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平仮名という優れたシステムや社会格差の小ささ――日本の教育が良い結果を出す理由

ニューズウィーク日本版 2024年6月20日 18時13分

西村カリン(ジャーナリスト)
<小学生の子供2人の母親として、日本の小学校の良さは日々確認している。フランスと日本の学校教育は何が違うのか――>

義務教育修了段階の15歳を対象にしたOECD(経済協力開発機構)の国際学習到達度調査(PISA)を見ると日本の学校教育は世界トップクラスだ。PISAは3つの分野で学力を確認する調査だが、2022年の順位で日本はOECD38カ国中、数学1位、科学1位、読解力は2位。私の母国のフランスは、3分野とも20位台だ。明らかに日本の学校教育のほうが良い結果を出している。

日本の公立小学校に通う子供2人の母としても、私は日本の小学校の良さを毎日確認している。フランスの学校とは何が違うかを考察して『フランス人記者、日本の学校に驚く』(大和書房)という本を最近書いたが、ここで最も重要な点を紹介したい。

結論から言えば、日本の学校は基本的知識をきちんと教えてくれる。安定したカリキュラムと安定した教え方がその主な理由ではないかと思う。フランスでは義務教育は3歳からだが、小学校は6歳からの5年制。残念なことに小学校を卒業してもきちんと文字を読めない生徒が1割以上、文章を書く能力が不足している子供も2割ほどいる。

社会格差が1つの大きな原因だ。パリや大都市のエリート小学校もあれば、貧しい家の子供が非常に多いパリ郊外の小学校もあり、両者の子供の学力は全然違う。日本ではフランスほど学校間の格差がない。

フランスの教育は考える力を引き出す

アルファベットで書いたり読んだりするのが難しいことも理由だろう。聞いたことはあっても、どう書くか分からない。1つの発音で複数の書き方があるのでその単語を学ばない限り正しく書くことはできない。

その点、日本の平仮名は優れたシステムだ。4歳や5歳の子供で漢字が分からなくても、書きたい単語や文章が書ける。漢字の教え方も素晴らしいと思う。自分の子供に限らず、全ての子供がスイスイ漢字を覚えて書けることに驚いてしまう。

足し算、引き算、掛け算、割り算も日本の教え方のほうが良さそうだ。その半面、フランスの学校(特に中学校から)のほうが生徒の個人差を認めた上で、それぞれの考える能力、議論の能力や表現能力を引き出していると思う。

現在の日本では30人以上、場合によっては40人のクラスも珍しくないが、フランスでは生徒の人数が30人以上というのはあまり考えられない。学力の格差があるので、40人だと先生がいくら頑張ってもそれぞれの生徒のニーズに合わせた対応ができない。フランスの生徒のほうが暴れる子が多いことも1つの理由だろう。

フランスの教員はストライキの権利があるし(日本の公立学校教員は争議行為を禁止されている)、残業代も支払われる。授業に関する自由度も高い。日本の小学校では教科書に基づいて教えるのは当然なことだが、フランスの小学校1年生の教員の3割は教科書を使わずにフランス語を教える。教科書を使うかどうか、使うとしてもどの教科書にするかはそれぞれの選択だ。その点に関しては賛否両論があるけれど、自由がないなら教員になることに興味はないと思っている人がほとんどだ。

日本とフランスの共通点は、教員の平均年齢の上昇傾向と人材不足。若者にとって教員はもはや魅力的な職業ではない。日本の場合は長時間労働が主な原因であると考えられるが、フランスでは仕事の大変さに比べて給料が低いことが問題だ。社会での教員の立場も数十年前に比べれば大きく落ちてしまった。昔より尊敬されない、あるいは危険な仕事になってしまったし、生徒から暴言や暴力を受ける教員も少なくない。

今回の本で指摘したのは「フランスの教育がすごい」でも、「日本の教育がすごい」でもない。日本の学校の良いところはそのままに、改善できるところは参考にしてほしい、ということだ。

西村カリン
KARYN NISHIMURA
1970年フランス生まれ。パリ第8大学で学び、ラジオ局などを経て1997年に来日。AFP通信東京特派員となり、現在はフリージャーナリストとして活動。著書に『不便でも気にしないフランス人、便利なのに不安な日本人』など。Twitter:@karyn_nishi

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