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アメリカ、ウクライナ支援強化を宣言...10年協定もトランプ勝利なら?

ニューズウィーク日本版 2024年6月18日 17時50分

リシ・アイエンガー、ロビー・グラマー(共にフォーリン・ポリシー誌記者)
<長期の軍事支援を約束した2国間の安全保障協定で「トランプ・リスク」に負けないウクライナ支援は実現するか>

6月13~14日にイタリアで開催されたG7サミットで、アメリカはウクライナへの支援強化を宣言した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談したジョー・バイデン米大統領は、安全保障協力に関する2国間協定に署名。期間は10年。ドナルド・トランプ前大統領が再選される可能性に欧州各国が不安を募らせるタイミングで、ウクライナ軍への長期的な支援を約束したことになる。

この協定により、アメリカは今後もウクライナ軍への訓練と武器の供与を継続する。ただし重要なのは、集団防衛を定めたNATOの条約第5条と異なり、将来ウクライナが攻撃を受けた際にも、米軍の派遣が義務付けられていない点だ(攻撃から24時間以内に両国高官が協議を行うことは定められている)。

また、正式な拘束力を持つ条約ではないため、トランプがホワイトハウスに返り咲いた場合、協定から離脱する可能性も残されている。

今回の協定はさまざまな国がウクライナと締結した、または今後する予定の少なくとも31の2国間安全保障協定の1つと位置付けられる。欧米諸国は、こうした動きをウクライナへの自国の永続的なコミットメントの証しだとうたっているが、強硬なウクライナ支持者はウクライナの最終目標であるNATO加盟の代替にはならないとクギを刺す。

トランプの戦略は読めず

一連の協定には「トランプに負けない」ウクライナ支援体制を構築するという狙いもある。とはいえ、トランプが政権を奪還した場合、こうした取り決めにどれほどの効力があるかは分からない。

「10年後もロシアと戦っていたいとは誰も思っていないが、この協定の形を見れば、アメリカの関与が一時的なものだという見方は排除されるべきだ」と、米シンクタンク、ジャーマン・マーシャルファンドで米安全保障を専門とするクリスティン・ベルジーナは言う。

トランプが大統領選を制した場合、ウクライナ問題にどのようなアプローチで臨むのか、現時点では明らかになっていない。NATO加盟国の多くはウクライナ戦争を欧州安全保障の存亡を懸けた危機と見なしているが、トランプが戦略を明言しないため、アメリカの本気度に疑いの余地が残る。

トランプはウクライナ防衛の負担を増やすよう欧州諸国に迫り、欧州のNATO加盟国がGDP比2%の防衛支出目標を達成できないのなら、ロシアが「好き勝手に」振る舞っても構わないと発言した。「トランプ政権においては、条約でさえ十分な保証にはならないように思われる」と、ベルジーナは言う。

米軍は今後もウクライナに訓練や武器を提供する(ドネツク州) ALINA SMUTKOーREUTERS

一方で、注目すべき動きもある。トランプは、ウクライナへの600億ドルの軍事支援を含む大規模な追加予算案の採決を目指すマイク・ジョンソン下院議長(共和党)に異を唱えていたが、最終的には反対を取り下げた。おかげで、数カ月間停滞していた法案はようやく可決された。

「トランプを熱烈に信奉する議員やメディア関係者はアメリカのウクライナ支援の終了を訴えているが、トランプ自身はその点について沈黙を守っている」と、元駐ウクライナ米大使で、現在は米シンクタンクのアトランティック・カウンシルに所属するジョン・ハーブストは語る。「ジョンソンが支援パッケージを可決できるよう、トランプは黄信号──緑信号ではないにしても──を出した」

NATO加盟への一歩

新たな協定にはほかにもいくつかのメッセージが込められている。「特にロシアと中国に対して、どれだけの歳月がかかろうともG7の結束は揺るがないという覚悟を示す効果がある」と、戦略国際問題研究所のシニアフェロー、エミリー・ベンソンは語る。

さらに、バイデン政権が「指導力を再確認」するという意味合いもあったという。G7の直前に行われた欧州議会選挙で極右政党が躍進し、欧州のウクライナ支援が骨抜きになるリスクが浮上するなか、「安全保障を保証する追加の取り組みが期待されていた」と、ベンソンは言う。

G7首脳らは、ロシアと北朝鮮の関係強化を非難し、中国の銀行に対して、ロシアの制裁逃れを手助けすれば、欧米からの制裁がさらに強化されると警告した。

最も注目すべき点は、欧米などで凍結されたロシア資産の運用益を活用して、ウクライナに500億ドルを融資する新たな構想だろう。実施に当たっては物流面や法的な課題が残っているが、インパクトが大きく、長期的な効果が期待できる。

今回、ウクライナがアメリカや欧州諸国と結んだ安全保障協定は、ゼレンスキーが最終的に目指すNATO加盟には遠く及ばないが、それでもゴールへと向かう一歩にはなりそうだ。「この合意は、バイデン政権がウクライナのNATOへの架け橋と呼ぶものの一環だ」と、ベルジーナは言う。「具体的なステップを組み合わせることで、ウクライナのNATO加盟への準備が進むだろう」

From Foreign Policy Magazine

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