい。そうすれば、社会課題の解決をめざす志あるスタートアップが組織課題で崩れてしまう、といった状況を減らせるのではないか、と思ったのです。

2つめは、小田原にある私の家が本でいっぱいになっていたこと。色々な方におすすめの本を聞かれるので、実際に本を広げて紹介できる場所を探していました。

そして3つ目は私自身が色々なコミュニティーの運営をしていたことです。人事のプロをめざす方のオンライン塾「壺中人事塾」の運営もその1つ。人が集まる場所が好きなので、恒常的に学び合える場をつくりたいと思っていました。

こうした3点の背景から、人事図書館の設立に至りました。めざすのは、良質な書籍によって学びを深め、仲間とともに知恵を磨き合う場。人や組織に関わる1000冊以上の蔵書と、コワーキングスペースにも相談や企画の場にもなるよう設備を整えていきました。

人事担当者が抱える「悩みの本質」とは?

──人事の方々が感じている課題について吉田さんのお考えをお聞かせください。

ここにいらっしゃる人事の方は、具体的かつ目の前のことで悩んでいるケースが多いように感じます。例えば、「採用広報はこんな文章でよいかな」といったレベル感です。人事担当者は社員や組織のために何ができるか、より良い方法を模索することに熱心な方ばかり。

ところが、社内で人事が自分一人だけの場合もあれば、人事に詳しい人がいない場合もある。かといって、社外の人事交流会で知り合った人に、個別具体的な悩みのフィードバックを求めるのは気が引けてしまう。こうした孤独を感じているのです。

人事施策を進めるなかでモヤモヤしたときに、すぐに相談できる場があればどうか。その場で会話ができれば、課題が言語化できるし、問いがはっきりしていきますよね。

今の時代、必要な情報はネットにあります。そんななか強いニーズがあるのは、自分の考えや判断の背中を押してもらうこと、あるいは「こうすると上手くいくよ」と意見をもらうことです。また、採用や育成など、他社の事例をサクッと知りたいという声も聞きます。そこで人事図書館では、人事経験のある司書が滞在し、「人事としてどう考えるか」の相談にのれるようにしています。

人事に求められるのは、「事をなす」という「攻め」の役割

田中志歩さん(左)は大阪から東京に引っ越して、人事図書館を司書として支える

──人事の対応領域が幅広く、複雑になっているのですね。人事の方の課題意識について、どんな傾向や共通点があるのか、吉田さんのお考えはどうですか。

課題は、「普遍的なテーマ」と「今日的なテーマ」の両方があると考えています。前者は、採用や人事評価、組織づくりといったテーマで、このテーマの悩みが尽きることはありません。一方で、人的資本開示やコンプライアンスへの対応、組織的なDXなど「今日的なテーマ」の課題は増える一方です。とはいえ、「人事の対応領域が増えたから担当者を2倍に増やそう」とはなりませんよね。今いる人員でいかにクイックに対応するかが求められます。

必要になるのは、数多くのテーマのなかで、自社の経営にとってより重要なテーマを判断する「選球眼」。人事の意思決定が事業に与えるインパクトはこれまで以上に大きくなっていきます。

たとえば、数年前に1on1が流行しましたよね。経営者から「1on1を全社に導入してほしい」と要望があった際、人事担当者はどうするとよいか。大事なのは、社内の人的リソースが限られた中で、「はたして1on1がベストソリューションなのか?」という問いをもつこと。かける工数に対して期待できる効果が得られるのか、代替案はないのかを考え、より良い施策を経営層に提言していく役割も求められています。

──人事の役割がますます高度になっているのですね。

日本企業では人事の「人を守る」という役割が重視されてきて、それが労働者の働く条件や環境の向上につながりました。そうした「守り」も必要ですが、日本全体として事業が伸び悩む現代は、いかに事業を伸ばすかという「攻め」の役割も大事になっていきます。

人事のベースは「人を生かして事をなす」。この「事をなす」部分が置いてきぼりになっているともったいない。これからは、人事担当者が学び続けるだけでなく、人とつながっていき、一緒に知恵を出し合うことが大事になります。その文脈で、人事図書館という場を使っていただけると嬉しいですね。

