村上尚己
<FRBは22年から金融引締めを継続してきたが、24年9月から金融緩和に転じるとみられる。歴史的な円安という日本経済にとって大きな追い風がやむ時期は着実に近づいている......>
5月GW後に本邦通貨当局が約10兆円規模の円買い介入を行ってから、為替市場においてドル円は1ドル150円台半ばで方向感なく推移している。この期間、ドル円の変動の主な材料になっているのは、米国の経済インフレ指標、そしてFRB(連邦準備理事会)の政策に対する思惑である。
ドル高円安トレンドが転換点を迎えつつ
後述するとおり、米国の要因を踏まえれば22年3月から続いたドル高円安トレンドが転換点を迎えつつある、と筆者は考えている。6月12日に、米国では5月CPI(消費者物価)とFOMC(連邦公開市場委員会)の重要イベントが重なり、それぞれのイベントをうけて米長期金利とともに、為替市場ではドル円が大きく動いた。
まず、12日米国時間の朝方に発表された、米5月CPIコアは前月比+0.2%と事前予想(同+0.3%)を下回ったが、小数点第2位では前月比+0.16%と、21年8月以来のかなり低い伸びである。内訳をみると、財価格は前月対比ほぼ横ばいが続き、更に先月まで高い伸びだった「家賃を除くサービス価格」が前月対比で小幅ながらも低下しており、これがインフレ率全体を押し下げた。
インフレ指標は単月で振れる部分もあるが、24年初に懸念された高インフレは一時的であり、米国では労働市場が安定する中で、インフレ圧力が落ち着きつつあることを示している。FRBの早期利下げ期待が強まり、米金利低下とともに1ドル157.2円付近から一時155.8円までドル安に動いた。
FRBメンバーがややタカ派化している
その後、12日午後に結果が判明したFOMCでは、予想通り政策金利は据え置かれたが、24年末の政策金利想定が5.1%と24年内の利下げが1回(0.25%)にとどまり、利下げ経路が引き上がっていることが示された。利下げ開始が年末12月にずれ込む可能性が高まり、筆者の現時点想定よりもFRBメンバーがややタカ派化していることを意味する。
実際に、FOMC後に、CPI後に円高に振れたドル円は再び157円付近まで円安ドル高に戻ってしまった。12日のドル円の値動きをみると、CPIがインフレの落ち着きを示しながらも、FRBが利下げ開始に慎重であるため、ドル高円安が今後も長引くことを示唆しているようにみえる。
確かに、FOMCメンバーが示したドットチャートの年内1回利下げとなった点では、FRBはタカ派化した。ただ年内2回の利下げを想定するメンバーが19名中8名と相応の勢力を保っており、この中にはパウエル議長ら主流派が含まれていると推測される。
パウエル議長は2%インフレへの回帰が早晩実現する、との認識
また、パウエル議長は記者会見において、9月の利下げの是非について言及は避けたが、労働市場の需給バランスが改善しており、5月のインフレコア低下を「良い数字」と評価した。今回示されたインフレ見通しについて、「保守的な想定を置いてインフレ見通しが達成できる」とも言及した。2%インフレへの回帰が早晩実現する、との認識をパウエル議長自身は抱いているとみられる。
更に、年内1回利下げ、2回利下げの意見の違いが小さい点にも議長は言及したが、FOMCメンバーの見解は、今後のインフレコアの見通しの違いがもたらしているとみられる。この予想の違いはあるが、現在5.5%の政策金利は高過ぎるため、年率2%に近いインフレが23年後半のように数か月続けば利下げが必要、との認識は多くのメンバーで共有されているということだ。
24年9月からFRBも引締めを緩めて金融緩和に転じる
要するに、FRB利下げに転じるかどうかは米国のインフレ次第である。単月のインフレ指標の予想は難しいが、今後はインフレの落ち着きが3カ月程度続く、と筆者は予想している。このため、9月会合での利下げが行われると引き続き見込んでいる。
FRBは22年から金融引締めを継続してきた。ECB(欧州中央銀行)やBOC(カナダ中銀)といった先進国中央銀行と同様に、24年9月からFRBも引締めを緩めて金融緩和に転じるとみられる。このため、為替市場における、ドル高円安のトレンドが変わるだろう。歴史的な円安という日本経済にとって大きな追い風がやむ時期は着実に近づいている、と認識する必要がある。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)
