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断って正解? 「自由の女神」姿の米人気歌手が拒否した「バイデンの誘い」

ニューズウィーク日本版 2024年6月14日 13時44分

アンドリュー・スタントン
<ホワイトハウスで開催されるプライド月間イベントへの誘いを拒否したチャペル・ローン。LGBTQ+からの支持も大きい人気歌手は大統領からの招待をなぜ断ったのか>

ミュージシャンのチャペル・ローンは6月9日、ホワイトハウスで開かれるLGBTQ+プライド・イベントでの公演依頼をジョー・バイデン大統領から受けたが、これを断ったと明らかにした。

【画像】【動画】「バイデンの誘い」を拒否した「自由の女神」姿の米人気歌手

人気上昇中で、自身をLGBTQ+コミュニティの一員と位置付けるローンは9日の夕方、ニューヨークの音楽フェスティバル「ガバナーズ・ボール・ミュージック・フェスティバル」で、ホワイトハウスからプライド・イベントでの公演を依頼されたことを観客に明かした。

しかしローンは出演を断り、バイデンに要求を突き付けたという。

「プライド・イベントでの公演依頼に対する返事はこう。『私たちは全ての人の解放、公正、自由を求める。それを実現してくれれば行きましょう』」

9日の公演にローンは自由の女神の姿で登場。政治的アピールのために女神像に刻まれた詩を引用した。

「『疲れ果て、貧しさにあえぎ、自由の息吹を求める群衆を私に与えたまえ』。これはトランスジェンダーの権利における自由を意味する。これは女性の権利における自由を意味する。そして何よりも、全ての人、抑圧された人々の自由を意味する。何よりも、占領された地で抑圧された全ての人々の自由を意味する」。ローンのこの言葉に観客からは歓声が巻き起こった。

ローンの発言は、2024年の大統領選を控える中で低下し続けるバイデンの若者人気を示している。バイデンは民主党、前大統領のドナルド・トランプは共和党の大統領候補として、11月の大統領選で対決する見通しだ。

進歩主義的な立場を取る傾向が強い若い有権者の多くは、イスラエルとハマスの衝突、気候変動、経済といった課題に関するバイデンの姿勢を問題視している。

最近の世論調査には、Z世代におけるバイデンの支持率はトランプを上回るというものもあるが、若い有権者の間でのバイデンの人気のなさに警告を発しているものもある。

ローンはホワイトハウスの招きを断った際に、何を問題にしたのか具体的には明らかにしていない。しかし、イスラエルとハマスの衝突は若い有権者のバイデン支持の妨げになっている。

大統領は自らをイスラエル支持者と位置付け、イスラエルは自国をハマスから守る権利があると説く一方で、イスラエル軍に対しては民間人の死者を出さないよう対策の徹底を求めている。

2023年10月7日、パレスチナの武装勢力ハマスはイスラエルに攻撃を仕掛け、1200人を殺害。およそ250人を人質として連れ去った。

イスラエルはこれを受けてガザ侵攻を開始。ガザ保健省による発表やAP通信の報道によると、パレスチナ人3万6700人以上を殺害したとされる。その後、イスラエルの人質のうち約半数は11月の戦闘休止の間に解放された。

「Good Luck, Babe!」の楽曲で知られるローンはLGBTQ+のフォロワーが多い。LGBTQ+の権利を積極的に訴えて、ツアーではドラァグクイーンと並んでパフォーマンスしている。

ローンのコメント動画は、9日夜遅くにX(旧Twitter)で拡散された。この動画は有名ポップカルチャーアカウント@PopBaseに掲載され、10日朝までに25万回再生された。

ただし、Xユーザーの反応は賛否両論だった。ホワイトハウス公演を断ったローンを支持する声がある一方、LGBTQ+にとってはトランプが大統領になる方が悪い状況になると危惧する声もあった。

本誌はローンの広報担当者とホワイトハウスに電子メールでコメントを求めている。

進歩派の評論家で元オハイオ州上院議員のニナ・ターナーは「でかした」とコメント。

Good for her. https://t.co/GwMC9yxEqf— Nina Turner (@ninaturner) June 10, 2024

活動家のラニア・バトリスは「これこそ連帯。これこそアライシップ。パフォーマンス的なくだらないリップサービスをしている皆さんは注目を! #PermanentCeasefireNOW」と書き込んだ。

This is what solidarity looks like. This is what allyship looks like. Everyone giving performative, bullshit lip service, take note! #PermanentCeasefireNOW https://t.co/sHCefpz2OG— Rania Batrice (@RaniaBatrice) June 10, 2024

ウェブスター大学のコミュニケーション学の教授ドリアン・ハンター・デイビスは「11月の(大統領選)では2つの選択肢がある。プライド月間を認識している男と、認識していない男。それ以外の選択肢を求めても与えられない」と投稿した。

You have two choices in November: a guy who recognizes Pride Month, and a guy who doesn't. Whatever other option you're looking for, you're not gonna get. https://t.co/vc8SnvQ5IW— Dorian Hunter Davis PhD (@DorianDavis) June 10, 2024

バイデン支持派の人気アカウント@What46HasDoneは「理解不能な言葉の羅列。現政権は米国史上群を抜いてLGBT寄りの大統領だ。もし特定分野で進展がないと彼女が怒っているのなら、共和党に文句を言うべき」と投稿している。

This is unintelligible word salad. This is the most pro-LGBT Presidency is US history by a mile. If she's mad at lack of progress in certain areas, she should take it up with Republicans.— Tell Hamas - ACCEPT CEASEFIRE NOW!!! (@What46HasDone) June 9, 2024

バイデンは任期中にLGBTQ+の権利を支持すると約束。医療における差別防止対策を強化し、LGBTQ+コミュニティを教育現場での性差別を禁じた「タイトル・ナイン」の保護対象とした。

米国のLGBTQ+支援団体ヒューマン・ライツ・キャンペーンによると、バイデンは児童福祉制度の中でLGBTQ+の子供を守るプロジェクトにも取り組んでいるほか、LGBTQ+の若者の心のケアにも力を入れている。

一方のトランプは、LGBTQ+の権利に関して他の共和党の政治家よりも穏健な人物として自らを印象付けようとしており、同性婚について「問題ない」と発言したり、過去にはLGBTQ+のプライドグッズを販売したりしている。

ただトランプは、11月に再選した暁にはトランスジェンダーの若者の性別適合手術を制限する大統領令に署名すると公言している。

大統領時代のトランプは、トランスジェンダーの米軍入隊を禁止して幅広い方面の反発を招いたほか、公立学校に対してトランスジェンダーの生徒の性自認に応じたトイレ使用を求める指導を撤回させていた。

(翻訳:鈴木聖子)

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