スノーピークさんのまるで本物のような焚火台が置かれており、リラックスして話せる

人事図書館が「学び」より「仲間」を重視した理由

──改めて人事図書館のコンセプトを教えていただけますか。

人事図書館のタグラインは「仲間と学びで、未来を拓く」。図書館なので「学び」が先にきそうですが、「仲間」を先にしたのは理由があります。いくら学びがあっても仲間がいないと前に進みにくいけれど、仲間がいれば何とかなる、と考えているためです。

人事図書館の特徴の1つは、「みんなで知恵を出し合ってつくっている」という点です。毎週の利用者アンケートでいただいた改善点について、スタッフ全員でオープンに話し合います。

名刺交換や営業行為を禁止にして匿名制にしているのも、そのほうが、利用者が相談や議論をしやすくなると考えたため。また、この4月から「ほしい本、何でもそろえます」といったキャンペーンを始めたのも、利用者の要望がもとになっています。

「人事図書館に一度来た方にまた来たいと思ってもらうには?」「まだ来たことがない方に行ってみたいと思ってもらうには?」。この2つの問いに集中しています。

──図書館では色々なイベントが開催されていますよね。

人事向けのイベントは基本的に無料で開催していただけるので、イベントを企画したい方にも活用してもらいやすいと思います。企画が増えると、利用者の学びの機会も増えますから。

また、本には「ここまで読んだ」「ここが学びになった」などと付箋を貼るのもOKとしています。他にその本を読んでいる方の息づかいがわかるし、読書のきっかけが増えると考えているんです。

蔵書の3分の1は吉田さんの本、残り3分の1が寄贈された本、そして残りが全体のバランスを見ながら買いそろえた本だという

──利用者からの反響で印象的なものはありましたか。

みなさん、スタッフや利用者同士で交流ができると喜んでいらっしゃるようです。初対面で他の方に話しかけるのは緊張すると思うので、もっと話しかけるきっかけを増やしていきたいですね。初めて利用した方だけのイベントを企画したら良い反響がありました。

「ここに来るといいことが起こる」という体験を増やしたい

──人事図書館の今後の構想はどのようなものでしょうか。

まずは利用した方々がどんどんつながって、「ここに来るといいことが起こる」という体験をもっと増やしたいですね。コミュニティーとして、ここでのつながりから面白い企画や体験が生まれていくような仕掛けをしていきたいと考えています。

また、イベント開催中も他の方が落ち着いて本を読める空間もつくれるように、ゆくゆくはスペースを現状の4倍くらいにできればいいですね。ここ人形町は地名に「人」という漢字が入っているので思い入れがあります。この地で根を張りながら、東京の西側や大阪、名古屋、札幌、福岡にも広げてほしいという声があるので、拠点をつくっていけたらいいなと考えています。

──人事になったばかりで、「もっと学びを深めたい、成長したい」という方におすすめの本を教えてください。

1冊目は、『心理学的経営』という経営論。私が育ってきたリクルートがどんな思想のもとでつくられたのかが書かれた本です。1993年に発刊されましたが、「個をあるがままに生かす」ためのマネジメントをどう設計してきたのか、いまでもその本質は色あせず、新たな捉え方ができるのではないかと思います。

もう1冊のおすすめは、『図解 人材マネジメント入門』です。人事業務のベーシックな知識を身につけるには、まずは人材マネジメントの全体像をつかむことが大事だと考えています。この本は、人事評価や採用、人材開発などが体系的に解説されているので、構造的な理解がしやすいですし、辞書のように気になるトピックだけ読むのもアリです。

人事として成長していきたい方には、この2冊をおすすめしたいですね。

『心理学的経営』
 著者:大沢武志
 出版社:PHP研究所
 要約を読む

『図解 人材マネジメント入門』
 著者:坪谷邦生
 出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン

吉田洋介(よしだ ようすけ)

1982年生まれ。北海道札幌市出身。(株)Trustyyle代表取締役。新卒で(株)リクルートマネジメントソリューションに入社し、営業、コンサルタント、事業企画、海外事業立ち上げなどを担当し、支社長や事業責任者などを歴任。2021年に独立。これまで500社以上の採用、育成、制度、組織開発を支援。◇ ◇ ◇

flier編集部

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スノーピークさんのまるで本物のような焚火台が置かれており、リラックスして話せる

蔵書の3分の1は吉田さんの本、残り3分の1が寄贈された本、そして残りが全体のバランスを見ながら買いそろえた本だという

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