<FRBは22年から金融引締めを継続してきたが、24年9月から金融緩和に転じるとみられる。歴史的な円安という日本経済にとって大きな追い風がやむ時期は着実に近づいている......>
5月GW後に本邦通貨当局が約10兆円規模の円買い介入を行ってから、為替市場においてドル円は1ドル150円台半ばで方向感なく推移している。この期間、ドル円の変動の主な材料になっているのは、米国の経済インフレ指標、そしてFRB(連邦準備理事会)の政策に対する思惑である。
ドル高円安トレンドが転換点を迎えつつ
後述するとおり、米国の要因を踏まえれば22年3月から続いたドル高円安トレンドが転換点を迎えつつある、と筆者は考えている。6月12日に、米国では5月CPI(消費者物価)とFOMC(連邦公開市場委員会)の重要イベントが重なり、それぞれのイベントをうけて米長期金利とともに、為替市場ではドル円が大きく動いた。
まず、12日米国時間の朝方に発表された、米5月CPIコアは前月比+0.2%と事前予想(同+0.3%)を下回ったが、小数点第2位では前月比+0.16%と、21年8月以来のかなり低い伸びである。内訳をみると、財価格は前月対比ほぼ横ばいが続き、更に先月まで高い伸びだった「家賃を除くサービス価格」が前月対比で小幅ながらも低下しており、これがインフレ率全体を押し下げた。
インフレ指標は単月で振れる部分もあるが、24年初に懸念された高インフレは一時的であり、米国では労働市場が安定する中で、インフレ圧力が落ち着きつつあることを示している。FRBの早期利下げ期待が強まり、米金利低下とともに1ドル157.2円付近から一時155.8円までドル安に動いた。
FRBメンバーがややタカ派化している
その後、12日午後に結果が判明したFOMCでは、予想通り政策金利は据え置かれたが、24年末の政策金利想定が5.1%と24年内の利下げが1回(0.25%)にとどまり、利下げ経路が引き上がっていることが示された。利下げ開始が年末12月にずれ込む可能性が高まり、筆者の現時点想定よりもFRBメンバーがややタカ派化していることを意味する。
実際に、FOMC後に、CPI後に円高に振れたドル円は再び157円付近まで円安ドル高に戻ってしまった。12日のドル円の値動きをみると、CPIがインフレの落ち着きを示しながらも、FRBが利下げ開始に慎重であるため、ドル高円安が今後も長引くことを示唆しているようにみえる。
確かに、FOMCメンバーが示したドットチャートの年内1回利下げとなった点では、FRBはタカ派化した。ただ年内2回の利下げを想定するメンバーが19名中8名と相応の勢力を保っており、この中にはパウエル議長ら主流派が含まれていると推測される。
パウエル議長は2%インフレへの回帰が早晩実現する、との認識
また、パウエル議長は記者会見において、9月の利下げの是非について言及は避けたが、労働市場の需給バランスが改善しており、5月のインフレコア低下を「良い数字」と評価した。今回示されたインフレ見通しについて、「保守的な想定を置いてインフレ見通しが達成できる」とも言及した。2%インフレへの回帰が早晩実現する、との認識をパウエル議長自身は抱いているとみられる。
更に、年内1回利下げ、2回利下げの意見の違いが小さい点にも議長は言及したが、FOMCメンバーの見解は、今後のインフレコアの見通しの違いがもたらしているとみられる。この予想の違いはあるが、現在5.5%の政策金利は高過ぎるため、年率2%に近いインフレが23年後半のように数か月続けば利下げが必要、との認識は多くのメンバーで共有されているということだ。
24年9月からFRBも引締めを緩めて金融緩和に転じる
要するに、FRB利下げに転じるかどうかは米国のインフレ次第である。単月のインフレ指標の予想は難しいが、今後はインフレの落ち着きが3カ月程度続く、と筆者は予想している。このため、9月会合での利下げが行われると引き続き見込んでいる。
FRBは22年から金融引締めを継続してきた。ECB(欧州中央銀行)やBOC(カナダ中銀)といった先進国中央銀行と同様に、24年9月からFRBも引締めを緩めて金融緩和に転じるとみられる。このため、為替市場における、ドル高円安のトレンドが変わるだろう。歴史的な円安という日本経済にとって大きな追い風がやむ時期は着実に近づいている、と認識する必要がある。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)